SA 316 (航空機)

アルエットIII：多用途ヘリコプターの金字塔

SA 316およびその改良型SA 319、通称アルエットIII（Alouette III）は、フランスのシュド・アビアシオン社（現エアバス・ヘリコプターズ）が開発した単発エンジン式軽汎用ヘリコプターです。アルエットとはフランス語で「ヒバリ」を意味します。その高い汎用性と信頼性から、世界各国で軍用、民間用を問わず幅広く運用され、2,000機以上が製造されました。

開発の経緯

アルエットIIIは、前作SE.3130の拡大発展型として開発されました。1959年2月28日に試作初号機が初飛行に成功し、翌年にはモンブラン山頂上空4,810mまでの飛行記録を達成しました。機体はキャビンが拡大され、7人乗りとなりました。コックピットは、右から正操縦士、副操縦士、クルーチーフが並んで座る独特の配置となっています。胴体とテイルブームは外皮構造となり、降着装置は3車輪式に変更されました。エンジンのパワーアップに伴い、メインローターの直径も拡大されました。

アルジェリア戦争において、フランス軍は高速かつ十分な武装を搭載できるヘリコプターを必要としていました。アルエットIIIはその要求を満たし、各種有線誘導ミサイルや機関銃などの武装を搭載して試験を行った結果、軍用ヘリコプターとして正式採用されました。

実戦での運用

アルエットIIIは、冷戦中の各種戦争や紛争において、対地攻撃、輸送、偵察、救急など多岐にわたる任務で使用されました。特に実戦経験が多く、その性能と汎用性が評価されました。フランス軍は、1960年代のアルジェリア戦争に投入し、SS.10やSS.11といった対戦車ミサイルを装備して、アルジェリア独立派ゲリラの攻撃に従事しました。

その後も、印パ戦争、ローデシア紛争、ポルトガル植民地における独立戦争、南アフリカ国境戦争など、1980年代まで世界各地の紛争で運用されました。バングラデシュ独立戦争では、インドから寄贈されたSA316が、武装を施されガンシップヘリとして投入されました。

オランダ空軍では、アクロバットチーム「グラスホッパーズ」で運用され、ヘリコプター弦楽四重奏曲の世界初演にも使用されるなど、多様な活用をされました。海軍では、艦載機としてレーダー、ディッピングソナー、磁気探知機などの捜索用センサー類や短魚雷を搭載し、対潜哨戒や、AS.12有線誘導ミサイルによる対艦攻撃、捜索救難任務に運用されました。

警察や消防などの公共機関、民間企業でも広く使用され、その汎用性の高さを示しました。

多様な派生型

アルエットIIIは、さまざまな用途に対応するため、多くの派生型が開発されました。

SA 316A: 初期生産型。元々の形式番号はSE.3160。
SA 316B: エンジンを強化し、ローターも強化した性能向上型。インドとルーマニアでライセンス生産されました。
IAR 316: SA 316Bのルーマニアモデル。東側規格のロケット弾ポッドや対戦車ミサイルの装備が可能。
HAL Chetak: SA 316Bのインドモデル。現在でも生産が継続されています。
SA 319B: エンジンを換装し、高高度性能を向上させた型。スイスでライセンス生産されました。
SA 316C: エンジンを換装した型。少数のみ製造されました。
G-Car: ローデシア空軍における汎用型の呼称。ドアガンを装備。
K-Car: ローデシア空軍におけるガンシップ仕様の呼称。20mm機関砲を装備。
IAR 317 スカイフォックス: ルーマニアがIAR 316をベースに設計した攻撃ヘリコプターの試作機。
XH-1 アルファ: 南アフリカがSA 316をベースに試作した攻撃ヘリコプター。AH-2 ローイファルク開発のための研究機として製造。

世界各国での運用

アルエットIIIは、軍用、民間用問わず、世界中で幅広く運用されました。

軍用: 各国軍において、輸送、偵察、攻撃、救難など、さまざまな任務で使用されました。
民間: アメリカ合衆国では救難ヘリとして、日本では消防ヘリとして運用されました。地方公共団体の消防組織で使用されましたが、現在は退役しています。

性能・主要諸元 (SA-316B)

乗員：2名
乗客：5名（標準型）
全長：10.03m
主回転翼直径：11.02m
全高：3.09m
空虚重量：1.108t
吊下可能重量：2.1t
最大離陸重量：2.2t
発動機：チュルボメカ アルトウステ IIIB ターボシャフトエンジン（425kw）×1基
超過禁止速度：210km/h
航続距離：540km
上昇率：4.5m/sec

保存されている機体

日本国内では、以下の場所でアルエットIIIが保存されています。

東京都新宿区の消防博物館：日本初の消防ヘリコプター「ちどり」と「かもめ」(JA9020、JA9071)
岐阜県各務原市の岐阜かかみがはら航空宇宙博物館：名古屋市消防局で使用された「なごや」(JA9093)
東京都千代田区の丸の内消防署に東京消防庁航空隊で使用された「みずたま」(JA9121)
京都府京都市南区の京都市民防災センター：京都市消防局で使用された「きょうと1」(JA9072)
福岡県福岡市早良区の防災センター：福岡市消防局で使用された「あかとんぼ」(JA9136)の胴体部
福岡県福岡市中央区の少年科学文化会館：福岡市消防局で使用された「あかとんぼ」(JA9136)のエンジン

登場作品

アルエットIIIは、映画作品にも登場しています。

『北京原人の逆襲』: 王立香港空軍所属機が登場。香港の街中で暴れまわる北京原人を攻撃します。
『ゴジラ』: 有楽町に現れたゴジラに接近しますが、放射火炎で撃墜され、首都高速道路に墜落し大火災の原因となります。

関連情報

ヘリコプターの一覧
SA 315 (航空機)

外部リンク

www.aviastar.org（英語）
Globalsecurity.org（英語）
FAS.org（英語）
南アフリカ空軍公式サイト - Alouette III（英語）
* ルーマニア空軍公式サイト：ルーマニア製IAR-316B（ルーマニア語）

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