藤堂氏

藤堂氏

藤堂氏（とうどうし、とうだうし）は、近江国犬上郡藤堂村（現在の滋賀県犬上郡甲良町在士）を発祥とする日本の氏族で、武家であり華族でした。戦国時代に藤堂高虎が現れ、江戸時代には津藩を領する外様大名となり、維新後には華族の伯爵家に列しました。

出自

藤堂氏の出自については、複数の説が存在します。一説によれば、近江国愛智郡に住む郡司の家系が、犬上郡藤堂村に移住した際にその地名を名字としたとされています。具体的な説としては、以下のものがあります。

中原朝臣説: 『歴名土代』や『華族類別録』に記述されています。
宇多源氏佐々木氏族説: 『輿地志略』に記述されています。
平朝臣説:『中興系図』に記述されています。
藤原朝臣説: 『寛政重修諸家譜』に記述されています。

『歴名土代』によれば、文明年間に藤堂景長が美作守に任ぜられ、中原朝臣を称したとされています。また、藤堂高虎が近衛信尋と親しかったことから、藤原氏を称したという説もあります。『寛政重修諸家譜』では、藤原三河守景盛が足利将軍に仕え、近江国犬上郡の数村を支配して藤堂と称したのが始まりとされています。明治9年（1876年）には、藤堂高潔が宮内省に中原姓への復姓を申し出て、翌明治10年（1877年）1月に許可されました。これにより、藤堂氏は宗族制において天武天皇皇子舎人親王の曾孫中原長谷の子孫である中原朝臣の後裔とされています。

歴史

室町時代～安土桃山時代

藤堂氏の初代である藤堂三河守景盛は、公家の広橋兼宣に仕える侍でした。景盛の流れを汲む公家侍藤堂氏は、古記録に度々登場しており、京都にも拠点を置く有力者でした。康正年間には、京極持清の被官に藤堂氏が現れ、1456年（康正2年)7月26日に行われた足利義政の拝賀では、京極勝秀の隊列に藤堂九郎左衛門の名を見ることができます。文明から明応にかけては、『蔭涼軒日録』に京極材宗の側近として藤堂備前守が度々登場します。また、永禄年間には浅井長政から私領を安堵された藤堂九郎左衛門が存在しました。

戦国時代の当主である藤堂高虎は、浅井氏、阿閉氏、磯野氏、織田氏、豊臣氏、徳川氏と主君を次々と変えながらも、大大名へと出世したことで知られています。賤ケ岳の戦いや紀州征伐、九州征伐、朝鮮出兵などで戦功を重ね、豊臣秀吉政権下で伊予国内に8万石を領する宇和島城主となりました。

江戸時代

豊臣秀吉の死後、高虎は徳川家康に接近し、関ヶ原の戦いと大坂夏の陣での戦功により加増を重ね、最終的に伊勢国津藩（表高32万3900石）を手に入れました。1608年（慶長13年）に津へ移封されてからは、廃藩置県まで転封はなく、津は藤堂家の世襲による支配が続きました。歴代藩主は、大大名が受ける従四位下の官位と、和泉守や大学頭などの官職を受けました。将軍の偏諱を受けることはありませんでした。1669年（寛文9年）には、津藩主藤堂高久が弟の高通に5万石（伊勢国久居藩）、高堅に3000石を分与しています。

王政復古後の鳥羽・伏見の戦いでは、津藩軍が旧幕府方から官軍に寝返り、旧幕府方に砲撃を加えたことで、俗説では「津藩は藩祖（藤堂高虎）の教えをよく受け継いでいる」と称されたと言われています。維新後には、戊辰戦争の戦功として政府より2万3000石の賞典禄が下賜されました。

明治時代以降

最後の津藩主である藤堂高猷は、1869年（明治2年）の版籍奉還で津藩知事に転じ、その息子の藤堂高潔の代の1871年（明治4年）に廃藩置県を迎えました。版籍奉還の際に定められた家禄は現米で1万2427石でした。明治9年の金禄公債証書発行条例に基づき、家禄・賞典禄と引き換えに支給された金禄公債の額は41万6788円90銭5厘（華族受給者中15位）でした。明治14年時の高潔の住居は、東京市本所区本所横綱町にありました。当時の家扶は塩田重弦でした。

