神体山

神体山とは

神体山（しんたいさん）とは、主に神道において神が宿るとされる山岳信仰の対象となる山を指します。また、「霊峰」とも呼ばれ、富士[[山]]がその代表的なものです。古くから、山は神聖な場所として畏敬され、峠や坂といった小さな峰も神域とされてきました。

神体山の概念

文化人類学のアニミズム論によれば、人類は自然の中に命や霊を感じ、山や木々にも神が宿ると考えました。日本では、特に縄文時代以前から続く古神道において、大きいものや古いものに神が宿ると考えられ、山や連峰は神の依り代とされました。この信仰が山岳信仰の始まりです。

山岳信仰は日本だけでなく世界各地に存在します。例えば、ケニアのマサイ族やキクユ族はキリマンジャロを、チベットのシェルパ族はエベレストを、中国雲南省のナシ族は玉龍雪山を、オーストラリアのアナングはウルルをそれぞれ神の山として崇拝しています。

日本では、山岳信仰の一つの形として、神奈備（かんなび）という概念があります。古くは、磐座（いわくら）や磐境（いわさか）といった岩や森も神聖視されましたが、神奈備は集落に隣接する森林を抱く山を指すようになりました。これは、鎮守の森や神籬（ひもろぎ）へと発展し、現代の神社における玉垣の原型になったとされます。また、磐座は夫婦岩などの霊石として、現在も信仰の対象となっています。

これらの古神道の信仰の場に、後に神社神道が成立し、祭神は自然そのものから人格神へと変化していきました。古代の神社の多くが神体山信仰に起源を持つと考えられており、神社の構造が「鳥居→社殿→神体山」という序列で構成されていることも、その根拠の一つとされています。また、古神道の神殿から、仏教の影響を受け「神常在思想」が生まれたという説もあります。景山春樹は、山岳信仰が祖霊信仰から始まり、自然神道的な形態に変遷し、農耕の神の観念が加わったと指摘しています。

後世には、山岳信仰は密教や禅宗、道教（陰陽道）と習合し、修験道が発展しました。修験道では、山に登拝することで、神聖な力を得ようとしました。

霊峰富士

富士[[山]]は、古くから霊峰として崇められてきました。『常陸国[[風土記]]』には、富士[[山]]の神と筑波山の神の逸話が記されています。富士[[山]]の神が宿を拒んだのに対し、筑波山の神は歓迎したため、筑波山には人が集まり、富士[[山]]は雪に覆われるようになったという話です。

平安時代の『更級日記』には、富士[[山]]の神が朝廷の人事を決めると思われていたという記述があります。また、『本朝世紀』によると、1149年に末代（富士上人）が山頂に一切経を埋納したとされ、現在もその埋納経が浅間大社に伝わっています。富士[[山]]の8合目より上は浅間大社の境内ですが、静岡県と山梨県の県境が未確定のため、土地登記はされていません。

富士[[山]]本宮浅間大社

富士[[山]]頂には富士[[山]]本宮浅間大社の奥宮があり、富士[[山]]の神と木花開耶姫命（このはなさくやひめ）を祀っています。木花開耶姫命は「火の神」ともされますが、浅間大社の社伝では火を鎮める「水の神」とされています。富士[[山]]の神が木花開耶姫命とされるようになった時期や由来は不明です。

浅間大社は、浅間造という特殊な建築様式を持ち、富士[[山]]が正面に見える位置に高く建てられています。

富士講・富士塚

江戸時代には、庶民の間で富士[[山]]への登拝が盛んになりました。これは、1[[6世紀]]後半から17世紀前半に富士[[山]]麓の人穴で修行した角行藤仏の富士信仰が起源とされます。庶民は富士[[山]]への信仰を強くし、特に江戸には富士[[山]]を遥拝するための富士塚が多数作られました。富士塚は、土を盛って作られた小さな山で、山頂には浅間神社が祀られています。富士[[山]]への参拝が困難な人々も、擬似的に登拝を体験できるようになりました。

富士[[山]]信仰の高まりを受け、江戸時代には富士[[山]]信仰を基盤とした新宗教が多数登場しました。これらの新宗教は、江戸で布教活動を行い富士講を組織しました。幕府は富士講を警戒し、たびたび禁制の町触を出しました。例えば、1774年から1849年の間に、江戸町奉行所は7回の禁制の町触を出しています。これらの新宗教は、明治期の激動を経て、現在も実行教、丸山教、扶桑教などとして存続しています。

脚注

注釈

出典

関連項目

外部リンク

* 神体山 - コトバンク

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