オドリコ

ポルデノーネのオドリコ

ポルデノーネのオドリコ（俗名 オドリコ・マッティウシ、1286年 - 1331年1月14日）は、後期中世イタリアに生きた高名な旅行家であり、フランシスコ会修道士です。彼は、当時のヨーロッパ人としては極めて稀な、インドや中国を含む広範囲にわたる東方への旅を成し遂げ、その見聞録は後世の地理的知識に大きな影響を与えました。

フリウーリ地方のポルデノーネ近郊、ヴィラノヴァ村で生まれたオドリコの先祖は、チェコ系のマッティウシ家と伝えられています。若い頃にフリウーリの州都ウーディネでフランシスコ会に入会し、修道士としての道を歩み始めました。13世紀後半から14世紀初頭にかけては、モンゴル帝国の広大な支配域を通じた東西交流が活発化しており、教皇庁も外交や布教のため東方への使節を派遣していました。オドリコもまた、このような時代背景の中、教皇庁の東方政策の一環として、布教と外交の両面を兼ねた使命を帯びて旅立つことになります。

彼の最も有名な大旅行は、1318年4月にイタリアのパドヴァを出発したことに始まります。ヴェネツィアを経てコンスタンティノープルへ向かい、黒海を渡ってトルコのトラブゾンに到達しました。そこからアルメニア、メディアを経由し、フランシスコ会が布教拠点を置いていたペルシアへと入りました。スルターニヤ、カーシャーン、ヤズド、古代都市ペルセポリス、シーラーズ、そしてバグダッドといった主要都市を巡り、ペルシア湾岸のホルムズに至ります。アイルランド人の同僚修道士ジェイムズと共に、ホルムズから海路でインドを目指しました。

インドでは、ボンベイ近郊のターネーに上陸します。この地では、少し前にイスラム教徒の知事によって殉教させられた4人のフランシスコ会士（イタリア人3名、グルジア人1名）がいました。彼らの遺骨は、カタルーニャの修道士ヨルダヌスらによって集められ、近郊の地（現在のヴァサイにあたるスーパラ）に埋葬されていました。オドリコは、この殉教者の墓地を訪れ、遺骨を掘り起こして今後の旅に携行することを決めました。その後、彼はインド各地を巡り、フランドリナ、シンギリン（現在のクランガノル）、クイロン、そしてセイロン島を経て、インド南部のマラバール地方にある、使徒トマスの遺骸があるとされる教会に到達しました。

インドからは大型のジャンク船に乗り換え、東南アジアへと渡ります。スマトラ島を経てジャワ島に到達した彼は、当時のジャワ王がフビライ・ハーン率いるモンゴル軍（大元ウルス軍）の侵攻を何度も撃退したという記述を残しています。その後、ボルネオ島付近を北上し、ザンパ（チャンパー）を経てさらに北東へ進みます。ニコバル諸島、シラン島（セイロン島）、ドンディン島（アンダマン諸島）といった島々を経由し、ついに中国南部のチェンスカラン（広東）にたどり着きました。

広東からは中国国内を陸路で北上しました。ザイトン（泉州）、フゾ（福州）、カンサイ（杭州）、チレンフ（南京）、イアムザイ（揚州）、レンズィン（臨城）、スンズマトゥ（済寧）といった主要都市を経て、目的地であるカンバリク（現在の北京）に到着しました。ザイトンでは、すでにフランシスコ会の大規模な修道院が二つ建てられており、オドリコはここでインドから携えてきた殉教者たちの遺骨を丁重に埋葬しました。

オドリコは北京に1324年から1327年頃まで、およそ3年間滞在したと考えられています。この時期、北京にはアジア東方におけるカトリック教会の基礎を築いたジョヴァンニ・ダ・モンテコルヴィーノが活動しており、オドリコも彼が設立した教会の一つと関係を持っていたと推測されます（モンテコルヴィーノは1328年に死去）。

約3年間の滞在を終えたオドリコは、1327年頃に北京を発ち、帰国の途につきます。彼は西方へ向かう陸路を選び、約50日後に伝説上のプレスター・ジョンの王国とされる地域へ到達したと記しています。その後、トザン、カンサンを経て、チベット、ラサといった地を通過し、ミレストルテなどを経由して旅を続け、1329年末から1330年初頭にかけて故郷イタリアのヴェネツィアに無事帰還しました。

長旅を終えたオドリコは、アヴィニョンの教皇庁を訪問して旅の報告を行おうとしましたが、途中のピサで病に倒れてしまいました。その後、故郷に近いウーディネへ戻り、1331年1月14日にそこでその生涯を終えました。彼の旅の口述記録は、帰国後の1330年5月にパヴィアで、ソラーニヤのグリエルモ修道士によってラテン語で筆記され、「東方旅行記」として残されました。彼は旅の間、アイルランド人修道士ジェイムズを伴っていたと考えられており、オドリコの死後、ジェイムズの名がウーディネの公記録に見えます。

彼の極めて遠大な旅の名声は、同時代の他の修道士たちよりも、特に彼の故郷であるフリウーリ地方の人々に大きな感銘を与えました。彼の死後、当初修道会は特別な儀式なく彼を埋葬しようとしましたが、彼の驚くべき旅の逸話や死後の奇跡の噂が急速に広まり、人々の間で崇敬の念が燃え上がりました。これを受け、地方当局の指示によって公的な葬儀が改めて行われ、最終的にはアクイレイア大司教や高官たちの参列のもと、盛大に執り行われました。人々の熱狂はやがて彼を聖人のように崇めさせ、地方政府は彼の遺体を安置するための壮麗な聖堂を建設しました。14世紀中頃には、旅行家として、また聖者としての彼の名声は広くヨーロッパに知れ渡るようになりました。しかし、教皇庁によって正式に列福されたのは、彼の死から4世紀も後の1755年になってからのことです。故郷ポルデノーネには、1881年に彼の半身像が建てられています。

オドリコの旅行記は、ラテン語版のみならず、フランス語やイタリア語など様々な言語で多くの写本が作成され、現在でも70以上の写本が確認されています。14世紀中頃から広く読まれ人気を博しましたが、内容に一部不正確な記述が含まれることから、その価値を疑問視する声もありました。しかし、オドリコの旅行記の真価は、単なる正確さだけではなく、その非凡な旅程と、当時のヨーロッパ人にとって未知であった東方の様々な事物に関する独自の記述にあります。特に、彼の旅行記は、後に「東方旅行記」でアジアの驚異を記したジョン・マンデヴィルに大きな影響を与えましたが、マンデヴィルがオドリコの記述を潤色、あるいは盗用した部分が多いと考えられています。オドリコは、スマトラ島の正確な名称に言及した最初のヨーロッパ人であり、マルコ・ポーロの記録にはない中国の纏足についても記述を残しています。これらの点は、旅行家としての彼の鋭い観察眼と功績を示すものです。

多くの奇跡が彼の墓で報告されたことから、教皇ベネディクト14世は1755年にオドリコを列福しました。彼の旅行記と生涯は、中世ヨーロッパ人の東方に対する知識を深め、後の大航海時代への文化的・地理的な影響を与えた重要な足跡として記憶されています。

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