段匹磾

段匹磾（だん ひつてい）

段匹磾（生年不詳 - 321年）は、鮮卑段部の大人であり、西晋末期から東晋初期にかけて激動の時代を生きた人物です。『北史』には段疋磾と記されています。父は段務勿塵、兄は段疾陸眷、弟は段文鴦という一族構成でした。

生涯

310年10月、段匹磾は朝廷より左賢王に任じられ、その勢力を率いて各地の反乱鎮圧に奔走し、西晋を支える功績を挙げ、撫軍大将軍を授けられました。

312年12月、幽州刺史の王浚が石勒討伐の兵を挙げると、段匹磾も兄である段疾陸眷率いる5万の兵に従い、石勒の本拠地である襄国へ進軍しました。渚陽での戦いでは石勒軍の諸将を打ち破るものの、石勒が仕掛けた伏兵による奇襲を受け、大敗を喫して退却を余儀なくされました。

314年3月、石勒が薊城を攻略し王浚を滅ぼすと、寧朔将軍の劉翰が裏切り、段匹磾の下へ亡命してきたため、段匹磾は薊城を領有するようになりました。また、王浚の綏集将軍であった邵続に司馬睿（後の東晋元帝）への帰順を勧め、邵続はこれに応じて石勒から離反し、厭次ごと段匹磾に帰順しました。これに対し、石勒は8000騎を率いて邵続を包囲しましたが、段匹磾は弟の段文鴦を救援に派遣。石勒は撤退しましたが、邵続と段文鴦は追撃し、多くの官吏を捕らえ、三千家余りを移住させました。その後も騎兵を派遣して石勒の領地を脅かし、常山を襲撃して二千家余りを手に入れるなど、勢力を拡大しました。これらの功績により、段匹磾は朝廷から正式に幽州刺史に任じられ、勃海公に封じられました。

315年7月、石勒が厭次へ進攻すると、邵続は段匹磾に救援を要請。段匹磾は再び段文鴦を派遣し、石勒は軍を退きました。

316年4月、石虎が後将軍劉演の守る廩丘を攻撃すると、段匹磾は邵続と段文鴦を救援に向かわせましたが、石虎が盧関津を固めていたため、進軍できませんでした。劉演は廩丘を守り切れず、段文鴦の軍に逃げ込みました。

316年12月、劉琨が并州を失陥すると、段匹磾は以前から劉琨に使者を送り、共に晋室を助けたいと語っていたことから、劉琨を薊城に招聘しました。段匹磾と劉琨は互いに尊重し合い、婚姻関係を結んで義兄弟の契りを交わしました。

317年3月、段匹磾は劉琨と共に司馬睿を補佐することを決め、栄邵を建康に派遣。6月、栄邵は司馬睿へ帝位に即くよう勧める上奏文を奉じました。

7月、段匹磾は劉琨を大都督に推戴し、兄の段疾陸眷らに檄文を発して石勒討伐を呼びかけましたが、段末波が反対したため、計画は頓挫し、薊へ退却しました。

318年1月、段疾陸眷が病死すると、段匹磾は劉琨の嫡男である劉羣と共に段部の本拠地である令支へ向かいました。この時、段匹磾は段末波と段驎を殺害して国権を掌握しようと目論みましたが、事前に計画が露見し、段末波の反撃を受けました。段匹磾は辛うじて薊城へ逃れましたが、劉羣は捕らわれ、段末波は自ら単于を称して自立しました。以降、段末波と段匹磾は互いに攻め合うようになり、段部の部衆は離散しました。

4月、段末波は劉琨を味方に引き入れようと画策しましたが、密偵が捕らえられたことで段匹磾は劉琨を疑うようになりました。5月、段匹磾は劉琨を呼び出して劉羣の手紙を見せましたが、劉琨は潔白を主張。段匹磾は劉琨を信じようとしましたが、弟の段叔軍の進言により、劉琨を幽閉しました。劉琨の庶長子劉遵らは城に立て籠もり、段匹磾はこれを攻撃、鎮圧しました。

東晋の王敦らは劉琨の存在を快く思っておらず、段匹磾に劉琨を殺害するよう唆しました。

5月、王敦の密使が到着すると、段匹磾はかねてからの不安もあり、遂に劉琨を絞殺し、その子や甥も殺害しました。この事件により、多くの人々が段匹磾から離れていきました。

同月、段末波が段匹磾を攻撃すると、段匹磾は邵続の下へ逃走を試みましたが、石勒配下の石越に敗れ、薊城へ戻りました。

319年4月、兵士が食糧不足で四散したため、上谷へ拠点を移し、薊は後趙に占拠されました。代王拓跋鬱律が上谷を攻撃すると、段匹磾は妻子を捨てて楽陵へ逃亡し、邵続を頼りました。

320年1月、段末波の攻撃を受け、再び敗北。邵続に助けを求め、共同で段末波を破りました。段匹磾は薊を攻撃しましたが、石勒が邵続の守る厭次を包囲。邵続は石虎に捕らえられ、降伏を拒否して忠義を貫きました。段匹磾は厭次に入城し、邵続の遺志を継いで城を守りました。

6月、後趙の将軍孔萇が段文鴦の陣営を陥落させましたが、段文鴦は夜襲を仕掛け、孔萇を破りました。

321年3月、石虎が厭次に進軍し、段匹磾と戦いました。段文鴦は出撃を主張し、奮戦しましたが捕らえられ、城内の戦意は喪失。段匹磾は東晋へ逃れようとしましたが、邵続の弟である邵洎に阻まれ、石虎に降伏しました。石虎は段匹磾を襄国へ護送し、石勒は彼を冠軍将軍に任じましたが、段匹磾は臣従を拒否し、東晋の朝服を着続けました。1年後、段匹磾を主に推戴して後趙から離反しようとする計画が発覚し、段匹磾は処刑されました。

段匹磾の生涯は、激動の時代における鮮卑族の動向、西晋から東晋への移行期における政治情勢、そして個人の忠義と葛藤を描き出しています。

参考資料

『魏書』（列伝第九十一）
『晋書』（元帝明帝紀、列伝第三十三、第三十二）
『資治通鑑』（巻八十八 - 巻九十一）
『太平御覧』（巻四三五）

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