盧諶

盧諶（ろ しん）

盧諶（285年 - 351年）は、西晋末期から五胡十六国時代にかけて活躍した人物です。字は子諒（しりょう）。後漢の儒学者である盧植（ろしょく）を先祖に持ち、名門の家柄に生まれました。その才能は早くから高く評価され、当時の社会で注目を集める存在でした。

生涯

盧諶は、西晋の尚書を務めた盧志（ろし）の長男として生まれました。若い頃からその才能は高く評価され、清廉潔白な人柄と優れた見識で知られていました。老荘思想を好み、文章にも長けていたと伝えられています。

武帝司馬炎（ぶていしばえん）の娘である滎陽公主（けいようこうしゅ）を娶り、駙馬都尉（ふばとつい）に任じられましたが、婚儀を終える前に公主が亡くなってしまいます。その後、幽州（ゆうしゅう）から秀才として推挙され、太尉掾（たいいじょう）に任じられました。

311年、永嘉の乱（えいかのらん）により洛陽（らくよう）が陥落すると、父の盧志に従って并州刺史（へいしゅうしし）の劉琨（りゅうこん）を頼り、陽邑（ようゆう）へ逃れました。しかし、312年に劉琨が前趙（ぜんちょう）の攻撃を受けると、盧諶は捕らえられ、前趙の参軍（さんぐん）に任じられました。その後、劉琨が晋陽（しんよう）を奪還すると再びその配下に戻りますが、父を含む一族は前趙によって殺害されてしまいます。

315年、劉琨が司空（しくう）となると、盧諶はその主薄（しゅはく）に任じられました。劉琨の妻が盧諶の従母であったこともあり、劉琨からは非常に親愛され、その才能と家柄から重んじられました。しかし、316年に并州司空長史（へいしゅうしくうちょうし）の李弘（りこう）が反乱を起こし、并州ごと前趙に降伏したため、劉琨は幽州を領有する段部（だんぶ）の段匹磾（だんひつてい）の下へ身を寄せ、盧諶もこれに従い別駕（べつが）に任じられました。

318年、段匹磾が劉琨を殺害すると、盧諶は劉琨の旧臣である崔悦（さいえつ）らと共に残った兵を率いて逃亡し、段匹磾と対立していた段末波（だんばつは）の下へ身を寄せました。当時、劉琨の子である劉羣（りゅうぐん）も段末波を頼っており、盧諶らは彼を主君として擁立しました。同年、段末波が東晋（とうしん）へ使者を派遣した際、盧諶も上表文を送り、劉琨の名誉回復を訴えました。その文は非常に切実であり、数年後には劉琨に太尉・侍中（じちゅう）の官位が追贈され、愍（びん）という諡号が贈られました。

東晋朝廷は盧諶を招聘し、散騎中書侍郎（さんきじゅうしょじろう）に任じようとしましたが、段末波に留められたため、南へ下ることはできませんでした。325年、段遼（だんりょう）が位を継ぐと、盧諶は右長史（うちょうし）に取り立てられました。

338年、後趙（こうちょう）が段部へ侵攻すると、盧諶は劉羣・崔悦らと共に府庫を封じてから後趙に降伏し、石虎（せきこ）から中書侍郎（ちゅうしょじろう）に任じられ、その後も重用されて国子祭酒（こくしさいしゅ）・常侍（じょうじ）・侍中（じちゅう）を歴任しました。349年に石鑑（せきかん）が即位すると、中書監（ちゅうしょかん）に任じられ、350年に冉閔（ぜんびん）が魏（ぎ）を興すと、引き続き中書監を務めました。

351年、冉閔が後趙皇帝石祗（せきし）の守る襄国（じょうこく）へ侵攻すると、盧諶はこれに従軍しましたが、冉閔軍は前燕（ぜんえん）の攻撃を受けて大敗し、盧諶も戦死しました。享年67歳。

盧諶は、生涯で『祭法（さいほう）』を著し、『荘子（そうじ）』に注釈を加えました。その文章は広く世に知られていたと言われています。

評価

盧諶は、崔悦と並び博学多芸で知られていました。書にも優れており、鍾繇（しょうよう）の書法を学び、崔悦と共に索靖（さくせい）の草書を学んだことで、その書は非常に精妙であったと伝えられています。北魏（ほくぎ）の時代においても、彼の書に匹敵する者はいなかったため、盧諶と崔悦の書は大いに重んじられました。

逸話

劉琨が盧諶に送った五言詩には、並々ならぬ思いが込められていました。盧諶は当初、劉琨とは気が合わないところもありましたが、この詩を受け取ってからは劉琨を重んじるようになり、「帝王の大志は、人臣が軽々しく口にできるものではない」と感嘆したと言われています。

子孫

盧勗（ろきょく） - 盧諶が殺害されると、東晋に帰順しました。
盧凝（ろぎょう）
盧融（ろゆう）
盧偃（ろえん） - 慕容氏（ぼようし）に仕え、営丘郡太守（えいきゅうぐんたいしゅ）に至りました。
* 盧徴（ろちょう）

盧諶の家系は、その後も北魏や東晋で官僚を輩出しました。

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