石川信吾

石川信吾

石川信吾（いしかわ しんご、1894年1月1日 - 1964年12月17日）は、大日本帝国海軍の軍人。最終階級は海軍少将。通称「不規弾」。

人物・来歴

山口県出身。攻玉社を経て海軍兵学校（42期）に入校。卒業後は砲術畑を歩む。

日本の危機

1931年、軍令部参謀時代に『日本之危機』を出版。アメリカとの戦争は不可避であると主張し、日本の満蒙占領を強く訴えた。この著書は、対米強硬論を煽り、後の太平洋戦争開戦への流れを作った要因の一つとして指摘されている。出版は海軍大臣の許可を得ていない無許可のものであった。

次期軍縮対策私見

1933年、海軍上層部へ提出した意見書『次期軍縮対策私見』では、アメリカ海軍を圧倒する超大型戦艦の建造を提唱。この意見は艦隊派の支持を得て、海軍の方針となるも、アメリカの建艦計画に対抗できず、日本は軍縮会議から脱退することになる。

政治軍人

軍令部参謀時代には、内閣書記官長の森恪と談判し、海軍予算三千万円を獲得。越権行為であったものの黙認された。この一件から森との親交を深め、1935年からはヨーロッパ視察へ。ナチス・ドイツの台頭に感銘を受け、帰国後には軍備拡張の意見書を提出。しかし、二・二六事件後には、危険人物と見なされ予備役編入の危機に晒されるも、同郷の先輩である岡敬純の尽力により、給油艦「知床」艦長として異動。その後も左遷が続いたが、東京へ頻繁に出入りし、陸軍将校や政財界人との交流を続け、「海軍きっての政治軍人」と称されるようになった。

第一委員会

1940年、及川古志郎が海軍大臣に就任すると、海軍次官に沢本頼雄、軍務局長に岡敬純を配置。さらに軍務局第二課長に石川が任命され、対米強硬派が中心となり、海軍国防政策委員会・第一委員会が組織された。1941年6月、第一委員会は、日独伊三国同盟を堅持し、南部仏印への進駐、アメリカの禁輸政策が発動された場合には即時軍事行動を行うべきという報告書を提出。石川は委員会を主導し、後に「（日本を）戦争にもっていったのは俺だよ」と発言している。

戦争中

開戦後は第二十三航空戦隊司令官として豪州攻撃に従事。有能な指揮官として部下からの人望も厚かったとされる。戦局が悪化すると高木惣吉の終戦工作を助けた。

人物

戦艦大和の最初の発案者とも言われる（異論あり）。加藤寛治、末次信正らに連なる艦隊派の人物。太平洋戦争敗戦後も「米英蘭の世界戦略が太平洋戦争の勃発を招いた」と主張し続けた。通称は「不規弾」。

石川は能弁で迫力があり、職を賭した勇気ある発言をしていた。思想は異なるものの、井上成美と対比される人物だったという。また、少佐時代には砲塔火災を身を挺して消し止め、部下から畏敬の念を抱かれていた。吉田俊雄によれば、長州内閣を作るのが夢だったという。高木惣吉は、終戦間際に石川が寺内寿一を首班とする長州内閣の成立に奔走していたと述べている。海軍が苦手としていた対外交渉に秀でており、陸軍の政治将校たちと対等に話せる稀有な存在として評価されていた。太平洋戦争初戦の日本優位時には、酒の席で「この戦争を起こしたのは俺だよ」と豪語していた。

年譜

1914年（大正3年）12月19日 - 海軍兵学校卒業
1915年（大正4年）12月13日 - 海軍少尉
1917年（大正6年）12月1日 - 海軍中尉
1920年（大正9年）12月1日 - 海軍大尉
1926年（大正15年）12月1日 - 海軍少佐
1927年（昭和2年）11月25日 - 海軍大学校（甲種25期）卒業
1932年（昭和7年）12月1日 - 海軍中佐
1936年（昭和11年）11月2日 - 給油艦「知床」特務艦長
12月1日 - 海軍大佐
1937年（昭和12年）12月1日 - 敷設艦「厳島」艦長
1938年（昭和13年）11月15日 - 横須賀軍需部総務課長
1939年（昭和14年）11月15日 - 興亜院政務部第一課長
1940年（昭和15年）11月15日 - 艦政本部出仕兼軍務局第二課長
1942年（昭和17年）6月10日 - 南西方面艦隊参謀副長
11月1日 - 海軍少将
1943年（昭和18年）1月25日 - 第23航空戦隊司令官
11月1日 - 海軍省軍務局御用掛兼軍需省総動員局総務部長
1944年（昭和19年）11月15日 - 海軍省運輸本部長兼大本営海軍戦力補給部長
1945年（昭和20年）9月30日 - 予備役編入
1947年（昭和22年）11月28日 - 公職追放仮指定
1964年（昭和39年）12月17日 - 死去

栄典

1943年（昭和18年）8月6日 - ドイツ国：ドイツ鷲勲章功労十字星章

著書

『真珠湾までの経緯 - 開戦の真相』時事通信社、1960年
『真珠湾までの経緯 - 海軍軍務局大佐が語る開戦の真相』中公文庫、2019年。解説戸髙一成

関連作品

『昭和天皇物語』 - 第113話「同盟間際、男たちは」で登場。

出典

参考文献

半藤一利『指揮官と参謀-コンビの研究』文藝春秋〈文春文庫〉、1992年。ISBN 4-16-748302-5
阿川弘之・半藤一利『日本海軍、錨揚ゲ!』PHP研究所、2003年。ISBN 4-569-66425-3
海軍歴史保存会編『日本海軍史』第9巻、発売：第一法規出版、1995年。
『提督 新見政一』同刊行会、原書房、1995年。ISBN 4-562-02696-0
戸高一成『聞き書き 日本海軍史』PHP出版、2009年。ISBN 978-4-569-70418-0
吉田俊雄『海軍参謀』文春文庫、1993年。ISBN 4-16-736005-5
吉田俊雄『四人の軍令部総長』文春文庫、1991年。ISBN 4-16-736004-7
杉本健『海軍の昭和史』文藝春秋、1982年。
秦郁彦『昭和史の軍人たち』文藝春秋、1982年。
中山定義『一海軍士官の回想』毎日新聞社、1981年。
高木惣吉『自伝的日本海軍始末記』光人社、1971年。のちNF文庫
* 福地周夫『海軍くろしお物語』光人社、1981年。ISBN 4-7698-0166-1

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