福音主義教会

福音主義教会とは

福音主義教会（ドイツ語: Evangelische Kirche）は、16世紀の宗教改革において主流派となった、ルター派教会、改革派教会（カルヴァン主義）、およびその両者からなる福音主義合同教会を含む、キリスト教の教派を指します。現代では、プロテスタント諸派全般を指す言葉としても用いられます。

スイスの福音主義神学者カール・バルトは、「“福音主義の（evangelisch）”という形容詞によって思い起こさせるのは、まず新約聖書であり、同時に16世紀の宗教改革である」と述べています。

「福音主義」という名称の定着と発展

中世において、「福音的」あるいは「福音主義」（ドイツ語: evangelisch, ラテン語: evangelicus）という語は、教会批判の意味合いを帯びて使用されていました。

宗教改革期には、この語はローマ・カトリック教会を批判する際に用いられ、マルティン・ルターの教えと彼を支持する人々を指す言葉として広まりました。ルター自身は、自身にちなんだ「ルター派」という名称を拒否しましたが、「福音主義」という語を用いて自身の神学的立場を表明しました。ルターにとって「福音主義」は党派的な名称ではなく、「キリスト教的」と同義でした。これは、宗教改革の教えが聖書の福音に直接基づいているという理解に基づいています。

1555年のアウクスブルクの宗教和議によって、ルター派の基本信条であるアウクスブルク信仰告白に署名した諸侯や帝国自由都市の福音主義信仰が認められました。この信仰告白に署名しなかったカルヴァン主義派は、次第に「改革派教会」を名乗るようになり、アウクスブルク信仰告白側の勢力（ルター派）は「福音主義」という呼称を、自身を示すものとして使用しました。

教派化が進む中で、ルター派教会、改革派教会という教会組織が形成され、「福音主義教会」という呼称は、両派の上位概念として認識されるようになりました。1648年のヴェストファーレン条約締結後、福音主義という語は重要な組織概念となり、ルター派教会、改革派教会という教会名称は神聖ローマ帝国において公的に認知されました。ただし、アナバプテスト（再洗礼派）などの宗教改革急進派は、この時点では「福音主義教会」には含まれませんでした。

1817年のルター派と改革派教会の合同によって成立したプロイセン福音主義教会において、「福音主義」という語は合同教会を包括的に示すものとして用いられました。

現代のドイツ語圏においては、「福音主義」はルター派・改革派教会とその合同教会に加え、アナバプテスト、メソジスト、バプテストなど、16世紀宗教改革以降に成立したプロテスタント諸派（「自由教会」と呼ばれる）をも指す言葉として用いられています。ドイツでは教会税申告時に、ドイツ福音主義教会（EKD）に加盟している教会への所属を示すものとして「福音主義」（evangelisch）の略語である「EV」を選択します。

プロテスタントという呼称

「プロテスタント教会」という語は、1529年のシュパイアー帝国議会でヴォルムス勅令が復活したことに反対した諸侯たちの行動に由来します。しかし、当時のドイツにおいて「プロテスタント」はローマ・カトリック教会への「抗議者」「不満分子」という意味合いを持ち、ルターとその支持者にとっては不名誉な呼び名でした。

1821年、プロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世は、教会名称に関する勅令において、「プロテスタントの代わりに福音主義という名称を、プロテスタントの信者の代わりに福音主義の信者という呼び方を選ぶべきである」と述べ、プロイセン王国ではプロテスタントという語が忌避され、「福音主義教会」という名称が定着しました。

福音主義（evangelisch）と福音派（evangelikal）の違い

ドイツ語圏では、「福音主義」（evangelisch）と「福音派」（evangelikal）を区別する必要があります。「福音派」（evangelikal）は、近現代に米国・英国を中心に興った「福音派」を指し、個人の敬虔さを重視する信仰理解を特徴とします。ドイツでは、福音派（evangelikal）は自由教会だけでなく、ドイツ福音主義教会（EKD）に属する州教会にも影響を与えています。

福音主義教会の教説

福音主義教会における共通点は、宗教改革時に打ち出された「4つのソラ」に要約されます。

信仰のみ – ソラ・フィデ（Sola fide）：行いではなく、信仰によってのみ義とされる。
恵みのみ – ソラ・グラツィア（Sola gratia）：行いではなく、神の恵みによってのみ救われる。
キリストのみ – ソルス・クリストゥス（Solus Christus）：教会や教皇ではなく、キリストのみが権威を持つ。
聖書のみ – ソラ・スクリプトゥラ（Sola scriptura）：教会の伝統ではなく、聖書のみが信仰の基盤である。

ドイツ語圏の福音主義教会（狭義）の一覧

ドイツ福音主義教会
ドイツ合同福音ルター派教会
バイエルン福音ルター派教会
ブラウンシュヴァイク福音ルター派州教会
ハノーファー福音ルター派州教会
中部ドイツ福音主義教会
北ドイツ福音ルター派教会
ザクセン福音ルター派州教会
シャウムブルク＝リッペ福音ルター派州教会
福音主義合同教会
アンハルト福音主義州教会
ベルリン＝ブランデンブルク＝シュレージシェ・オーバーラウジッツ福音主義教会
バーデン福音主義州教会
ブレーメン福音主義教会
ヘッセン＝ナッサウ福音主義教会
クーアヘッセン＝ヴァルデック福音主義教会
プファルツ福音主義教会
福音主義改革派教会
リッペ州教会
ヴェストファーレン福音主義教会
ラインラント福音主義教会
ヴュルテンベルク福音主義州教会
オルデンブルク福音ルター派教会
オーストリア福音主義教会アウクスブルク信仰告白派
オーストリア福音主義教会ヘルヴェティア信仰告白派
スイス福音主義改革派教会

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