1966年の文学
1966年（昭和41年）、日本の文学界は活発な動きを見せると同時に、国際的な交流や国内の重要な出来事が報じられました。また、この年には多くの注目すべき作品が発表され、文学賞も授与される一方、国内外の著名な文学者たちがこの世を去りました。
出来事
年の初め、1月17日には第54回芥川龍之介賞および直木三十五賞（1965年下半期）の選考会が開催され、文学界の新年を告げる話題となりました。夏には国際的な動きとして、6月27日から7月9日にかけて北京でアジア・アフリカ作家会議緊急集会が開催され、日本からも白石凡や中島健蔵といった作家・評論家が参加しました。9月2日には、アメリカの著名なグラフ雑誌『ライフ』が、日本の文学界を代表する作家の一人として三島由紀夫を特集し、その活動を「日本文学界の原動力（Japan’s Dynamo of Letters）」と称賛するなど、日本の作家が海外で注目される一幕もありました。また、この年の文学界の注目すべき出来事として、三島由紀夫の小説『宴のあと』を巡るプライバシー侵害裁判が挙げられます。長期にわたる審理を経て、11月28日に行われた控訴審の第12回口頭弁論において、正式な和解が成立し、一つの区切りを迎えました。
文学賞
1966年には、日本の主要な文学賞である芥川龍之介賞と直木三十五賞がそれぞれ上半期と下半期を対象に選考されました。
まず、1965年下半期を対象とする第54回（1月発表）では、芥川賞は高井有一氏の『北の河』に、直木賞は新橋遊吉氏の『八百長』と千葉治平氏の『虜愁記』にそれぞれ授与されました。しかし、1966年上半期を対象とする第55回（7月発表）では、芥川賞は「該当作なし」という結果に終わりました。一方、直木賞は立原正秋氏の『白い罌粟』が受賞しました。この「該当作なし」という結果は、その時期の純文学の状況を巡って議論を呼ぶこともしばしばあります。
その他の重要な文学賞としては、谷崎潤一郎賞の第2回選考が行われ、遠藤周作氏の『沈黙』が受賞しました。また、群像新人文学賞の第9回選考では、芥川賞と同様に「該当作なし」となりました。
1966年の主な出版物
この年には、後世に語り継がれることになる多くの重要な作品が刊行されました。
小説分野では、谷崎潤一郎賞を受賞した遠藤周作氏の代表作『沈黙』（新潮社）や、歴史小説の大家である司馬遼太郎氏の力作『関ヶ原』（新潮社）が発表されました。寺山修司氏の実験的な長編『あゝ、荒野』（現代評論社）、野坂昭如氏の芥川賞候補にもなった話題作『エロ事師たち』（講談社）、そして丸谷才一氏の独特な文体が光る『笹まくら』（河出書房新社）などもこの年に刊行されました。三島由紀夫氏も精力的に作品を発表しており、『憂国 映画版』、『英霊の聲』（いずれも新潮社）、『複雑な彼』（集英社）などが読者の手に取られました。
評論分野では、林房雄氏と三島由紀夫氏による『対話・日本人論』（番町書房）、丸谷才一氏の評論集『梨のつぶて』（晶文社）、津田孝氏の『民主主義文学論』（新日本出版社）などが刊行され、多様な視点からの議論が展開されました。
その他のジャンルでは、芸術家・岡本太郎氏の眼差しを通した世界を描く『岡本太郎の眼』（朝日新聞社）、哲学者・随筆家の神谷美恵子氏による示唆に富む著作『生きがいについて』（みすず書房）、ノーベル文学賞作家・川端康成氏の随筆集『落花流水』（新潮社）などが刊行されました。また、三島由紀夫氏も『反貞女大学』（新潮社）のようなエッセイや、『聖セバスチァンの殉教』（美術出版社、池田弘太郎氏との共訳）といった翻訳書も発表しています。森村桂氏の紀行エッセイ『天国にいちばん近い島』（学習研究社）もこの年の出版です。
物故者
1966年には、国内外の文学界から惜しまれつつ多くの才能が失われました。
海外では、アイルランドの優れた短編小説家フランク・オコナー氏が3月10日に62歳で、イギリスの諷刺的な小説家イーヴリン・ウォー氏が4月10日に62歳で、そしてフランスの詩人、文学者でありシュルレアリスム運動の中心的人物であったアンドレ・ブルトン氏が9月28日に70歳で亡くなりました。ブルトン氏は「シュルレアリスム宣言」の執筆者として知られています。また、イギリスの著名な推理作家マージェリー・アリンガム氏も6月30日に62歳で逝去しました。
日本の文学者では、小説家・翻訳家の山中峯太郎氏が4月28日に80歳で、独文学者・文芸評論家で夏目漱石の門下生であり『漱石全集』編纂にも深く関わった小宮豊隆氏が5月3日に82歳で、同じく夏目漱石門下生で哲学者、教育者、政治家として文部大臣も務めた安倍能成氏が6月7日に82歳でそれぞれ逝去しました。さらに、探偵小説作家の大下宇陀児氏が8月11日に69歳で、文芸評論家の亀井勝一郎氏が11月14日に59歳で亡くなるなど、様々な分野の文学者が歴史に名を残し、その生涯を閉じました。
このように、1966年は新たな作品の誕生や文学賞の発表、国際的な交流や国内の話題、そして多くの偉大な文学者との別れなど、多層的な出来事が交錯した一年であったと言えます。
