特定無線局

特定無線局について

特定無線局とは、電波法第27条の2に規定される、包括的な免許付与が可能な無線局のことです。これは、複数の無線局を同一の目的、通信相手、電波形式、周波数、無線設備の規格で使用する場合に、個別の無線局ごとに免許を取得するのではなく、まとめて免許を取得できる制度です。これにより、無線局の開設手続きが大幅に簡略化され、特に携帯電話などの普及に伴う無線局数の増加に対応できるようになりました。

定義

電波法第27条の2では、特定無線局を「適合表示無線設備のみを使用するもの」と定義しています。具体的には、以下の2種類に分類されます。

1. 移動する無線局で、通信相手からの電波を受信することで自動的に周波数が選択されるもの。
2. 電気通信業務を目的とし、陸上に設置される移動しない無線局で、移動する無線局を通信相手とするもの。

これらの無線局は、総務省令で定められた条件を満たす必要があり、同一規格の無線設備を使用することが前提となります。

概要

従来、無線局を開設するには、予備免許を取得し、無線設備を設置後に落成検査を受ける必要がありました。しかし、携帯電話の普及に伴い、この方法では手続きが煩雑になり、時間もかかるという課題が生じました。そこで、同一規格の無線設備を複数開設する事業者に対して、包括的に免許を与える制度が導入されました。これが特定無線局制度であり、対象となる無線設備には技適マークの表示が必須です。

特定無線局の免許は、企業などの営利法人が取得することが多いですが、無線機から適切な場所に免許状を設置せずに営利活動を行った場合、電波法違反となるため注意が必要です。また、特定無線局は、特定小電力無線局や特定ラジオマイクとは異なり、電波法施行規則に規定される無線局の種別の一つです。

種類

特定無線局の種類は、電波法施行規則第15条の2に規定されています。主な種類としては、以下のものがあります。

第1号特定無線局
電気通信業務用陸上移動局
電気通信業務用VSAT地球局
電気通信業務用航空機地球局
電気通信業務用携帯移動地球局
デジタルMCA無線用陸上移動局
高度MCA無線用陸上移動局
防災対策携帯移動衛星通信用携帯移動地球局
広帯域移動無線アクセスシステム用陸上移動局
ローカル5G用陸上移動局
RZSSB方式及び狭帯域デジタル通信方式の陸上移動局・携帯局
第2号特定無線局
広範囲の地域で同一事業者により開設される無線局に専ら使用させることを目的とした基地局（フェムトセル基地局を含む）
広範囲の地域で同一事業者により開設される無線局に専ら使用させることを目的とした陸上移動中継局

これらの特定無線局は、主に電気通信事業者やMCA無線利用者、災害対応を行う官公署や公共的な企業・団体が利用しています。

包括免許人

特定無線局の包括免許人は、電波法第27条の6により、第1号無線局の免許人を第一号包括免許人、第2号無線局の免許人を第二号包括免許人と分類されます。

第一号包括免許人: 最初の局を開設した際に届出を行うのみでよい。
第二号包括免許人: 個々の局を開設する都度、届出が必要。

また、第一号包括免許人は指定された局数以上を開設することはできません。

操作

電波法施行規則第33条では、特定無線局の「簡易な操作」として、無線従事者を必要としない範囲を定めています。具体的には、航空機の安全運航に関わる通信を行う航空機地球局以外の特定無線局については、「無線設備の通信操作及び当該無線設備の外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものの技術操作」を行う場合、原則として無線従事者の資格は不要です。

ただし、上記の航空機地球局については、航空無線通信士以上の資格を持つ無線従事者による管理が必要です。

外国の無線局との通信

特定無線局制度が導入された際に、電波法には第103条の5が追加されました。これにより、包括免許人は総務大臣の許可を得ることで、自らの特定無線局と通信相手が同じである外国の無線局を運用できることになりました。この規定は、訪日外国人が自国で契約した携帯電話端末で国際ローミングを行うことを想定したものでしたが、期間や国籍を問わないため、日本人でも技適マークのない携帯電話端末を使用できる可能性がありました。

しかし、実際には、この規定を利用して日本で技適マークのない携帯電話を使用することは困難です。なぜなら、総務大臣の許可は一般に公示されるものではなく、また、「外国の電気通信事業者と契約した」という条件が依然として残っているからです。

沿革

特定無線局制度は、1997年の電波法改正により制度化されました。当初は、第1号に相当する無線局のみが対象でしたが、その後、携帯電話の普及や技術の進歩に合わせて、対象となる無線局の種類や要件が段階的に追加・変更されてきました。

主な沿革は以下の通りです。

1997年: 電波法令改正により制度化
1998年: 携帯電話の国際ローミングの対象となる端末が告示
1999年: RZSSB方式、狭帯域デジタル通信方式の陸上移動局・携帯局、電気通信業務用VSAT地球局が追加
2002年: 1900MHz帯電気通信業務用固定局は端末設備と接続するものに限定
2003年: 携帯電話の国際ローミングの対象となる端末の告示が改正
2004年: 電気通信業務用航空機地球局が追加
2008年: 端末設備に接続する1900MHz帯電気通信業務用固定局が削除
2011年: 特定無線局を第1号と第2号に分類、フェムトセル基地局が追加
2014年: 携帯電話用および2.5GHz帯無線アクセスシステム用の基地局と陸上移動中継局が追加
2016年: 携帯電話の国際ローミングについての規定が改正
2017年: 防災対策携帯移動衛星通信用携帯移動地球局が追加
2019年: MCA無線用陸上移動局が削除、高度MCA無線用陸上移動局、広帯域移動無線アクセスシステム用陸上移動局、ローカル5G用陸上移動局が追加
2021年: 電気通信業務用VSAT地球局と携帯移動地球局で14.4GHzを超え14.5GHz以下のものは対象外に
2022年: 電気通信業務用VSAT地球局と携帯移動地球局で14.4GHzを超え14.5GHz以下で特定無線局の対象外となるのは、高度600km以下の軌道の非静止衛星用に

特定無線局制度は、無線通信の円滑な運用を支える重要な制度であり、今後も技術の進歩や社会の変化に合わせて、その内容が変化していくことが予想されます。

脚注

電波法
電波法施行規則
特定無線局の開設の根本的基準

関連項目

無線局
技術基準適合証明

外部リンク

総務省 電波利用ホームページ

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