茨城観光自動車

茨城観光自動車（茨観）の歴史と終焉

茨城観光自動車株式会社（以下、茨観）は、茨城県土浦市に本社を構え、バス事業を中心に多角的な事業を展開していた企業です。通称「茨観（いばかん）」として地域住民に親しまれていました。第二次世界大戦後の1946年、創業者である先代社長が、3台の軍用トラックを改造し、土浦 - 龍ケ崎間の乗合バス事業を無認可で開始したことがその始まりです。

茨城県南地域における路線展開

茨観は、土浦市を中心に、牛久市、龍ケ崎市、つくば市、稲敷市、阿見町など、茨城県南西部に路線網を広げました。土浦駅、牛久駅、佐貫駅などをターミナルとし、地域住民の足として重要な役割を果たしました。茨観は、京成グループの関東鉄道（関鉄）、東武鉄道、旧国鉄・JR東日本といった大手交通事業者に囲まれながらも、これらの傘下に入ることはなく、独立した経営を維持し続けました。

しかし、茨観は経営難に陥り、創業から約半世紀後の2001年にバス事業を廃止。翌2002年には法人格が消滅しました。これは、地域交通に大きな影響を与える出来事でした。

路線展開の難しさ

茨観の路線は、地域最大手の関東鉄道の営業エリアと重なる部分が多く、路線の面的展開は非常に難しい状況でした。しかし、一部の路線では関鉄と共同運行を行い、地域住民の利便性を確保していました。例えば、「土浦 - 野田団地 - つくばセンター線」や「牛久浄苑線」は、茨観が最初に開設し、後に関鉄が引き継いだ路線です。また、牛久市みどり野団地方面や龍ケ崎ニュータウン各線は、茨観と関鉄が共同で運行していました。

一方で、筑波研究学園都市の研究所アクセス路線を持つことはなく、学園都市中心部への乗り入れは実現しませんでした。このため、つくば市域では、学園地区を避けるように、従来の農村地域を主な需要とするローカル幹線が運行されていました。「第二本線」と呼ばれた「上郷線」は、学園都市の発展に旧道の経路が合わず、つくばセンターバスターミナルからわずか1kmの地点まで迫りながらも乗り入れが認められず、末期は経営が苦戦しました。

一時的に、学園南大通り・学園西大通りを発着する系統を設けて都市型系統としての活性化を試みましたが、郊外の盲腸線では効果がなく、短期間で縮小を余儀なくされました。

茨観の乗合バス廃業は、牛久市東部、つくば市中西部、稲敷市の一部に広大な交通空白地帯を生み出し、これらの地域ではコミュニティバスや乗合タクシーが代替交通手段となっています。

事業所

茨観は、複数の事業所を有していました。

本社営業所: 茨城県土浦市桜町に位置し、業務企画全般、タクシー配車、不動産、観光サービスを行っていました。
下高津営業所（通称：土浦営業所）: 茨城県土浦市下高津にあり、運行管理事務所、工場、路線バス、貸切バス、タクシー車庫を併設していました。
奥野事務所（通称：正直車庫）: 茨城県牛久市正直町に位置していました。
龍ケ崎営業所: 茨城県龍ケ崎市馴馬町にありましたが、後に廃止されました。

沿革

茨観の歴史は以下の通りです。

1946年（昭和21年）: 羽富自動車として、土浦 - 龍ケ崎間で3台のバスによる運行を開始（無認可）。
1949年（昭和24年）5月: 茨城観光自動車設立。当初は貸切バス事業免許を取得。
2001年（平成13年）5月13日: ダイヤ改正を実施。
2001年（平成13年）6月1日: 全路線を廃止。
2002年（平成14年）5月: 会社清算。

会社清算に至るまで

2001年 5月23日、茨城新聞の一面に「茨城観光自動車が廃業」という大見出しの記事が掲載され、茨観の経営危機が表面化しました。社長は赤字路線の拡大が原因であるとコメントしましたが、実際には不動産事業の失敗が経営破綻の大きな要因であったとされています。

末期には、運輸省による経営改善指導により路線廃止が相次ぎ、社員の退職によって龍ヶ崎ニュータウン線が運行不能となる事態も発生しました。共同運行相手の関鉄が急遽、社員と車両を動員して運行を確保しました。

