福昌寺 (鹿児島市)

福昌寺

福昌寺は、かつて薩摩国鹿児島郡鹿児島城下池之上町（現在の鹿児島県鹿児島市池之上町）に存在した曹洞宗の大寺院です。山号を玉龍山と称し、曹洞宗大本山總持寺の直末寺でした。この寺は、薩摩藩主島津氏の菩提寺として、長きにわたり重要な役割を果たしていましたが、明治時代の廃仏毀釈により、その歴史に幕を閉じました。

歴史

福昌寺は、応永元年（1394年）に、島津氏第7代当主・島津元久によって創建されました。開山には、同じく島津一族出身の僧であり、先に妙円寺を建てた石屋真梁が招かれました。元久の息子である梅寿が福昌寺の3世住職となったことがきっかけで、元久には後継者がいなくなり、後継者争いが発生しました。その後、代々の島津氏当主の墓が建てられるようになり、島津本宗家の菩提寺としての地位を確立しました。

天文15年（1546年）には、15代住職の忍室文勝の時代に後奈良天皇勅願所となり、その格式を高めました。江戸時代に書かれた『三国名勝図会』によると、福昌寺は南九州屈指の大寺院であり、最盛期には1500人もの僧侶がいたとされています。また、同書には福昌寺十二景と呼ばれる景勝地が存在したことも記されており、現在でも「鏡石巌」や「菅神廟」などの遺構が残っています。

江戸時代には寺領1361石を誇り、薩摩藩内で最大の石高を有していました。さらに、大分県の羅漢寺、山口県の瑠璃光寺など、北部九州、四国、中国地方、北陸地方にも末寺を持ち、その数は2000寺から3000寺に及んだとも伝えられています。福昌寺は薩摩、大隅、日向の禅宗寺院を管轄する僧録所として、寺院の人事を司っていました。また、薩摩藩の学問所としての役割も担い、島津氏から代々深く敬われ、大切にされてきました。

福昌寺の住職の中には、西郷隆盛や大久保利通の若い頃を指導した第67代住職の円了無参がいました。鹿児島市城山にある『座禅石公園』には、円了の下で西郷や大久保らが座禅を組んだとされる座禅石や、東郷平八郎が座禅石について書いた石碑が残されています。

明治時代の廃仏毀釈により、薩摩藩領内の多くの寺院が破壊されましたが、福昌寺は島津氏の菩提寺であったため、特別に残されました。しかし、島津忠義の妻である暐姫（島津暐子）が亡くなった際に、葬儀を神式で行うことになったため、福昌寺も破壊されることが決定しました。この時、歴代藩主が奉納した多くの寺宝が破壊されたり、行方不明になったりしました。この事件が、鹿児島県が文化財の少ない県である一因になったとも言われています。

キリスト教との関わり

天文18年（1549年）、フランシスコ・ザビエルが鹿児島滞在中、島津貴久によって福昌寺を宿所として利用しました。当時の住職である忍室は、ザビエルと宗教問答を行い、ザビエルが寺の前で説法することを黙認するなど、親密な関係を築いていました。ザビエルは忍室のことを書簡で激賞しています。

浦上四番崩れの際には、弾圧により捕らえられ改宗させる目的で他藩に預けられたキリシタン約4000人のうち、375人が『平穏丸』に乗せられ、明治2年（1869年）末に薩摩藩へ預けられ、廃寺となっていた福昌寺に収容されました。他地域に送られたキリシタンの扱いは酷かったのに対し、鹿児島ではキリシタンを丁寧に迎え入れました。「改宗すれば長崎に帰す」という条件で改宗を迫りましたが、福昌寺での自炊生活が許されました。その後、出稼ぎが許可され、「キリシタンぞうり」と評判になった草履作りや、島津牧場での乳しぼり、薬の竜胆丸作りなどで生計を立てました。福昌寺に収容されたキリシタンたちは、鹿児島の住民から好意的に受け入れられました。

明治5年（1872年）、外国使臣団が明治政府に対し、キリシタンを囚人扱いすることに抗議し、その結果、約3年間滞在した330人のキリシタンが長崎に帰ることができました。しかし、滞在中に病死した58人は、福昌寺跡の山手にある『キリシタン墓地』に葬られました。その後、西南戦争に連座して処刑された大山綱良の葬儀は、この浦上のキリシタンによって執り行われました。

廃寺後

現在、福昌寺跡には、歴代島津氏当主の墓地群のみが残っています。跡地には昭和26年（1951年）に鹿児島市立鹿児島玉龍高等学校が建てられました。学校の背後には、島津師久から島津斉彬までの島津氏歴代当主とその家族の墓や石灯籠、亀趺碑が並んでいます。また、長寿院盛淳や調所広郷などの墓も当時のまま残されています。山手には、歴代住職の墓地やキリシタン収容所で亡くなったキリスト教信者たちの墓地があります。

裏山の常安峰には、島津忠義、島津暐子、島津忠重らの墓である『常安墓地』があります。福昌寺跡は、昭和28年（1953年）9月7日に鹿児島県指定史跡に指定され、さらに令和2年（2020年）3月10日には国の史跡に指定されました。墓地は、地元のボランティアによって清掃活動が行われています。

廃仏毀釈後、有志によって福昌寺を再建しようとする動きがありましたが実現せず、明治31年（1898年）に、第72代住職の宝亀観道が薩摩川内市の称名寺跡地に後裔寺院である「福昌寺」を建立しました。この福昌寺の入口には、かつて鹿児島市池之上町の福昌寺にあった仁王像が移設されています。

所在地

鹿児島県鹿児島市池之上町48

交通アクセス

JR九州鹿児島本線鹿児島駅から車で5分

関連項目

妙円寺 (日置市)
鶴嶺神社
鹿児島市立鹿児島玉龍中学校・高等学校
瑠璃光寺 - かつての末寺
* 羅漢寺 (中津市) - かつての末寺

もう一度検索