脾腫

脾腫（ひしゅ）

脾腫は、腹部の左上、肋骨の下に位置する臓器である脾臓が、通常よりも大きくなった状態を指します。この状態は「巨脾症（きょひしょう）」とも呼ばれることがあります。

一般的に、病名に用いられる「○○腫」という言葉は、細胞が異常に増殖して塊を形成する「腫瘍」、すなわち新生物を意味することが多いのですが、脾腫の場合はこれとは異なります。脾腫は、腫瘍性の増殖によるものではなく、単に脾臓のサイズが増大した状態全般を指す言葉です。したがって、脾腫と診断されても、それが必ずしも悪性腫瘍を意味するわけではありません。

脾臓の役割と脾腫が発生するメカニズム

脾臓は、私たちの体内で免疫機能において重要な役割を担っています。血液中の古い赤血球や血小板を処理したり、病原体に対する抗体を作ったり、リンパ球を成熟させたりするなど、様々な働きをしています。脾臓が腫大する主な理由は、こうした免疫に関連する機能が過剰になったり、本来とは異なる働きを担うようになったりするためです。

具体的には、以下のようなメカニズムで脾腫が発生することが考えられます。

1. 免疫反応の亢進: 体内に侵入した細菌やウイルスなどの感染症、あるいは自己免疫疾患などによって免疫システムが活発に働きすぎると、免疫細胞が多く集まる脾臓が大きくなります。
2. 血流の問題: 脾臓から流れ出る血液は、最終的に門脈という血管に合流します。肝硬変などが原因で門脈の圧力が異常に高まる「門脈圧亢進症」が生じると、脾臓からの血流が悪くなり、血液がうっ滞して脾臓が腫大します。
3. 造血機能の代替: 血液を作る機能は主に骨髄で行われますが、骨髄の機能が低下したり異常が生じたりした場合（例えば骨髄線維症など）、脾臓がその役割を代行しようとして、血液細胞を作る場（髄外造血）となることがあります。この代償的な働きによって、脾臓が著しく大きくなることがあります。
4. 細胞の蓄積: 特定の遺伝性代謝異常症などでは、分解されるべき物質が脾臓内に蓄積し、その結果として脾臓が腫大することがあります。
5. 異常細胞の浸潤: 白血病やリンパ腫などの血液がんにおいて、異常な細胞が脾臓に浸潤・増殖することで脾臓が大きくなることがあります。

発見と症状

健康な状態の脾臓は、体の奥深く、肋骨に守られる位置にあるため、通常は外部から触れて確認することはできません。しかし、脾腫によって脾臓が大きくなると、お腹の表面から触知できるようになることがあります。

ただし、脾腫自体による自覚症状は少ないことがほとんどです。脾臓が非常に大きくなった場合には、周囲の臓器を圧迫することによる腹部の膨満感や不快感、食欲不振などを感じることがありますが、多くの場合、患者さんが脾臓の腫れを自覚して医療機関を受診することは稀です。したがって、脾腫は、健康診断や他の病気（例えば肝臓病や血液疾患など）のために行われた診察や画像検査（超音波検査、CT検査など）の際に、偶然発見されるケースがほとんどです。

脾腫の主な原因となる病気

脾腫は様々な病気や状態によって引き起こされます。主な原因としては以下のようなものが挙げられます。

循環器・血管系の病気: 門脈圧亢進症（肝硬変や脾静脈の血栓など）
感染症: ウイルス性（伝染性単核球症、馬伝染性貧血、アフリカ豚熱、ミンクアリューシャン病など）、細菌性（サルモネラ症、豚丹毒、炭疽など）、寄生虫性（アナプラズマ症、ヘモバルトネラ症、鶏チフスなど）
血液・骨髄の病気: 白血病、骨髄増殖性疾患（真性多血症、本態性血小板血症、骨髄線維症 - 特に著明な脾腫を呈しやすい）、溶血性貧血、先天性赤血球異形成貧血、リンパ腫など
自己免疫疾患: 全身性エリテマトーデスなどの膠原病、成人スティル病、フェルティ症候群など
* 代謝性疾患・遺伝病: ゴーシェ病、ニーマン・ピック病、スフィンゴミエリン症など、特定の物質が脾臓に蓄積するもの（主に小児期に見られます）

獣医学の分野では、地方病性牛白血病のように、非常に巨大な（10kgを超えるような）腫瘍性の脾腫が発生する特定の動物の病気も知られています。

このように、脾腫は多様な原因によって発生する非特異的な状態であり、脾腫が発見された場合には、その背景にある疾患を特定するための詳しい検査が必要となります。

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