出来事
年の初め、1月17日には第54回芥川龍之介賞および直木三十五賞（1965年下半期）の選考会が開催され、文学界の新年を告げる話題となりました。夏には国際的な動きとして、6月27日から7月9日にかけて北京でアジア・アフリカ作家会議緊急集会が開催され、日本からも白石凡や中島健蔵といった作家・評論家が参加しました。9月2日には、アメリカの著名なグラフ雑誌『ライフ』が、日本の文学界を代表する作家の一人として三島由紀夫を特集し、その活動を「日本文学界の原動力（Japan’s Dynamo of Letters）」と称賛するなど、日本の作家が海外で注目される一幕もありました。また、この年の文学界の注目すべき出来事として、三島由紀夫の小説『宴のあと』を巡るプライバシー侵害裁判が挙げられます。長期にわたる審理を経て、11月28日に行われた控訴審の第12回口頭弁論において、正式な和解が成立し、一つの区切りを迎えました。
文学賞
1966年には、日本の主要な文学賞である芥川龍之介賞と直木三十五賞がそれぞれ上半期と下半期を対象に選考されました。
まず、1965年下半期を対象とする第54回（1月発表）では、芥川賞は高井有一氏の『北の河』に、直木賞は新橋遊吉氏の『八百長』と千葉治平氏の『虜愁記』にそれぞれ授与されました。しかし、1966年上半期を対象とする第55回（7月発表）では、芥川賞は「該当作なし」という結果に終わりました。一方、直木賞は立原正秋氏の『白い罌粟』が受賞しました。この「該当作なし」という結果は、その時期の純文学の状況を巡って議論を呼ぶこともしばしばあります。
その他の重要な文学賞としては、谷崎潤一郎賞の第2回選考が行われ、遠藤周作氏の『沈黙』が受賞しました。また、群像新人文学賞の第9回選考では、芥川賞と同様に「該当作なし」となりました。
1966年の主な出版物
この年には、後世に語り継がれることになる多くの重要な作品が刊行されました。
小説分野では、谷崎潤一郎賞を受賞した遠藤周作氏の代表作『沈黙』（新潮社）や、歴史小説の大家である司馬遼太郎氏の力作『関ヶ原』（新潮社）が発表されました。寺山修司氏の実験的な長編『あゝ、荒野』（現代評論社）、野坂昭如氏の芥川賞候補にもなった話題作『エロ事師たち』（講談社）、そして丸谷才一氏の独特な文体が光る『笹まくら』（河出書房新社）などもこの年に刊行されました。三島由紀夫氏も精力的に作品を発表しており、『憂国 映画版』、『英霊の聲』（いずれも新潮社）、『複雑な彼』（集英社）などが読者の手に取られました。
評論分野では、林房雄氏と三島由紀夫氏による『対話・日本人論』（番町書房）、丸谷才一氏の評論集『梨のつぶて』（晶文社）、津田孝氏の『民主主義文学論』（新日本出版社）などが刊行され、多様な視点からの議論が展開されました。
その他のジャンルでは、芸術家・岡本太郎氏の眼差しを通した世界を描く『岡本太郎の眼』（朝日新聞社）、哲学者・随筆家の神谷美恵子氏による示唆に富む著作『生きがいについて』（みすず書房）、ノーベル文学賞作家・川端康成氏の随筆集『落花流水』（新潮社）などが刊行されました。また、三島由紀夫氏も『反貞女大学』（新潮社）のようなエッセイや、『聖セバスチァンの殉教』（美術出版社、池田弘太郎氏との共訳）といった翻訳書も発表しています。森村桂氏の紀行エッセイ『天国にいちばん近い島』（学習研究社）もこの年の出版です。
物故者
1966年には、国内外の文学界から惜しまれつつ多くの才能が失われました。
海外では、アイルランドの優れた短編小説家フランク・オコナー氏が3月10日に62歳で、イギリスの諷刺的な小説家イーヴリン・ウォー氏が4月10日に62歳で、そしてフランスの詩人、文学者でありシュルレアリスム運動の中心的人物であったアンドレ・ブルトン氏が9月28日に70歳で亡くなりました。ブルトン氏は「シュルレアリスム宣言」の執筆者として知られています。また、イギリスの著名な推理作家マージェリー・アリンガム氏も6月30日に62歳で逝去しました。
日本の文学者では、小説家・翻訳家の山中峯太郎氏が4月28日に80歳で、独文学者・文芸評論家で夏目漱石の門下生であり『漱石全集』編纂にも深く関わった小宮豊隆氏が5月3日に82歳で、同じく夏目漱石門下生で哲学者、教育者、政治家として文部大臣も務めた安倍能成氏が6月7日に82歳でそれぞれ逝去しました。さらに、探偵小説作家の大下宇陀児氏が8月11日に69歳で、文芸評論家の亀井勝一郎氏が11月14日に59歳で亡くなるなど、様々な分野の文学者が歴史に名を残し、その生涯を閉じました。
このように、1966年は新たな作品の誕生や文学賞の発表、国際的な交流や国内の話題、そして多くの偉大な文学者との別れなど、多層的な出来事が交錯した一年であったと言えます。
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