七宝

七宝：世界に広がる金属装飾の技法

七宝は、金属製の基材にガラス質の釉薬を焼き付けて装飾する技法、およびその製品を指します。この技法は古今東西、世界各地で見られ、地域や時代によって名称や技法にバリエーションがあります。

名称の変遷と地域差

日本では、仏教用語の「七宝」または「七宝瑠璃」に由来する名称で呼ばれ、「七宝流し」「びいどろざ」「七宝象嵌」など、時代や地域によって呼称が変化してきました。英語圏では「enamel（エナメル）」が一般的で、有線七宝はフランス語由来の「cloisonné（クロワゾネ）」と呼ばれます。中国語では「琺瑯（fàláng）」ですが、日本では鉄器に釉薬を施したものに「琺瑯（ホウロウ、ホーロー）」という名称を用いることが多いです。英語圏では、樹脂製のエナメルとの区別のために「hot enamel」と呼ばれることもあります。樹脂製のものは「cold enamel」と呼ばれます。これらの他、世界各地で独自の名称で呼ばれる七宝が存在します。

七宝の起源と伝播

七宝の起源は紀元前の古代エジプトとされ、中近東で技法が確立された後、シルクロードを通じ中国、そして日本へと伝わったと考えられています。しかし、その伝播経路は一本道ではなく、多様なルートを経由して広まったと考えられています。

西欧・中近東の七宝

西欧

西洋における七宝は紀元前から存在し、ケルト人の遺品にもその痕跡が見られます。古代メソポタミアや古代エジプトでも、七宝釉と似た人工ガラスが作られており、ローマン・グラス、サーサーン朝ペルシャのカットグラス、ビザンティン・グラス、イスラーム・グラス、ベネチアン・グラス、ボヘミアン・グラスなど、様々なガラス工芸と発展を遂げました。ビザンティン帝国で洗練されたクロワゾネ技法は特に有名で、サン・マルコ寺院のパラ・ドーロや『リンブルクの聖遺物容器』などは、その技術の高さを見事に示しています。12世紀から15世紀にかけては、フランスのリモージュやパリ、ドイツのケルン、スイスのジュネーブなどで、ロンドボス、バスタイユ、グリザイユ、細密描画といった様々な技法が発展しました。モサン地方では最高品質のシャンルヴェ製品が生産されていました。近代には、アール・ヌーヴォーのルネ・ラリックなども七宝を用いた作品を残しています。

スペイン

スペインでは、西ゴート族の時代（5～8世紀）から七宝の技法が見られます。カスティーリャラ（セゴビア）の墓地遺跡から出土したベルトバックルや、ドゥラトンなどのネクロポリスで見つかったフィブラなどは、その初期の例として注目されています。中世には宝石や聖遺物箱の装飾に使用され、フランスのリモージュやスペインのカスティーリャ地方の装飾品は特に優れていました。近年では、マリエラ七宝（バルセロナ七宝）がアール・ヌーヴォー様式として注目を集めています。

中近東

中近東コーカサス地方では、ミナンカリと呼ばれる、教会の装飾やジュエリーなどに用いられる七宝が制作されています。

ロシアの七宝

ロシアには、ルーシの諸公国が登場した頃に七宝の技法が伝わったとされています。1175年のモスクワイパーチー年代記に最初の記述があり、16～17世紀には産業として発展しました。18世紀以降はロストフ・ヴェリーキーで工芸品が盛んに作られ、19～20世紀にはファベルジェが、エナメルを装飾に用いた作品を制作しました。フィニフティは、ロストフ・ヴェリーキーで生産される七宝細工を指します。

中国の七宝

中国では七宝を「琺瑯」と呼び、元時代（1271～1368年）頃から製造が始まり、日本にも伝わったと考えられています。『新増格古要論』には、外国の技術に基づく七宝の記述があり、明時代の景泰年間(1450～1457年)に作られた掐糸琺瑯（景泰藍）は特に評価が高く、青銅を素地とし、青色の釉薬が特徴です。清代には画琺瑯が発展し、ヨーロッパの影響を受けた作品も制作されました。

日本の七宝

日本の最古の七宝遺物は、牽牛子塚古墳から出土した「七宝亀甲形座金具」とされていますが、藤ノ木古墳出土の金銅製鞍金具を最古とする説もあります。奈良時代の正倉院宝物や平安時代の平等院鳳凰堂の扉などにも七宝が用いられています。室町時代以降は記録が多く残っており、安土桃山時代には各地で作られるようになりました。

近世七宝

中世以降、仏教荘厳の宝石類の総称として「七宝」が使われていました。室町期の勘合貿易で明から輸入された七宝器は「七寶瑠璃」と呼ばれました。安土桃山時代後期には、伊予松山出身の金工師・嘉長が京都で「七宝流し」の技法を用いた作品を作り、曼殊院や桂離宮などの装飾に使用されました。江戸時代初期には、平田道仁が幕府御抱職人となり、平田七宝として刀剣などの装飾を行いました。平田七宝は透明性の高い七宝技術に優れ、江戸時代を通じて家伝で伝えられました。その他、九州にも平田を名乗る金工師がおり、平戸七宝なども制作されました。江戸時代中期以降は、高槻七宝、吉田屋、加賀七宝、近江七宝など、各地で独自の七宝が発展しました。江戸末期には平塚茂兵衛が透明釉を用いた七宝を作り、内国勧業博覧会で受賞しました。尾張七宝や、陶工による七宝制作も行われていました。

近代七宝

明治以降、七宝は装飾品、工芸品、勲章、建築装飾など、幅広い用途で使用されるようになりました。現在でも、伝統的な技法を守りながら、現代的なデザインを取り入れた七宝作品が制作されています。

七宝の用途

七宝は、小さな装身具から大きな壺まで、様々な作品に用いられます。近年では、高級車のエンブレムなどにも使用されています。

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