2013年の文学

2013年（平成25年）の文学界は、話題のベストセラーの登場や権威ある文学賞の発表、そして長らく埋もれていた作家の原稿発見など、多岐にわたる出来事によって彩られました。この年は、国内はもとより海外においても、文学が広く読まれ、議論される一年となりました。

話題となった出来事

特に大きな注目を集めたのは、村上春樹氏の長編小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が4月に刊行されたことです。発売前から大きな期待が寄せられ、出版されるやいなや、トーハン発表の年間ベストセラーで総合第2位にランクインする記録的な売れ行きを見せました。また、桜木紫乃氏の小説『ホテルローヤル』も、1月に発売されてから年間ベストセラー総合14位に食い込むなど、多くの読者を獲得しました。

文学史上の発見もありました。2月には、文豪・川端康成の未発表小説『勤王の神』の自筆原稿が鶴見大学図書館で確認され、研究者の間で話題となりました。同時期には、川端氏が1927年に福岡日日新聞で連載した初の新聞連載小説『美しい！』も研究者によって確認され、初期の作品に対する新たな光が当てられました。

また、ラジオ放送も文学に親しむ機会を提供しました。4月には、NHKラジオ第2放送で『英語で読む村上春樹』の放送が開始され、村上作品を原語で味わう試みが続けられました。

主要な文学賞

権威ある芥川龍之介賞と直木三十五賞は、この年2回選考が行われました。まず、1月に行われた第148回（2012年下半期）では、芥川賞に黒田夏子氏の『abさんご』、直木賞には朝井リョウ氏の『何者』と安部龍太郎氏の『等伯』が選ばれました。続く7月の第149回（2013年上半期）では、芥川賞は藤野可織氏の『爪と目』に、直木賞は前述の年間ベストセラーとなった桜木紫乃氏の『ホテルローヤル』にそれぞれ授与されました。特に桜木氏は直木賞受賞が話題を呼び、作品の売れ行きをさらに伸ばす結果となりました。

その他の国内主要文学賞も活発に選考が行われました。主な受賞者・作品は以下の通りです。

第49回谷崎潤一郎賞：川上未映子『愛の夢とか』
第41回泉鏡花文学賞：磯崎憲一郎『往古来今』
第35回野間文芸新人賞：いとうせいこう『想像ラジオ』
第64回読売文学賞：多和田葉子、松家仁之、ヤン・ヨンヒ、池内紀、和田悟朗、亀山郁夫、宮下志朗
第47回吉川英治文学賞：小池真理子『沈黙のひと』
第34回吉川英治文学新人賞：伊東潤『国を蹴った男』、月村了衛『機能警察 暗黒市場』
第66回日本推理作家協会賞（長編）：山田宗樹『百年法』
第59回江戸川乱歩賞：竹吉優輔『ブージャム狩り』
第26回三島由紀夫賞：村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』
第26回山本周五郎賞：小野不由美『残穢』
第26回柴田錬三郎賞：東野圭吾『夢幻花』
第24回伊藤整文学賞：辻原登『冬の旅』、三木卓『K』
* 第44回大宅壮一ノンフィクション賞：船橋洋一『カウントダウン・メルトダウン』

海外文学賞では、2013年のノーベル文学賞がカナダの短編小説家アリス・マンロー氏に贈られたことが大きなニュースとなりました。ブッカー賞はエレノア・カットン氏『The Luminaries』、フランツ・カフカ賞はアモス・オズ氏が受賞しています。

2013年の注目書籍

この年には、ベストセラーとなった村上春樹氏や桜木紫乃氏の作品のほかにも、いとうせいこう氏『想像ラジオ』、小川洋子氏『いつも彼らはどこかに』、角田光代氏『私のなかの彼女』、川上未映子氏『愛の夢とか』、黒田夏子氏『abさんご』、和田竜氏『村上海賊の娘』など、多くの話題作が刊行されました。

逝去された人々

2013年は、多くの著名な文学関係者が惜しまれつつ亡くなりました。国内では、小説家の安岡章太郎氏（92歳）、今邑彩氏、殊能将之氏、北原亞以子氏（75歳）、高橋たか子氏（81歳）、山崎豊子氏（88歳）、文芸評論家の秋山駿氏（83歳）、絵本作家のやなせたかし氏（94歳）らが挙げられます。海外では、ノーベル文学賞受賞者のチヌア・アチェベ氏（ナイジェリア、82歳）、シェイマス・ヒーニー氏（アイルランド、74歳）、ドリス・レッシング氏（イギリス、94歳）をはじめ、リチャード・マシスン氏（アメリカ、87歳）やトム・クランシー氏（アメリカ、66歳）といった著名な作家がこの世を去りました。

まとめ

2013年の文学は、新人からベテランまで幅広い作家が活躍し、読者に多くの感動や思索の機会を提供しました。ベストセラー作品の社会現象化、文学史上の重要な発見、そして国内外の多様な文学賞の選考を通じて、文学が社会や文化の中で果たしている役割が改めて示された一年と言えるでしょう。また、多くの偉大な作家や文学関係者がこの世を去り、文学界にとって大きな損失となった年でもありました。

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