霊界物語

霊界物語

『霊界物語』は、新宗教「大本」の教祖である出口王仁三郎が、大正時代から昭和初期にかけて口述筆記した物語です。開祖・出口なおの大本神諭と並び、大本教団の根本教典として位置づけられています。全81巻83冊という膨大な量であり、その内容は多岐にわたります。

概要

明治時代後期、出口なおの神懸かりによって誕生した大本は、出口王仁三郎の活動によって教勢を拡大しました。しかし、1921年（大正10年）に第一次大本事件が発生し、『大本神諭』が発禁処分となります。その後、王仁三郎は同年10月18日から新たに『霊界物語』の口述筆記を開始しました。

この物語は、王仁三郎がなおに出会う前に高熊山で行った霊的修行に基づいているとされ、大本の三大学則、基本的な神観、霊界と現界の関係などがまとめられています。王仁三郎を通して啓示された教えは、他にも「道の栞」「道の光」などの教典に記されています。

内容

『霊界物語』は、古事記に基づく日本神話を根底としながらも、聖書、キリスト教、仏教、儒教など、あらゆる思想と宗教観を取り込んでいます。舞台は神界・霊界・現界と全世界に及び、宇宙や大地の創造、太古の神政、現代社会への批判、未来の予言などが描かれています。登場人物の言動を通して、人間の霊性について深く考察することができます。

王仁三郎によると、『霊界物語』には126種類の読み方があるとされ、予言書としての読み方も存在します。しかし、政治的なエピソードも含まれており、戦前は一部が発売禁止処分を受け、第二次大本事件で全巻が発禁処分となりました。現在では、大本神諭と共に二大根本教典として一般にも販売されています。

構成

『霊界物語』は以下の構成で全81巻83冊からなります。

霊主体従（第1-12巻/全12冊）
如意宝珠（第13-24巻/全12冊）
海洋万里（第25-36巻/全12冊）
舎身活躍（第37-48巻/全12冊）
真善美愛（第49-60巻/全12冊）
山河草木、入蒙記（第61-72巻/全14冊）
天祥地瑞（第73-81巻/全9冊）

各巻には十二支の名前が付けられ、それぞれがいくつかの「篇」に分かれ、最小単位として「章」があります。物語が完結しているか未完であるかについては、様々な意見があります。

著述方法

『霊界物語』は、王仁三郎がトランス状態になり、口述筆記するという形で著述されました。谷口雅春、加藤明子、桜井重雄などが主な筆録者として知られています。筆録者は、王仁三郎の言葉を忠実に記録し、その内容は驚くほどの速さで書き上げられました。

村上重良は、王仁三郎の才能とエネルギーを「人間離れしている」と評しています。物語は、平均して月に1冊ほどのペースで発刊され、1929年（昭和4年）に第72巻が完成しました。その後も、王仁三郎自身による修正や加筆が行われました。

あらすじ

『霊界物語』の主人公は、神素盞嗚大神です。神素盞嗚大神が八岐大蛇を退治し、「みろくの世」を建設し、国常立尊を再び地上神界の主宰神として復活させる物語です。物語は、王仁三郎が霊的に体験した天国と地獄の様子から始まり、日本神話の世界へと展開していきます。

国常立尊は、体主霊従の盤古大神一派や力主体霊の大黒主神一派との争いの末、地上神界の主宰神の地位を追放されます。王仁三郎は、国常立尊こそが出口なおに懸かった「艮の金神」であると定義しています。

物語は、伊邪那岐命と伊邪那美の国産み・神産み、アマテラスと[[スサノオの誓約]]、天の岩戸隠れ、スサノオとヤマタノオロチの戦いなどを再構成しており、日本神話の影響が色濃く反映されています。王仁三郎は、権力者によって改竄された古事記を本来の姿に戻したものが『霊界物語』であると語っています。

物語の中盤以降は、神素盞嗚大神による世界救済の経綸が描かれます。高天原を追放された神素戔嗚尊は贖罪神となり、悪神や悪人を改心させ、地上を国常立尊の霊主体従世界へと変えていきます。その過程で、主神は三五教の宣伝使を世界各地へ派遣し、八岐大蛇や金毛九尾の狐に代表される邪神・悪霊との戦いを繰り広げます。

