釈老志

釈老志の概要

『釈老志』は、中国北魏の正史である『魏書』において編纂され、仏教と道教の歴史が詳細に記されています。この書物は、儒教を正統とする中国の歴史書においては非常に珍しい存在で、仏教と道教を並べて語ることで、宗教的視点からの歴史的な理解を深める目的があります。興味深いことに、同様のテーマを扱った正史の篇目はほとんど存在せず、唯一の類似作品は『元史 釈老伝』だけです。

仏教部分の詳細

仏教の伝来について、釈老志は漢の武帝の元狩年間（前122年 - 前117年）にさかのぼります。当時、匈奴征伐に従事していた霍去病が、降伏してきた昆邪王から「金人」を獲得し、甘泉宮に祀ったとされ、この出来事が仏教の初期伝来の一部として記載されています。さらに、大月氏国に派遣された張騒が「浮屠の教」の存在を明らかにし、元寿元年（前2年）には大月氏の使者・伊存から「浮屠経」の教えを受けたことも記録されています。

その後、後漢の明帝時代に建立された白馬寺や、仏教の経典である『四十二章経』についても言及されています。さらに、仏教の概説やアショカ王のストゥーパ、経典・論部の解説が続きます。

楚王英の「浮屠の仁祠」に対する信仰の様子や、魏晋時代に活動した竺法護を中心とした外国僧の動きも詳細に述べられています。また、釈道安や慧遠、鳩摩羅什といった著名な僧侶や、北魏の道武帝時代における竺僧朗教団についても触れられ、特に法果が皇帝から尊崇を受けたエピソードが印象深いです。法果は「皇帝こそが現今の如来であり、僧徒は皇帝に対して礼敬を尽くすべきだ」と述べ、北朝仏教の特色を強調しました。

さらに、鳩摩羅什の一門や、法顕の求法の旅が描かれ、太武帝による仏教弾圧（三武一宗の廃仏の第一）に関連する内容も含まれます。その後は、沙門統の曇曜を中心に、雲岡石窟に見られる仏教復興の動きが記述され、孝文帝時代の仏教状況や霊太后の仏教統制、龍門石窟や永寧寺に関する情報も提供されています。

著者である魏収の立場が反映されていますが、記述は東魏の仏教情勢で締めくくられ、最後には偽濫僧や私度僧の弊害について触れられています。この記載により、本書が単に仏教を賛美するだけの内容に収まっていないことが明確になります。

道教部分の概要

道教に関する部分についての詳細な情報は提供されていませんが、釈老志は仏教と道教の関係を注視しており、それぞれの宗教の歴史的な相互作用や影響についての考察も含まれていると考えられます。

参考文献

• - 魏収『魏書釈老志』、塚本善隆訳注、平凡社〈東洋文庫〉、1990年。
• - 『塚本善隆著作集（1） 魏書釈老志の研究』 大東出版社、1974年。
• - Leon Hurvitzによる英訳『Treatise on Buddhism and Taoism』 (1956年) も参考になります。

もう一度検索