1978年の文学

1978年の文学界：豊かな才能と変遷の記録

1978年（昭和53年）は、日本国内外の文学界において、多くの出来事が織りなされた記憶に残る一年となりました。新たな才能の登場や円熟した作家たちの活躍、そして文学を愛する人々にとって忘れられない作品の刊行、さらには長年にわたり文学に貢献した先達たちの訃報など、様々な局面が見られました。

主要な文学賞の動向

年明けの1月には、1977年下半期を対象とする第78回芥川龍之介賞および直木三十五賞の選考委員会が開催されました。芥川賞には、宮本輝氏の『螢川』と高城修三氏の『榧の木祭り』が選ばれ、新たな作家が文壇に登場しました。一方、直木賞は該当作なしという結果になりました。

続いて7月には、1978年上半期の作品を対象とした第79回芥川・直木賞が発表されました。芥川賞には、高橋揆一郎氏の『伸予』と高橋三千綱氏の『九月の空』が受賞し、個性的な作風の作家が注目を集めました。直木賞は、津本陽氏の『深重の海』と色川武大氏の『離婚』が選ばれ、読み応えのある歴史小説と私小説が評価されました。

この他にも、日本の重要な文学賞が多数決定しています。

第14回谷崎潤一郎賞は、中村真一郎氏の小説『夏』に贈られました。
第6回泉鏡花文学賞は、唐十郎氏の戯曲集『海星・河童（ひとで・かっぱ）』が受賞しました。
第21回群像新人文学賞では、小幡亮介氏の『永遠に一日』と中沢けい氏の『海を感じる時』が同時受賞を果たし、新しい世代の書き手が現れました。

海外の文学界のハイライト

国際的な文学シーンにおいても、著名な賞が発表されました。

その年の最高の栄誉とされるノーベル文学賞は、ポーランド出身でイディッシュ語で執筆する作家、アイザック・バシェヴィス・シンガー氏に授与されました。
権威あるイギリスのブッカー賞は、アイリス・マードック氏の小説『海よ、海』が受賞しました。
ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞の1977年度フィクション部門は、スパイ小説の大家であるジョン・ル・カレ氏の『スクールボーイ閣下』に贈られました。
イギリス推理作家協会によるゴールド・ダガー賞（1978年度）は、ライオネル・デヴィッドスン氏のミステリ作品『チェルシー連続殺人事件』が獲得しました。

注目を集めた刊行作品

1978年には、多くの読書愛好家を魅了した話題作が数多く書店に並びました。特に注目された小説としては、以下のような作品が挙げられます。

赤川次郎『セーラー服と機関銃』（主婦と生活社）
有吉佐和子『和宮様御留』（講談社） - この作品は特に大きな反響を呼び、1978年の年間ベストセラー総合ランキングで第3位となる記録的な売れ行きを示しました。
井上ひさし『十二人の手紙』（中央公論社）
川端康成『婚礼と葬礼』（創林社）
筒井康隆『富豪刑事』（新潮社）
天藤真『大誘拐』（カイガイ出版部）
西村寿行『蒼茫の大地、滅ぶ』（講談社）
見延典子『もう頰づえはつかない』（講談社）
吉行淳之介『夕暮まで』（新潮社）

小説以外の分野でも、多くの読書家から支持を得た作品が登場しました。

篠田桃紅『墨いろ』（PHP研究所）
立花隆『日本共産党の研究』（講談社）
津島美知子『回想の太宰治』（人文書院）
中島梓『文学の輪郭』（講談社）
宮脇俊三『時刻表2万キロ』（河出書房新社）
向田邦子『父の詫び状』（文藝春秋）

これらの作品は、フィクション、ノンフィクション、エッセイなど多岐にわたり、当時の社会や人々の関心を映し出していました。

文学界の訃報

この年は、長年にわたり日本の、あるいは世界の文学に貢献した多くの先達たちが惜しまれつつ世を去りました。以下にその一部を記します。

1月14日 - 生活文化誌『暮しの手帖』の創刊者で編集者の花森安治氏（兵庫県出身、享年66）が逝去。
3月16日 - 時代小説で広く知られる小説家の山手樹一郎氏（栃木県出身、享年79）が死去。
3月18日 - 米国の著名なSF作家であり脚本家でもあったリイ・ブラケット氏（享年62）が亡くなりました。
4月3日 - 戦後日本を代表する文芸評論家の平野謙氏（享年70）が逝去しました。
4月25日 - 北欧文学の紹介者・翻訳家として功績を残した大畑末吉氏（享年76）が死去。
5月15日 - 小説家の網野菊氏（東京府出身、享年78）が世を去りました。
6月30日 - 豪快な作風で人気を博した小説家の柴田錬三郎氏（岡山県出身、享年61）が逝去。
9月11日 - ブルガリア出身の作家ゲオルギー・マルコフ氏（享年49）が死去しました。
9月30日 - 歴史小説の大家として知られる小説家の山岡荘八氏（新潟県出身、享年71）が逝去。
11月2日 - 英文学者の岩倉具栄氏（東京市出身、享年74）が亡くなりました。
* 12月21日 - フランスの文芸批評家、哲学者として知られるロジェ・カイヨワ氏（享年65）が死去しました。

1978年は、このように才能の輝きと喪失の影が交錯した、文学史において重要な節目の年の一つと言えるでしょう。国内外で多くの優れた作品が生まれ、後世に影響を与える出来事が数多くありました。

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