特徴

『霊界物語』は、日本語名を持つ神々や人物と、カタカナで表現される外国人のような人物が混在し、神獣や妖怪を交えた物語が世界規模で展開されるという特徴があります。また、レフ・トロツキーなど実在の人物が登場することも特徴的です。

物語は、奇想天外な展開や王仁三郎の得意とする駄洒落、語呂合わせ、戯詩が用いられており、滑稽な口調と文体で表現されています。しかし、王仁三郎自身は、物語を通して霊界の一部を理解し、神々の活動を知ってほしいと述べています。

霊界物語に見られる天界と天使

霊界物語に登場する天使たちは主に神から発せられる信真と愛善によって生かされ、天使たちは神の働きをしたものの、謝礼や感謝されることを拒み、感謝するのは神のみにすべきであると説きます。王仁三郎は「祈りは天帝のみにすべきもの。他の神様は礼拝するもの。誠の神は一柱のみで、他はみなエンゼルである」と述べています。

歴史

『霊界物語』は、第一次大本事件を契機に、王仁三郎が新たな教義と教典を必要としたことから生まれました。教団の内部事情と当局からの弾圧が、複雑で曖昧な新教典を形成したといえるでしょう。

大本神諭との関係

『霊界物語』は、『大本神諭』を克服するために王仁三郎が著したという指摘もあります。一方、『大本神諭』が発禁となり、終末論的な社会改革運動が弾圧されたことで、新たな教義と教典が必要になったという側面もあります。

王仁三郎と霊界物語

王仁三郎は、『霊界物語』を演劇化することにも熱心であり、自らが登場人物となって神劇を演じることもありました。物語は、王仁三郎の肉身、霊魂、表現であるとされ、読者には音読が推奨されています。

出版

『霊界物語』は、大正10年12月30日に第1巻が出版され、以後順次出版されていきました。戦後は、瑞光社、天声社、八幡書店、愛善世界社などから様々な版が出版されています。

参考文献

井上章一『性欲の文化史1』講談社、2008年10月。
大本、創価学会、真如苑、浄土真宗親鸞会『新宗教時代1』大蔵出版、1997年2月。
佐高信編著『新・代表的日本人』小学館文庫、1999年6月。
四方田犬彦『叙事詩の権能』哲学書房、1988年5月。
島田裕巳『日本の10大新宗教』幻冬舎新書、2007年11月。
ナンシー・K・ストーカー『出口王仁三郎　帝国の時代のカリスマ』井上順孝監修、岩坂彰翻訳、原書房、2009年6月。
出口王仁三郎『古事記　言霊解』みいづ舎、2004年12月。
出口栄二監修『写真図説　民衆の宗教・大本』学燈社、1970年3月。
出口栄二、梅原正紀、清水雅人『新宗教の世界Ⅳ』大蔵出版、1978年12月。
出口和明『スサノオと出口王仁三郎』八幡書店、1995年9月。
出口京太郎『現代教養文庫　巨人　出口王仁三郎』社会思想社、1995年10月。
部落解放研究所『新版　宗教と部落問題』解放出版社、1990年10月。
松本健一『出口王仁三郎　屹立するカリスマ』リブロポート、1986年12月。
松本健一『神の罠　浅野和三郎、近代知性の悲劇』新潮社、1989年10月。
丸山照雄『現代人の宗教3　金光と大本　教典その心と読み方』御茶の水書房、1986年7月。
丸山照雄 編『現代人の宗教10　宗教の可能性』御茶の水書房、1986年8月。
村上重良『出口王仁三郎』新人物往来社、1973年7月。
安丸良夫『一揆・監獄・コスモロジー　周縁性の歴史学』朝日新聞社、1999年10月。
立命館大学文学部編『読売新聞・立命館大学連携リレー講座　日本文化の源流を求めて２』文理閣、2010年11月。
霊界物語研究会『予言と神話　出口王仁三郎と霊界物語』いづとみづ、1991年7月。
木庭次守『霊界物語ガイドブック』八幡書店、2010年11月。

もう一度検索