藤原蔵下麻呂

藤原蔵下麻呂（ふじわら の くらじまろ）は、奈良時代に活躍した公卿です。天平6年（734年）に生まれ、宝亀6年（775年）に42歳で亡くなりました。藤原式家の祖である藤原宇合の九男として生まれ、官位は従三位、参議にまで昇りました。

経歴

蔵下麻呂は、孝謙天皇の時代に内舎人、出雲介を歴任し、天平宝字2年（758年）には、山陽道問民苦使として民情視察の任務に就きました。淳仁天皇の時代には、少納言に任ぜられ、備前守として地方行政にも携わりました。備前守への異動は、当時山陽道で発生していた旱魃による食糧難に対応するため、藤原仲麻呂によって行われた人事異動の一環でした。

天平宝字8年（764年）に起こった藤原仲麻呂の乱では、蔵下麻呂は討賊将軍として、孝謙上皇軍を率いて近江国へ逃れた仲麻呂軍を討伐しました。特に、近江国高島郡三尾崎での戦いでは、膠着状態にあった戦況を、蔵下麻呂の援軍によって上皇軍優位に傾け、仲麻呂軍を全滅させる大きな功績を挙げました。この功績により、蔵下麻呂は従五位下から従三位へと一挙に昇進し、藤原式家の中で最も早く公卿の地位を得ました。乱後には、廃位された淳仁天皇を淡路へ護送する役目も務めました。

天平神護元年（765年）には、前年の乱の功績により勲二等を叙勲されました。その後、授刀衛が改組された近衛府の長官である近衛大将に任命され、称徳天皇の信任を得ていたことが伺えます。神護景雲元年（767年）には、伊予国・土佐国二国按察使となり、地方の監察にも携わりました。

称徳天皇の崩御後、皇位継承をめぐり、蔵下麻呂は、白壁王（後の光仁天皇）を擁立する協議に、参議未満の身でありながら参加しました。これは、近衛府の武力を背景とした軍事面での責任者としての参加と考えられています。この際、藤原宿奈麻呂が、文室浄三・大市兄弟を擁立する吉備真備に対抗するために、武功があった蔵下麻呂を擁立派に引き入れたとする見方もあります。同年9月には兵部卿を兼任し、宝亀2年（771年）には、皇太子となった他戸親王の春宮大夫も兼ねました。しかし、翌年には他戸親王の母である井上皇后が天皇を呪詛したという嫌疑を受け、他戸親王が廃太子となってしまいます。蔵下麻呂は、大宰帥に遷った後、宝亀5年（774年）に参議に任ぜられ、式家主導体制が全盛期を迎える上で重要な役割を果たしました。

宝亀6年（775年）に42歳で亡くなり、最終的な官位は参議、大宰帥、従三位でした。

官歴

蔵下麻呂の主な官歴は以下の通りです。

天平勝宝3年（751年）：内舎人
天平勝宝7歳（755年）：従六位上、出雲介
天平宝字2年（758年）：山陽道問民苦使
天平宝字7年（763年）：従五位下、少納言
天平宝字8年（764年）：備前守、従三位、右兵衛督
天平神護元年（765年）：勲二等、近衛大将
神護景雲元年（767年）：伊予土佐二国按察使、近衛大将、左京大夫
宝亀元年（770年）：兵部卿
宝亀2年（771年）：春宮大夫、大宰帥
宝亀5年（774年）：大宰帥、参議
宝亀6年（775年）：薨去（参議大宰帥従三位）

系譜

父は藤原宇合、母は佐伯徳麻呂の娘です。妻は粟田馬養の娘である粟田廉刀自で、複数の子をもうけました。

次男：藤原縄主
五男：藤原綱継
長男：藤原宗継
九男：藤原浄本
その他：藤原清縄、藤原姉子、藤原真友室

まとめ

藤原蔵下麻呂は、奈良時代において、武人、官僚として活躍した人物です。藤原仲麻呂の乱での功績は大きく、その後の政界での活躍にも繋がりました。また、皇位継承問題にも関与するなど、当時の政治情勢を語る上で欠かせない人物と言えるでしょう。

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