魚遵

魚遵（ぎょ じゅん）

魚遵は、五胡十六国時代の前秦に仕えた人物です。彼の生涯を詳細に見ていきましょう。

生涯

魚遵は、氐族の酋長である苻洪に帰順し、その才能を認められて重用されました。350年1月、苻洪が自らを大都督・大将軍・大単于・三秦王と称すると、魚遵は右将軍・領右長史に任じられ、その政権運営を支えました。しかし、同年3月に苻洪が亡くなると、子の苻健が後を継ぎました。

同年8月、京兆の豪族である杜洪が長安を拠点に東晋からの自立を宣言し、征北将軍・雍州刺史を自称すると、多くの漢人や胡人が彼に帰順しました。これに対し、苻健は関中の平定を目指して全軍を西進させ、魚遵はその先鋒を務めました。魚遵は盟津で浮橋を建設して黄河を渡り、通過する城砦を次々と降伏させ、その軍事的な手腕を発揮しました。10月、苻健軍が長安に迫ると、杜洪は司竹へ逃亡し、11月には苻健が長安に入城を果たしました。

351年1月、苻健が天王・大単于の位に即き、国号を大秦と定めて東晋から完全に自立すると、魚遵はその功績により太子太師に任じられました。その後、左僕射に移り、国政の中枢で活躍しました。

353年7月には司空に昇進し、ますますその地位を高めました。しかし、354年2月、東晋の征西大将軍である桓温が長安攻略を目指して北伐を敢行し、戦乱が再び訪れます。桓温は上洛や青泥を陥落させ、前秦に脅威を与えました。4月、苻菁・苻萇・苻雄・苻生・苻碩らが5万の兵を率いて桓温を迎え撃ちましたが、藍田で大敗を喫し、長安城南へ後退しました。桓温は各地で転戦しながら前進し、遂に長安の東にある灞上にまで到達し、三輔の郡県は尽く桓温に降伏しました。このような状況下で、魚遵は雷弱児らと共に精鋭兵3万を率いて長安から出撃し、苻萇らと合流して桓温の侵攻を食い止めました。6月、桓温は兵糧不足により撤退を開始すると、魚遵らは桓温を追撃し、潼関において幾度も破り、数万の兵を討ち取りました。この功績により、7月には太尉に任じられ、その武功を高く評価されました。

355年6月、苻健が病に倒れると、魚遵は太師・録尚書事に任じられ、皇太子である苻生を補佐するよう遺詔を託されました。苻健が亡くなると、苻生が後を継ぎましたが、彼の治世は暗雲に覆われていました。

357年5月、苻生は巨大な魚が蒲を食べる夢を見ましたが、苻氏の元々の姓が蒲であったことから、これを不吉な兆候と捉え、気分を害しました。また、同時期に長安では「東海の大魚は龍と化す。男はみな王となり、女はみな公となる」という歌謡が流行していました。これを聞いた苻生は、魚遵が王になるという暗示だと考え、彼をその7人の子と10人の孫と共に誅殺するという暴挙に出ました。魚遵の一族は、理不尽な理由で滅ぼされてしまったのです。

しかし、同年9月に苻堅が即位すると、魚遵の名誉は回復され、太師の礼をもって改葬され、広寧公と追諡されました。また、残された子孫は才能に応じて抜擢され、その功績が再び認められました。

魚遵の生涯は、五胡十六国時代の動乱の中で、才能を発揮しながらも、最終的には非業の死を遂げた悲劇的な人物として記憶されています。

参考文献

『晋書』巻112
『資治通鑑』巻98 - 巻100
* 『十六国春秋』巻42

もう一度検索