茨観の経営陣が姿を消し、労働組合が窓口となって陸運支局、茨城県庁、沿線市町村と協議を重ねましたが、協議は難航しました。上郷線の廃止が決定した際、他の観光バス会社が路線バス事業への参入を希望しましたが、同路線の利用客減少と人件費の高さから存続を断念。一方で、牛久や龍ケ崎ニュータウンなどの収益性の高い路線は多くの会社から注目され、労働組合主導で新会社設立も検討されましたが、法律の壁は厚く、既存の2社（関東鉄道、ジェイアールバス関東）への移管が決まりました。

茨観は営業権を放棄することになりましたが、廃業日までの1年間は労働組合による自主運営が行われました。しかし、経営陣の一人がタクシー部門を分離独立させたことが倒産とみなされない理由となり、2001年10月末に廃業、2002年 5月に会社が法的に消滅しました。

従業員の再雇用先として関東鉄道が内定していましたが、同社の合理化に伴い、関鉄観光バスへ変更されました。しかし、多くの従業員が再雇用を拒否し、自主的に再就職の道を選びました。廃業まで2年前から関係省庁と協議が続けられてきましたが、前例のない公共交通機関の廃業は影響が大きく、運輸省や茨城県庁も対応に苦慮しました。その間、従業員は無給に近い状態で働き続け、未払い賃金などの労働債権回収のため、廃業後も一部の組合役員が1年間活動を続けました。

乗合バス事業

茨観は、土浦市、つくば市、龍ケ崎市、牛久市、阿見町、美浦村、旧江戸崎町、旧石下町、旧千代川村、下妻市（期間限定）に路線バスを運行していました。しかし、免許制であったことと、地域最大手である関東鉄道の営業エリア内であったため、面的な展開は図られず、土浦・正直車庫を中心とした放射状の路線網でした。正直車庫前停留所では、乗り継ぎ制度も設けられていました。

石下駅や江戸崎などでは、他社とは異なる場所に乗降場を設けており、石下駅停留所には駅前広場の向かい側に待合所がありました（現在は閉鎖）。

主な廃止路線

以下は、茨観が運行していた主な廃止路線です。

土浦市内循環線
島田線
下吉原線
柴崎線
木原線
石下線
百家線
高須賀線
川口町経由石下線
福田スクール線
江戸崎線
みどりの線・女化農協線
急行・牛久アケーディア線
NT城ノ内線
牛久市内循環線

廃業時点の路線

以下は、茨観が廃業した時点で運行していた路線です。

下高津営業所（土浦）
龍ケ崎線（第一本線）
福田線
正直線
ひたち野うしく線
牛久市内循環線
牛久総合福祉センター線
美浦村循環線
君ケ小スクール線
上郷線（第二本線）
常総学院スクール
奥野事務所（正直車庫）
龍ケ崎線
江戸崎線
正直線
鹿ケ作線
牛久浄苑線
栄町循環線
愛和病院線
女化線
みどりの線
第14次線
女化農協線
東洋高校スクール線
県立牛久スクール線
NT長山線
NT久保台線
NT龍ケ岡線
（特定）龍ケ崎福祉バス

車両

茨観では、主に日野自動車製の車両が使用されていました。スケルトンボディへの移行後は、いすゞ製の富士重工業5Eボディと三菱ふそう製の車両も採用されました。路線車の塗装は、初期を除いて基本的に水色系でしたが、龍ケ崎ニュータウン線専用には独自塗装も存在しました。

エンブレムは、創業者の姓である羽富から取られた鳩の羽をモチーフとしていました。

茨観の路線バスの方向幕は、相互式を除き、「牛久駅行」「上郷行」のように終着地名に「行」をつけて表示する特徴がありました。

関連会社

茨観には、以下の関連会社がありました。

茨観タクシー: 茨城観光自動車タクシー部が分社化。
茨観トラベルサービス: 貸切課の営業部門。
茨観商事: グループの不動産会社。
八洲商事: BMW正規代理店（後にモトーレンつくばへ営業譲渡）。
宇田川コーポレーション: 県内最大手石油販売会社（主要取引先）。

茨城観光自動車