1990年の鉄道

1990年（平成2年）の日本の鉄道は、全国各地で様々な動きが見られた年でした。特に都市部では新たな路線の開業や既存区間の延伸が進み、交通網の整備が図られました。一方で、利用者の減少などに悩む地方路線では、廃止や第三セクターへの転換といった再編の動きも続き、鉄道の姿が変わりつつあることを実感させる一年でもありました。

路線網の変化

この年、複数の新線が開業しています。2月には神戸新交通六甲アイランド線がポートアイランド線に続く新交通システムとして開業。3月には大阪市営地下鉄（現在のOsaka Metro）鶴見緑地線の一部区間が開業し、京阪神エリアでのネットワークが拡充されました。JR東日本では京葉線が東京駅まで延伸し、都心へのアクセスが向上しました。また、6月には大阪モノレール線が千里中央駅と南茨木駅を結んで開業、本格的な都市モノレール時代の幕開けを告げました。

既存路線の延伸も相次ぎました。3月には小田急電鉄多摩線が唐木田駅まで、京王帝都電鉄（現在の京王電鉄）相模原線が橋本駅まで延伸し、多摩ニュータウン方面への利便性が向上しました。4月には相模鉄道いずみ野線がいずみ中央駅まで延伸。夏には埼玉新都市交通伊奈線が内宿駅まで延伸開業するなど、郊外方面へのアクセス改善が進みました。年末には営団地下鉄（現在の東京メトロ）半蔵門線が水天宮前駅まで延伸、京都市営地下鉄烏丸線も北大路駅まで延伸しています。

JR西日本では、新幹線博多総合車両所へのアクセス線を利用した博多南線が旅客営業を開始するというユニークな動きがありました。また、JR東日本では、スキーリゾートへのアクセスを担う上越線のガーラ湯沢支線が冬季営業線として開業しています。

一方で、地方路線の再編も行われました。4月にはJR西日本の鍛冶屋線と大社線が廃止されました。また、宮津線はJR西日本から北近畿タンゴ鉄道（現在の京都丹後鉄道）に移管され、第三セクター鉄道として新たなスタートを切りました。貨物輸送においては、JR貨物が石勝線の一部区間における第二種鉄道事業を廃止しています。

インフラの改良も進みました。JR西日本では山陰本線や東海道本線の一部区間が電化され、JR四国でも予讃線の一部区間が電化されています。会津鉄道の会津線も会津高原駅まで電化されました。長崎本線の一部区間が複線化されたほか、名古屋鉄道名古屋本線の一部区間が複々線化され、輸送力が増強されました。京浜急行電鉄本線の一部区間では高架化が進み、踏切解消による安全確保が図られました。特に注目されたのは、大井川鐵道井川線の一部区間のルート変更と電化・アプト式導入です。長島ダム建設に伴う区間移設に合わせて、国内では大井川鐵道が初となるアプト式鉄道が導入されました。

駅の動きとダイヤ改正

新線開業や延伸に伴い、多数の新しい駅が誕生しました。また、既存区間にも利便性向上のため多くの新駅が開業しています。例えば、JR九州では鹿児島本線にけやき台駅、長崎本線に長里駅が開業。平成筑豊鉄道や松浦鉄道といった第三セクター鉄道でも多数の新駅が開業しました。

駅名の改称も各地で行われました。JRグループでは愛称名を取り入れたり、所在地名や周辺施設名に変更したりするケースが見られました。特にJR九州では吉都線の複数の駅名が「えびの」を冠する形に変更されています。JR貨物の主要操車場駅も、貨物駅としての名称に変更されました。大井川鐵道井川線でも、ルート変更に伴う駅の移設・改称が行われています。

この年は全国規模でダイヤ改正も実施されています。特にJR東日本では、リゾート特急「スーパービュー踊り子」が運行を開始し、斬新なデザインの251系電車が注目を集めました。JR北海道では特急・急行列車網の再編が行われ、「ちとせ」「そらち」「狩勝」といった急行列車が廃止・統合される一方、新型車両の導入に合わせて特急列車の名称変更や、新たに帯広方面の特急「とかち」が登場しました。JR東海と伊勢鉄道では、関西本線・紀勢本線経由で名古屋と紀伊半島を結ぶ優等列車の体系が見直され、快速「みえ」が誕生しています。

新型車両と受賞

1990年は数多くの新型鉄道車両が登場した年でもありました。JR各社では、JR北海道の特急形電車785系、JR東日本の特急形電車251系や翌年営業開始の400系試作車、成田エクスプレス用の253系、地方交通線向けのキハ100系・キハ110系気動車が登場しました。JR東海では後の東海道・山陽新幹線を担う300系電車（試作車）が姿を現し、将来の高速化への期待が高まりました。JR四国からは、国内初の振り子式気動車として前年に試作車が登場した2000系の量産車や、地方向け電車の7000系が登場しています。JR貨物でも新たな貨車が登場しました。

私鉄や第三セクターでも、個性的で高性能な車両が登場しました。東武鉄道の特急「スペーシア」に使用される100系電車、京成電鉄のスカイライナー用AE100形、近畿日本鉄道の吉野特急用26000系「さくらライナー」などが営業運転を開始し、既存車両のイメージを一新しました。これらの新型車両の多くが、そのデザインや技術を評価され、鉄道友の会が選定するブルーリボン賞やローレル賞、通商産業省（当時）のグッドデザイン賞を受賞しています。前年に登場したJR東日本651系がブルーリボン賞、JR西日本221系やJR四国2000系がローレル賞、東武100系や近鉄26000系がグッドデザイン賞を受賞しています。

また、東京急行電鉄で活躍した7000系電車が地方私鉄（北陸鉄道、水間鉄道）へ譲渡され、新たな活躍の場を得ています。

その他の出来事

国鉄民営化以前から行われていた「いい旅チャレンジ20,000km」キャンペーンが3月に終了しました。これは、当時の国鉄全線を完乗するという鉄道ファンにとって象徴的な取り組みでした。

安全に関わる出来事としては、10月には田沢湖線で特急列車とバスが衝突する事故が発生しました。また、11月には釜石線で急行列車が燃料切れで立ち往生するという珍しいトラブルも起きています。

1990年は、都市の発展を支える新線建設や既存路線の改良が進む一方で、地方路線の再編も進み、新型車両が次々と登場するなど、日本の鉄道が様々な変化を経て次の時代へと歩みを進めた一年と言えるでしょう。

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