論理学の歴史

論理学は、妥当な推論の原理を探究する学問です。その歴史は古く、古代ギリシャやインドにおいて既に形式論理学の萌芽が見られました。アリストテレスの論理学は特に大きな影響を与え、科学や数学に広く応用されています。中世イスラム世界やキリスト教世界においても発展を続け、14世紀にはピークを迎えました。しかし、その後は衰退期を迎え、19世紀半ばまで停滞が続きました。

論理学前史

妥当な推論は古来より人類が用いてきましたが、論理学が体系的に研究されるようになったのは比較的近年のことです。幾何学、特に古代エジプトにおけるピラミッドの建設技術や、バビロニアの医学書や天文学における論理的な推論の痕跡が論理学の起源の一つとして挙げられます。

ギリシア哲学における論理学

古代ギリシャでは、経験的な方法に代わり、論証的な学問が重視されるようになりました。ピュタゴラス学派では、幾何学における演繹的体系が確立され、その基本原理が確立されました。また、エレア派のゼノンによる背理法は、前提から矛盾を導き出すことで、前提の誤りを証明する手法として注目されました。プラトンは、真偽の判断、論証の性質、定義の性質といった哲学的論理学の基盤を築きました。

プラトンの論理学

プラトンは、真偽の判断、論証の性質、定義の性質の3つの問いに取り組みました。彼は思考と対話を同一視し、イデア論に基づいて論証の前提と結論の結びつきを論じました。また、数学における定義の重要性に着目し、定義が人間の理解の基礎を成すと考えました。これらの考えは、アリストテレスに大きな影響を与えました。

アリストテレスの論理学

アリストテレスの論理学、特に三段論法の理論は西洋思想に計り知れない影響を与えました。彼の著作『オルガノン』は、形式論理学の最初の体系的な研究書と言えます。『範疇論』では、名辞が指示しうるものを分類しようと試み、矛盾律と排中律を扱いました。また、彼は形式論理学の創始者であり、三段論法の形式的分析を行いました。『トピカ』では非形式論理学も展開しています。

ストア論理学

ストア派は、メガラ派の論理学を継承発展させました。クリュシッポスはストア派の教義を形式論理学的に表現しました。ストア論理学の重要な業績は、様相論理、論理包含の理論、意味と真理の理論です。特に、命題を考慮した点は、近代的な命題論理に近い特徴を持っています。

アジアの論理学

インドの論理学

インドでも、古代から独自の形式論理学が発展しました。ニヤーヤ学派とヴァイシェーシカ学派は論理学を体系的に研究し、厳密な推論の枠組みを確立しました。仏教哲学も論理学の発展に貢献し、中観派のナーガールジュナによる四句分別などはその一例です。ディグナーガやダルマキールティは形式的な三段論法を発展させ、ナヴィヤ・ニヤーヤ学派は近代的な集合論に通じる理論を展開しました。

中国の論理学

中国では、墨家が正しい結論を導く条件や妥当な推論について論じています。法家の支配による中断の後、仏教を通してインド哲学が導入されました。

中世論理学

イスラム哲学における論理学

ファーラービー、イブン・スィーナー、イブン・ルシュドといったイスラム論理学者たちは、アリストテレス論理学を発展させ、古代と中世西洋思想を繋ぐ役割を果たしました。イブン・スィーナーのアヴィセンナ論理学は、特に中世西欧の思想家に影響を与えました。

中世西欧の論理学

中世西欧の論理学（スコラ論理学）は、アリストテレス論理学を基礎として発展しました。13世紀から14世紀にかけて、代示の理論、共義語の理論、推断の理論といった分野で大きな発展を遂げました。オッカムのウィリアムの業績は特に注目に値します。

伝統的論理学

伝統的論理学は、教科書に記された論理学の伝統を指します。『ポール・ロワイヤル論理学』やフランシス・ベーコンの『ノヴム・オルガヌム』などがその代表的な例であり、帰納論理を重視する流れも生まれました。

ヘーゲル哲学における論理学

ヘーゲルは、自身の哲学体系において論理学の重要性を強調し、弁証法という独自の論理体系を展開しました。彼の論理学は、主流の論理学研究にはあまり影響を与えなかったものの、マルクス主義など後世の思想に影響を与えました。

論理学と心理学

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、論理学が心理学の一分野として扱われる傾向がありましたが、フレーゲやフッサールによって批判されました。

現代論理学の興隆

19世紀半ば、論理学は数学的な厳密さを重視するようになり、現代論理学（記号論理学、数理論理学）が興隆しました。現代論理学は、計算に基づき、記号の形式に重点を置き、自然言語からの抽象化ではなく構成的な方法を用いる点が特徴です。

現代論理学の時代

現代論理学の発展は、ライプニッツから始まる胎動期、ブール代数の時代、論理主義者の時代、メタ数学の時代、戦後論理学の時代と、大きく5つの時期に分けられます。

ライプニッツから1847年までの胎動期: ライプニッツなどが論理演算のアイデアを提案しましたが、体系化には至りませんでした。
ブールの解析からシュレーダーの『講義集』までの代数の時代: ブール、パース、ジェヴォンズ、シュレーダーらが、論理を代数的に表現する方法を研究しました。
フレーゲの『概念記法』からラッセルとホワイトヘッドの『プリンキピア・マテマティカ』までの論理主義者の時代: フレーゲ、ラッセルらが、数学を論理学に還元しようとする論理主義を展開しました。ラッセルのパラドックスによって、論理主義は挫折を経験しますが、『プリンキピア・マテマティカ』は大きな影響を与えました。
1910年代から1930年代までのメタ数学の時代: ヒルベルトプログラム、ゲーデルの不完全性定理、タルスキの真理定義などが、メタ数学の発展に貢献しました。
* 戦後論理学の時代: モデル理論、証明論、計算可能性理論、集合論の4つの分野に分かれ、哲学にも影響を与えました。強制法、クリプキ意味論、義務論理、ファジィ論理などが登場しました。

結論

論理学の歴史は、妥当な推論の探究の歴史であり、同時に人間の知性の歴史そのものです。古代から現代まで、様々な文化圏で発展を続け、現代では数学や哲学、コンピュータ科学など多様な分野に貢献しています。その発展は今後も続いていくでしょう。

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