紀古佐美

紀古佐美：文武両道に秀でた公卿の生涯

紀古佐美（きのこさみ）は、奈良時代後期から平安時代初期にかけて活躍した、名門紀氏の出身である公卿です。大納言紀麻呂を祖父、従三位紀飯麻呂を父に持ち、その出自は、彼が朝廷において重要な役割を担うことを予感させます。最終官位は正三位大納言、没後に従二位を追贈されました。勲四等にも叙せられています。

彼の経歴は、藤原仲麻呂の乱終結後の天平宝字8年（764年）従五位下への叙爵から始まります。その後、丹後守や兵部少輔、式部少輔、伊勢介、右少弁など、多彩な官職を歴任し、着実に朝廷での地位を築き上げていきました。光仁朝においては、文官としての才能を発揮したことがうかがえます。

宝亀11年（780年）には従五位上に昇進しますが、同年、陸奥国で伊治呰麻呂が反乱（宝亀の乱）を起こすと、古佐美は征東副使として東国へ赴き、乱の鎮圧に貢献します。この功績により、従四位下へ三階昇進し、勲四等を受賞しました。この出来事は、彼の武人としての側面も示す重要な出来事と言えるでしょう。

桓武朝に入ると、古佐美は左兵衛督や中衛中将といった武官の要職を歴任する一方、左中弁や式部大輔など文官としての地位も盤石なものにしていきます。延暦4年（785年）には、ついに参議に任命され、公卿の仲間入りを果たします。さらに、安殿親王（後の平城天皇）の春宮大夫に任ぜられ、その後右大弁、左大弁と要職を歴任、文武両道の才能を朝廷で遺憾なく発揮しました。

延暦7年（788年）には征東大将軍に任じられ、蝦夷征討に向かいます。しかし、延暦8年（789年）の巣伏の戦いにおいて、蝦夷の抵抗に遭い大敗を喫します。この敗戦は、兵站の困難さや兵糧の不足といった問題点を浮き彫りにし、古佐美は朝廷から厳しい叱責を受けました。責任を問われるも、これまでの功績が考慮され、処断は免れています。この経験は、古佐美のキャリアにおいて大きな転換点となりました。軍事的な才能と政治的な手腕、両面での限界を露呈したと言えるでしょう。

敗戦後も、古佐美の朝廷における地位は揺らぐことはありませんでした。延暦9年（790年）には正四位上、延暦12年（793年）には従三位、そして延暦13年（794年）には正三位・中納言に昇進。延暦15年（796年）には右大臣藤原継縄の死後、大納言に任ぜられ、太政官の首班に立ちます。平安京遷都の際には、藤原小黒麻呂と共に土地の視察を行うなど、国家の中枢で重要な役割を果たしました。

延暦16年（797年）4月4日、享年65歳で亡くなりました。没後には従二位を追贈されています。紀古佐美の生涯は、文武両道に秀でた人物として朝廷に仕え、数々の重要な役割を担った、波瀾万丈な人生であったと言えるでしょう。蝦夷征討での敗北という汚点も残しつつも、その後の活躍は、彼の能力の高さと朝廷からの信頼の厚さを示しています。彼の功績は、日本の歴史において重要な位置を占めています。

系譜・官歴等

古佐美の父は紀宿奈麻呂、母は不明です。妻や子息についても詳しい記録は残されていませんが、紀広浜や紀末成といった子息がいたとされています。また、宇都宮氏家臣の益子氏は、古佐美の子孫を称していると言われています。彼の詳細な官歴は『六国史』などに記載されています。

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