1996年の日本競馬

1996年（平成8年）、日本の競馬界は大きな変革期を迎えました。

GI競走の拡充と体系の変化

この年、日本中央競馬会（JRA）はGI競走を3つ新設するなど、競走体系の整備を積極的に進めました。

まず、それまで4歳（現3歳）牝馬限定だったエリザベス女王杯が、古馬（現4歳以上）牝馬にも開放され、距離も2400メートルから2200メートルに変更されました。これはJRA史上初めて、古馬が出走できる牝馬限定GIとして大きな注目を集めました。この年のレースでは、前年のオークス馬ダンスパートナーが優勝。1994年のエリザベス女王杯勝ち馬ヒシアマゾンは2位に入線したものの、残念ながら降着となりました。また、エリザベス女王杯への主要なステップレースとして、府中牝馬ステークスの距離が1800メートルに延長されました。

エリザベス女王杯の条件変更に伴い、新たな4歳牝馬限定GIとして秋華賞が京都競馬場芝2000メートルに創設されました。これにより、牝馬三冠競走が桜花賞、優駿牝馬（オークス）、秋華賞という形に確立されました。秋華賞が従来のローズステークスの時期に行われることになったため、ローズステークスは1か月前倒しで阪神競馬場に移設され、クイーンステークスは距離が短縮されるなど、ステップレースの体系も変更されました。記念すべき第1回秋華賞では、優駿牝馬を制したエアグルーヴがまさかの大敗を喫する中、休養明けだったファビラスラフインが1分58秒1という好タイムで快勝しました。

春の短距離戦線にも変化があり、芝2000メートルのGIIだった高松宮杯が芝1200メートルに短縮され、GIに昇格しました。これは中京競馬場にとって初めてのGIレースとなりました。ステップレースとしては、オープン特別だったシルクロードステークスがGIIIに昇格。フラワーパークがこのシルクロードステークスから高松宮杯を連勝し、秋にはスプリンターズステークスも制して史上初の春秋スプリントGI制覇を達成しました。高松宮杯には三冠馬ナリタブライアンも果敢に挑戦し大きな話題となりましたが、スプリントのペースに対応できず4着に敗れ、屈腱炎を発症したため、このレースが結果的に彼の引退レースとなりました。

4歳馬（現3歳馬）のマイル路線の頂点を決める競走として、NHKマイルカップが新設されました。これに伴い、ダービートライアルだったNHK杯は廃止され、新たにプリンシパルステークスが新設されました。NHKマイルカップのステップレースとしては、ニュージーランドトロフィー4歳ステークスが1400メートルに短縮されました。第1回のNHKマイルカップはハイペースの展開となり、タイキフォーチュンが1分32秒6のレコードタイムで勝利。外国産馬が上位を独占し、その能力の高さを示す結果となりました。

サンデーサイレンス旋風と躍動する名馬たち

種牡馬サンデーサイレンスの産駒が、牡馬クラシック路線を中心に圧倒的な強さを見せつけました。皐月賞ではイシノサンデーとロイヤルタッチが1、2着を独占。弥生賞勝ち馬ダンスインザダークの発熱や、スプリングステークス勝ち馬バブルガムフェローの骨折といった有力馬の回避があったにも関わらず、その勢いは止まりませんでした。東京優駿（日本ダービー）ではフサイチコンコルドが勝利し、ダンスインザダークは2着に惜敗しましたが、秋にはダンスインザダークが菊花賞を制覇。特に菊花賞では、長距離レースでは異例ともいえる33秒台の上がりタイムを記録し、改めてサンデーサイレンス産駒の末脚の切れ味と、当時の日本競馬における中長距離戦のペース変化への適応力を印象づけました。バブルガムフェローは骨折からの休養を経て、秋には59年ぶりに4歳馬として天皇賞（秋）を制覇。イシノサンデーはダート路線に進み、ダービーグランプリを制して中央クラシックホースの意地を見せました。

明け5歳となったサンデーサイレンスの初年度産駒も躍動しました。秋のエリザベス女王杯ではダンスパートナーが古馬開放後最初の覇者となり、続くマイルチャンピオンシップではジェニュインが勝利。バブルガムフェロー、ダンスインザダーク、ダンスパートナー、ジェニュインと、社台ファーム生産のサンデーサイレンス産駒が4週連続でGIを制するという快挙を成し遂げました。また、4歳時に故障で棒に振ったマーベラスサンデーが復帰後、条件戦から重賞を4連勝し、有馬記念でも2着に入線。宝塚記念でも同じく故障明けのサンデーブランチが2着に入るなど、成長力を見せつけました。サンデーサイレンスはこの年も2年連続のリーディングサイヤーに輝き、その圧倒的な優位に対抗するためか、日高地区の生産者グループが44億円ものシンジケートを組んで海外の強豪ラムタラを輸入しましたが、結果的には期待通りの成果は得られませんでした。

ホクトベガ、ダートで不滅の輝き

交流競走では、7歳牝馬ホクトベガが凄まじい連勝劇を繰り広げ、出走する競馬場には多くのファンが詰めかけました。前年にエンプレス杯を圧勝後、芝路線に戻っていた彼女は、年齢や前年の成績から引退・繁殖入りも検討されていましたが、川崎記念で前年のダート王ライブリマウントを破り、その後のフェブラリーステークス（当時はGII）も圧勝。ダイオライト記念、群馬記念、帝王賞、エンプレス杯、南部杯と勝利を重ね、地方交流重賞を7連勝。特にエンプレス杯、南部杯では8馬身、7馬身という圧倒的な着差で優勝しました。ダート戦では年間8戦全勝という驚異的な成績を残し、ダート界の女王として君臨しました。

「花の12期生」デビュー

この年、競馬学校を卒業した新人騎手たちは「花の12期生」と呼ばれ、デビュー直後から頭角を現しました。中でも、「天才」と呼ばれた故福永洋一騎手の息子、福永祐一騎手は初騎乗から連勝を飾り、新人最多の53勝を挙げました。後のテイエムオペラオーの主戦騎手となる和田竜二騎手も年末に重賞初勝利を挙げ、古川吉洋騎手も2年目にGIを制覇するなど活躍を見せました。また、JRA初の女性騎手である田村真来騎手、増沢（牧原）由貴子騎手、細江純子騎手の3名もこの年デビューし、話題となりました。

その他の主な出来事

中央競馬では、福島競馬場の改修工事に伴い開催場や日程の変更がありました。また、関西の春季・夏季開催の順序も変更されました。

年間を通じて、多くの出来事がありました。電話投票システムSPAT4の開始や新盛岡競馬場のオープン、地方競馬での単勝式発売開始といったインフラの進展。皇帝シンザンの長寿記録更新と、多くのファンに見守られながらの逝去。JRA理事長の交代。ホクトベガの歴代牝馬賞金女王獲得。ラムタラのような海外からの有力種牡馬導入。阪神・淡路大震災の復興支援競馬の開催。安田富男騎手、横山典弘騎手といったベテラン騎手の記録達成。ナリタブライアンの引退。ダートグレード競走格付け委員会の設立など、多岐にわたるニュースが競馬界を彩りました。

この年は、サクラローレルが年度代表馬に選ばれるなど、古馬戦線も盛り上がりを見せました。また、この年に生まれた馬たちは、1999年のクラシック世代として、後の競馬史に名を刻むことになります。

1996年は、新しいGI競走の導入、サンデーサイレンス産駒の台頭、ダート交流競走の盛り上がり、そして有望な新人騎手のデビューなど、将来の日本競馬を形作る上で重要な礎が築かれた一年と言えるでしょう。

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