1996年の文学

1996年（平成8年）は、日本の文学界において、歴史的な発見や新たな才能の台頭、そして多くの著名な作家たちの逝去など、様々な出来事があった年です。この項目では、1996年の文学シーンを多角的に振り返ります。

三島由紀夫に関する新資料の発見と文学館構想

1996年の文学界における最も注目すべき出来事の一つは、三島由紀夫に関する大量の未発表資料が発見されたことです。これは4月14日に明らかになり、前年に亡くなった夫人、平岡瑤子氏が大切に保管・整理していた未発表作品の原稿や創作ノートなどが含まれていました。これらの貴重な資料は、同年4月26日、山梨県南都留郡山中湖村へ譲渡されることが決定。村議会では、これらの資料を収蔵・展示するための「三島由紀夫文学館」の建設が決議されました。さらに9月12日には、山中湖村のホテルマウント富士にて「第一回 三島由紀夫シンポジウム」が開催され、発見されたばかりの未発表原稿などが多数公開され、大きな反響を呼びました。

主要な文学賞の動向

この年もまた、多くの作家や作品が文学賞を受賞しました。

芥川龍之介賞・直木三十五賞
第114回（1995年下半期）：芥川賞は又吉栄喜氏の『豚の報い』が、直木賞は小池真理子氏の『恋』と藤原伊織氏の『テロリストのパラソル』が受賞しました。
第115回（1996年上半期）：芥川賞には川上弘美氏の『蛇を踏む』が、直木賞には乃南アサ氏の『凍える牙』が選ばれています。

その他の賞
谷崎潤一郎賞（第32回）は、該当作品なしとなりました。
泉鏡花文学賞（第24回）は、柳美里氏の『フルハウス』と山田詠美氏の『アニマル・ロジック』が受賞。
山本周五郎賞（第9回）は、天童荒太氏の『家族狩り』に贈られました。
柴田錬三郎賞（第9回）は、連城三紀彦氏の『隠れ菊』が受賞しました。

1996年に出版された主な作品

この年も多種多様な作品が出版され、読者の注目を集めました。

小説
伊井直行氏『三月生まれ』、佐藤亜有子氏『ボディ・レンタル』、敷村良子氏『がんばっていきまっしょい』、乃南アサ氏（直木賞受賞作）『凍える牙』、野沢尚氏『恋愛時代』、馳星周氏『不夜城』、林真理子氏『不機嫌な果実』、坂東眞砂子氏『山妣』、藤野千夜氏『少年と少女のポルカ』、宮部みゆき氏『蒲生邸事件』、村上春樹氏『レキシントンの幽霊』、村田喜代子氏『蟹女』、森博嗣氏『すべてがFになる』、柳美里氏（泉鏡花賞受賞作）『フルハウス』など、多彩なジャンルの作品が登場しました。

ノンフィクション・その他
赤瀬川原平氏による辞書に関するユニークなエッセイ『新解さんの謎』、河合隼雄氏と村上春樹氏の対談集『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』、村上春樹氏のエッセイ集『うずまき猫のみつけかた』、宮崎駿氏の作品集『出発点 1979〜1996』、米原万里氏のエッセイ集『魔女の1ダース』など、文学以外の分野でも話題となる書籍が出版されました。

文壇を去った人々

1996年は、日本の文学界だけでなく、世界の文学界からも偉大な才能が失われた年でもあります。1月には、『ガロ』創刊編集長の長井勝一氏、ノーベル文学賞詩人のヨシフ・ブロツキー氏が逝去。2月には、『竜馬がゆく』などで歴史小説に新たな地平を切り拓いた作家の司馬遼太郎氏、ハードボイルド作家の大藪春彦氏が亡くなりました。3月には、作家の飯干晃一氏、フランスの著名な小説家・脚本家マルグリット・デュラス氏、ギリシアのノーベル文学賞詩人オデッセアス・エリティス氏が鬼籍に入りました。4月には、『メリー・ポピンズ』シリーズで知られるイギリスの児童文学作家パメラ・トラバース氏が。6月には、波乱の生涯を作品に昇華させた作家の宇野千代氏が亡くなりました。8月には、政治学・思想史研究で知られる丸山真男氏が。12月には、南アフリカ出身の文筆家ローレンス・ヴァン・デル・ポスト氏、『ひとまねこざる』シリーズの絵本作家マーグレット・レイ氏が逝去しました。
多くの重要な人物がこの年に亡くなり、文学界に大きな喪失感をもたらしました。

結び

1996年は、三島由紀夫の新資料発見という過去の遺産に光が当たると同時に、新たな作家たちが登場し、多彩な作品が生み出された年でした。また、多くの著名な文学者たちがこの世を去り、一つの時代の区切りを感じさせる年でもありました。これらの出来事が重なり合い、1996年の文学シーンを特徴づけています。

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