陸上移動中継局

陸上移動中継局とは

陸上移動中継局は、電波法で定められた無線局の種別の一つで、基地局と陸上移動局との間、または陸上移動局同士の無線通信を中継するために、陸上に設置される移動しない無線局です。ここでいう「陸上」には、河川、湖沼などの水域も含まれます。この中継局は、陸上移動業務において不可欠な役割を果たしており、特に携帯電話などの移動体通信において重要なインフラとなっています。

定義と法的根拠

総務省令である電波法施行規則第4条第1項第7号の3において、陸上移動中継局は「基地局と陸上移動局との間及び陸上移動局相互間の通信を中継するため陸上に開設する移動しない無線局」と明確に定義されています。この定義は、陸上移動中継局が単に電波を中継するだけでなく、陸上移動業務を円滑に進めるための重要な役割を担っていることを示しています。

特定陸上移動中継局

さらに、電波法施行規則第33条第6号(2)では、特定の技術基準に適合する無線設備を使用し、他の無線局に混信などの妨害を与えない場所に設置されるものを「特定陸上移動中継局」と定めています。これは、屋内や特定の場所に設置される中継局を指し、携帯電話事業者などが設置するケースが多く見られます。

開設の基準

陸上移動中継局を開設するためには、総務省令無線局（基幹放送局を除く。）の開設の根本的基準第5条の2に定められた条件を満たす必要があります。これらの条件は、中継局の適切な運用を確保し、他の無線局との干渉を防ぐために設けられています。主な条件は以下の通りです。

1. 免許を受けようとする者が、中継局を基地局や陸上移動局の免許人に使用させるための適切な計画を有していること。
2. 中継を行う区域が、おおむね一つの都道府県の範囲内であること。ただし、社会的経済的状況や地勢により例外が認められる場合もあります。
3. 中継局の使用条件が、使用者の通信が基地局や陸上移動局相互間に限られること、費用負担が合理的であること、特定の者への不当な差別的取扱いがないことなど、公平性が確保されていること。
4. 中継局の開設が、他の無線局の運用や電波の監視に支障を与えないこと。
5. 中継局の開設が、公益上必要であり適切であること。

これらの基準は、陸上移動中継局が免許人以外の他の免許人によって利用されることを前提としており、免許人と利用者間の調整を円滑にするために重要です。

陸上移動中継局の概要

陸上移動中継局は、移動体通信において、固定局と基地局の性質を併せ持つ無線局です。この種別が制定された背景には、MCA無線（Multi-Channel Access）の制御局の運用上の問題がありました。従来、MCA無線では制御局が固定局、移動局が陸上移動局として免許され、制御局は固定局と基地局の二重免許が必要でした。しかし、制御局の免許人と利用者の免許人が異なるため、通信が制限されるという問題がありました。この問題を解決するために、陸上移動中継局という新しい種別が設けられました。

免許と登録

原則として外国籍の者には無線局の免許は与えられませんが、陸上移動中継局については例外規定があり、外国人や外国の会社でも開設が可能です。特に電気通信業務用で、広範囲の地域で同一の者が開設する無線局については、特定無線局として包括免許の対象となります。これらの無線局は、主に携帯電話やPHS、2.5GHz帯無線アクセスシステムで使用されます。また、ほとんどの場合、技術基準適合証明を受けた無線設備を使用するため、簡易な免許手続きが適用され、予備免許や落成検査が省略されます。5GHz帯無線アクセスシステムの陸上移動中継局は登録局として扱われます。

用途

陸上移動中継局の主な用途は、携帯電話の中継設備です。特に山間部やビル陰など、電波が届きにくい場所で携帯電話の通信を可能にするために利用されています。また、無線アクセスシステムや地方行政、鉄道、ガス事業などでも利用されています。携帯電話の普及に伴い、小規模基地局の設置が増加し、これらの基地局と大規模基地局との間の無線接続を担う陸上移動中継局の重要性が高まりました。しかし、近年では、特定陸上移動中継局とフェムトセル基地局の制度化により、陸上移動中継局の設置数は減少傾向にあります。

設置範囲

陸上移動中継局の設置場所は、定義にある「陸上」には一部の水域も含まれます。これは、災害時などに船舶に臨時で中継局を設置し、通信を復旧させるための措置です。同様に、係留気球にも中継局を設置することが認められています。

旧技術基準の機器の使用

無線設備の技術基準改正により、旧技術基準に基づく無線設備の免許は2017年11月30日までとされ、使用期限は2022年11月30日までとされました。ただし、コロナ禍の影響により、一部の無線局を除き、使用期限は当分の間延期されています。

運用と操作

陸上移動中継局の運用は、無線局運用規則に従って行われます。原則として、第三級陸上特殊無線技士以上の資格を持つ無線従事者による管理が必要ですが、特定陸上移動中継局など、一部の条件を満たす場合は、資格のない者でも操作が可能です。

検査

陸上移動中継局の検査は、落成検査、定期検査、変更検査があります。適合表示無線設備を使用した場合は、落成検査は省略されます。定期検査は、空中線電力が1Wを超える場合に必要で、1年ごとに実施されます。

沿革

陸上移動中継局は、1982年に電波法施行規則に定義され、その後、携帯電話の普及とともに制度が整備されてきました。1985年には外国籍の者が電気通信業務用以外の陸上移動中継局を開設できるようになり、1996年には携帯電話事業において基地局と固定局の二重免許が不要となりました。2008年には特定陸上移動中継局が定義され、フェムトセル局も制度化されました。また、2014年には携帯電話用および2.5GHz帯無線アクセスシステム用陸上移動中継局が特定無線局に指定されました。

その他

携帯電話の利用者は、接続しているのが基地局か陸上移動中継局かを区別する必要はありません。携帯電話事業者が基地局として公表しているものの中には、電波法令上の陸上移動中継局が含まれている場合があります。また、携帯電話事業者の移動基地局車は、陸上移動中継局の機能を搭載した陸上移動局です。

諸外国の相当種別

米国では、FCC rules title47 Part90に規定されるMobile repeater stationが陸上移動中継局に相当します。

まとめ

陸上移動中継局は、現代社会の通信インフラを支える重要な要素です。その定義、基準、用途、歴史を理解することで、より深く無線通信の仕組みを知ることができます。

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