華族令施行後の1884年（明治17年）7月7日に、高潔は旧藩知事として伯爵に叙されました（旧津藩は現米12万4270石と政府に申告していたため、現米5万石以上15万石未満の中藩に該当）。分家にあたる旧久居藩主家の藤堂高義は、同年7月8日に旧小藩知事として子爵に列しました（現米2万3240石で現米5万石未満の小藩に該当）。また、藤堂氏には高虎の子孫である津藩藩主家と支藩のほか、高虎の兄弟と高虎養子・高吉の子孫である連枝（名張藤堂家。津藩一門家臣として1万5000石を知行）が存在していました。この家も、旧万石以上陪臣家の叙爵が始まっていた明治39年に、当時の当主藤堂高成が男爵に叙されています。

本家の藤堂伯爵家の高潔は、侯爵に叙されなかったことに不満を持ち、侯爵への陞爵運動を盛んに行いました。明治25年、明治27年、大正4年、昭和3年と4度にわたって陞爵請願書を提出し、現高12万4720石の申告は正確ではなかったと弁明しましたが、いずれの申請でも認められず伯爵家のままでした。

高潔の跡を継いだ高紹伯爵は、天皇の勅許を得ていた北白川宮家の武子女王との婚約を辞退するという不祥事を起こし、華族の体面を汚したとして華族礼遇停止処分を受けました。

昭和前期には、藤堂伯爵家の邸宅は東京市中野区小滝町、藤堂子爵家の邸宅は東京市本郷区駒込林町、藤堂男爵家の邸宅は東京市中野区小滝町にありました。

2018年現在、高虎の末裔には、女子競艇選手の藤堂里香、お笑い芸人のゆってぃ（本名・藤堂雄太）、チュラロンコン大学国際建築学科（INDA）の教授である藤堂高直がいます。

系譜

藤堂氏には、以下の分家が存在します。

藤堂新七郎家
藤堂玄蕃家
藤堂仁右衛門家
藤堂出雲家
藤堂内匠家
名張藤堂家

脚注

注釈

出典

参考文献

浅見雅男『華族誕生 名誉と体面の明治』リブロポート、1994年（平成6年）。
石川健次郎「明治前期における華族の銀行投資―第15国立銀行の場合―」『大阪大学経済学』第22号、大阪大学経済学部研究科、1972年、27 - 82頁。
刑部芳則『京都に残った公家たち: 華族の近代』吉川弘文館〈歴史文化ライブラリー385〉、2014年（平成26年）。ISBN 978-4642057851。
小田部雄次『華族 近代日本貴族の虚像と実像』中央公論新社〈中公新書1836〉、2006年（平成18年）。ISBN 978-4121018366。
霞会館華族家系大成編輯委員会『昭和新修華族家系大成 別巻 華族制度資料集』霞会館、1985年（昭和60年）。ISBN 978-4642035859。
霞会館華族家系大成編輯委員会『平成新修旧華族家系大成 下巻』霞会館、1996年（平成8年）。ISBN 978-4642036719。
華族大鑑刊行会『華族大鑑』日本図書センター〈日本人物誌叢書7〉、1990年（平成2年）。ISBN 978-4820540342。
新田完三『内閣文庫蔵諸侯年表』東京堂出版、1984年（昭和59年）。
松田敬之『〈華族爵位〉請願人名辞典』吉川弘文館、2015年（平成27年）。ISBN 978-4642014724。
太田亮『姓氏家系大辞典 第2巻』姓氏家系大辞典刊行会、1934年。doi:10.11501/1130938。NDLJP:1130938。

系図参考文献

日本の名字七千傑「三井氏／藤堂氏」
武家家伝「藤堂氏」
大名家の系図を現代までつなげてみる「藤堂家」
世界帝王事典「藤堂氏」

外部リンク

* 藤堂氏系譜

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