長谷川路可

長谷川路可：信仰と芸術の融合、壁画と服飾史の探求者

長谷川路可（1897年7月9日 - 1967年7月3日）は、大正から昭和にかけて、日本画、フレスコ画、モザイク画など、多岐にわたる分野で才能を発揮した美術家です。本名を龍三といい、カトリック美術家として、日本のキリシタンを題材とした宗教画を数多く制作する一方で、フレスコ・モザイクのパイオニアとして、公共施設に多くの壁画を残しました。また、文化服装学院をはじめとする教育機関で服飾史を講じるなど、教育者としてもその名を刻んでいます。

生涯

暁星学校～東京美術学校時代

1897年、東京府に生まれた長谷川路可は、暁星小学校、暁星中学校で学びました。両親の離婚後、母方の長谷川姓となり、帰省先の鵠沼で叔母が経営する旅館「東屋」で、岸田劉生をはじめとする多くの文人と交流しました。暁星中学校在学中には洋画家の黒田清輝の研究所に通い、1914年には北海道のトラピスト修道院で詩人の三木露風と親交を深め、カトリックに入信、洗礼名「ルカ」にちなんで雅号を「路可」としました。1915年に暁星中学校を卒業後、渡邊華石に南画を学び、第二回院展に入選。1916年には東京美術学校日本画科に入学し、松岡映丘に師事しました。

パリ・ヨーロッパ遊学時代

1921年に東京美術学校を卒業後、パリへ遊学。シャルル・ゲランに師事し西洋画を修得、アンデパンダン展、サロン・ナショナル展、サロン・ドートンヌ展に相次いで入選を果たしました。1924年からは西域壁画の模写を依頼され、大英博物館、フェルケルクンデ博術館、ルーヴル美術館、ギメ東洋美術館などで模写作業に従事。1925年にはアール・デコ博覧会の日本館展示に参与、ブリュッセル文化美術博覧会の日本美術館建設にも携わりました。1926年、ポール・アルベール・ボードワンが主宰するフレスコ研究所でフレスコ画の技法を学び、サロン・ドートンヌ会員に推挙されました。

鵠沼時代

1927年に帰国後、鵠沼にアトリエを構え、第7回新興大和絵会展にフレスコ画を出品。カトリック長崎司教区の早坂久之助師が日本人初の司教となったことを記念し、《切支丹曼荼羅》を教皇ピオ11世に奉献しました。1928年には菊池登茂と結婚、狛江の伊東家聖堂（後のカトリック喜多見教会）に日本初のフレスコ壁画を制作。黒澤武之輔らと「カトリック美術協会」を結成しました。1929年には大佛次郎の小説『からす組』の挿絵を担当、大和学園高等女学校で図画を担当しました。1930年にはローマで開催された日本美術展覧会に随員として派遣され、教皇ピウス11世に謁見、カヴァリエーレ・コローナ・デ・イタリア勲章を受賞。1931年には早稲田大学で講演、理工学部建築学科の研究室にフレスコ画《アフロディーテ》を描きました。1932年、第一回カトリック美術協会展に作品を出品、ジャワ、バリ島などを巡り、徳川義親邸にフレスコ画を制作しました。1935年には松岡映丘を中心とする「国画院」結成に参加しました。

目白時代

1937年、文化服装学院に出講し、服装美学・服装史を担当。鵠沼から目白へ転居。1938年、狩野光雅、遠藤教三と「第一回三人展」を開催。尾張徳川家納骨堂にフレスコ壁画を制作。1939年、カトリック片瀬教会献堂に伴い、内部装飾や作品を制作。日本大学専門部芸術科、共立女子専門学校に出講。藤山工業図書館にフレスコ壁画を制作しました。1940年、妻・登茂が死去。1941年、《三人展》を《翔鳥会》と改称。日本大学江古田キャンパス講堂にフレスコ画を制作。1942年に金子ヨシノと結婚。1945年、山形の妻の実家に疎開。1946年、文化服装学院、恵泉女学園高等部に出講。1948年に次男・路夫が誕生。1949年、鹿児島カテドラル・ザビエル記念聖堂に作品を制作、第十回カトリック美術協会展に出品しました。

チヴィタヴェッキア時代

1950年、文化女子短期大学の教授に就任。1951年、教皇ピウス12世に謁見、《切支丹絵巻》を献呈。日本聖殉教者教会（チヴィタヴェッキア市）の壁画制作に着手。1954年、壁画完成の祝別式が行われ、フランシスコ会から「ビアン・フェザンス」の称号を授与されるとともに、チヴィタヴェッキア市名誉市民に推挙されました。1955年、バチカン美術館所蔵のポンペイ壁画などを模写。教皇庁立ウルバニアーナ大学神学部礼拝堂にフレスコ壁画を制作。1957年、日本聖殉教者教会の側廊小祭壇画を完成させ帰国、文化女子短期大学へ復職しました。

壁画集団「F・M」の時代

1958年、武蔵野美術学校本科芸能デザイン科講師として出講。昭和女子大学短期大学部、日本女子大学へ出講。岩国市旧本庁舎にモザイク壁画《繁栄》制作。1959年、古屋旅館温泉プールにフレスコ壁画《星座の神話》を制作。第二回日展に《シニョリーナ・マヌカン》を出品。1960年、オペラ『細川ガラシア』の美術を担当。日本聖殉教者教会の壁画制作によって第8回菊池寛賞を受賞。武蔵野美術学校の教え子と壁画集団「F・M」を結成、東京青年文化会館にフレスコ壁画を制作。1961年、早稲田大学文学部研究室棟に床モザイク画《杜のモザイク》を制作。1962年、船橋ヘルスセンターホテルに作品を制作。1963年、東松山カントリークラブに壁モザイクを制作。日生劇場ピロティ床モザイクを分担制作。日本美術家連盟理事となる。1964年、文化女子大学教授に就任。旧国立霞ヶ丘競技場に床モザイク、壁モザイクを制作。静岡市のシャンソンビル、浜松市の鴨江寺にフレスコ画を制作。1965年、第24回カトリック美術協会展に出品。オペラ『細川ガラシア』の美術を担当。日本二十六聖人記念館に《聖フランシスコ・ザビエル像》を制作。1966年、心臓病で入院。1967年、日本二十六聖人記念館に《長崎への道》を制作。イタリアへ渡り教皇パウロ6世に謁見、《暁のマリア》を献上。ローマで脳溢血を発病、死去。没後、従五位勲四等に叙され、「旭日小綬章」追贈。

日本画家、フレスコ画家としての業績

長谷川路可は、日本画の技法を基盤に、西洋のフレスコ画の技術を取り入れ、独自の表現を確立しました。特に、キリスト教黎明期の日本のキリシタンを題材とした作品は、信仰と芸術の融合を示すものとして高く評価されています。また、公共施設に多くの壁画を残し、日本のフレスコ・モザイク画の発展に大きく貢献しました。

服飾史教育者としての貢献

文化服装学院をはじめとする教育機関で服飾史を講じ、後進の育成に尽力しました。西洋服装史の専門家として、その知識と情熱を学生たちに伝え、日本のファッション界に大きな影響を与えました。

長谷川路可の生涯は、信仰と芸術、そして教育への情熱に彩られています。その作品と教育活動は、今もなお多くの人々に感動と影響を与え続けています。

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