福音主義神学

福音主義神学とは

福音主義神学（Evangelische Theologie）は、宗教改革によって生まれたルター派や改革派教会に深く根ざした学問分野です。この神学は、単に教義を伝えるだけでなく、歴史的、文献学的な手法を用いて聖書を深く読み解き、教会の活動を支え、さらには社会におけるキリスト教の役割を問い続ける、多角的な学問です。

カール・バルトによる定義

カール・バルトは、福音主義神学を「新約聖書、そして16世紀の宗教改革に思いを馳せる」ものと定義しました。また、「福音の」「福音書に基づく」という意味を持つドイツ語の「evangelische」が、宗教改革に由来する「新教の」「福音主義の」という意味を持つことを指摘しています。マルティン・ルターが聖書の再読を通して福音を再発見したことが、宗教改革へと繋がったように、福音主義神学は歴史的な出来事と密接に結びついていると言えるでしょう。

福音主義神学の主旨

福音主義神学は、歴史学や文献学の手法を用いて聖書を解釈するだけでなく、心理学、社会学、教育学など、他の人文科学の知見も取り入れながら、実践的な神学を展開します。さらに、キリスト教の信仰や倫理といった根源的な問いを探求し、哲学や自然科学との対話を重ねています。この学問は、牧師を目指す学生に理論的な知識を教えることで教会に貢献する一方で、教会を批判的に見つめ、単なる教導職に甘んじない姿勢を持ち合わせています。ドイツ語圏の福音主義神学が神学校ではなく、国立大学の神学部で研究されるのは、こうした理由があるからです。

ドイツ語圏の代表的な福音主義神学者

フリードリヒ・シュライアマハー、アルブレヒト・リッチュル、エルンスト・トレルチ、アドルフ・フォン・ハルナック、アルベルト・シュヴァイツァー、パウル・ティリッヒ、カール・バルト、エミール・ブルンナー、ルドルフ・ブルトマン、ディートリヒ・ボンヘッファー、エーバーハルト・ユンゲル、ユルゲン・モルトマン、ドロテー・ゼレなど、近現代のドイツ語圏では多くの著名な福音主義神学者が輩出されています。

福音主義神学部での学習課程

福音主義神学部では、まず基礎課程においてヘブライ語、古典ギリシア語、ラテン語の習得が求められます。また、旧約聖書学、新約聖書学、教会史、組織神学、実践神学といった主要な分野を学びます。学生はゼミナールや演習を通じて講義内容を深め、神学研究の方法論を習得します。さらに、哲学や歴史学など、関連分野の講義も受講し、広い視野を養います。

本課程では、基礎課程で得た知識をさらに深め、独自のテーマを見つけて研究を進めます。教会共同体での実習も組み込まれており、牧師としての実践的な経験を積むことができます。研究発表やゼミナールでの議論を通じて、神学的な知識を深め、自身の立場を確立することが求められます。

福音主義神学部の課程を修了するためには、第1次神学試験に合格するか、ディプロームを取得する必要があります。その後、修士号に相当するマギステルを得ることも可能です。また、牧師を目指す場合は、教会共同体での実習を経て、第2次神学試験に合格することで、牧師任用資格を得ます。一部の牧師補は、神学博士号の取得を目指し、研究活動を続けます。

福音主義神学部の歴史

福音主義神学は、16世紀の宗教改革において、マルティン・ルター、フルドリッヒ・ツヴィングリ、フィリップ・メランヒトン、ジャン・カルヴァンらによって発展しました。「信仰のみ」という義認の教えや、「聖書のみ」を啓示の源泉とする原則は、この神学の核心です。西方教会は、宗教改革によってルター派、改革派、ローマ・カトリック教会に分裂しましたが、聖公会は中庸な立場を取りました。

17世紀から19世紀にかけて、敬虔主義や啓蒙主義の影響を受け、福音主義教会は批判的な視点にさらされました。ヘーゲルやシュライアマハーなどの思想家は、福音主義神学に大きな影響を与えました。また、ルター派と改革派の合同教会であるプロイセン福音主義教会の設立は、福音主義神学の発展における重要な出来事でした。

教派と神学部

ドイツ語圏の神学教育機関は、19世紀初めまでルター派と改革派に分かれていました。現在でもオランダや北欧諸国には、それぞれの教派に特化した神学部が存在します。一方、イングランドとスコットランドでは、神学は独自の発展を遂げてきました。カトリック系の大学では、一部の例外を除き、福音主義神学に関する講義や演習は行われていません。

ドイツ語圏では、大学入学前の教育機関でも古典語教育が重視されており、大学進学準備のための学校が存在します。大学神学部での講義や論文は、18世紀までラテン語で行われていました。

ドイツ語圏の福音主義神学部

ドイツには、ベルリン・フンボルト大学、ボーフム大学、ボン大学、エアランゲン大学、フランクフルト大学、ゲッチンゲン大学、グライフスヴァルト大学、ハレ・ヴィッテンベルク大学、ハンブルク大学、ハイデルベルク大学、イエナ大学、キール大学、ライプツィヒ大学、マインツ大学、マールブルク大学、ミュンヘン大学、ミュンスター大学、ロストック大学、テュービンゲン大学、ヴッパータール・ベーテル神学大学、ノイエンデッテルザウ神学大学などの福音主義神学部があります。

スイスには、チューリヒ大学、バーゼル大学、ベルン大学に、オーストリアにはウィーン大学に福音主義神学部が存在します。

福音主義神学部の研究組織

福音主義神学部は、旧約聖書学、新約聖書学、教会史、組織神学、実践神学、宗教学の各部門に分かれて研究と教育を行います。テュービンゲン大学の例では、各部門に複数の講座が設けられ、それぞれの分野の専門家が研究と教育にあたっています。

これらの情報から、福音主義神学は単なる宗教的な教えではなく、歴史的、学術的な探求を伴う複雑な学問分野であり、教会だけでなく社会全体に貢献する重要な役割を担っていることが理解できます。

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