淡海三船

淡海三船（おうみ の みふね）

淡海三船は、奈良時代後期の皇族、貴族、そして文人として多岐にわたる才能を発揮した人物です。弘文天皇の曾孫にあたり、内匠頭・池辺王の子として生まれました。初めは御船王と名乗っていましたが、後に臣籍降下し、淡海真人姓を賜りました。最終的な官位は従四位下・刑部卿、勲位は勲三等です。

生涯

天平年間には唐僧・道璿に師事し出家、元開と号しました。しかし、孝謙朝の天平勝宝3年（751年）に勅命により還俗し、淡海真人の氏姓を与えられ、淡海三船と改名しました。その後、式部少丞や内豎といった役職を歴任しましたが、朝廷を誹謗したとして一時的に禁固されたこともあります。

淳仁朝では、尾張介や山陰道巡察使を経て、従五位下・駿河守に叙任されるなど地方官を歴任しました。恵美押勝の乱では、孝謙上皇側として活躍し、その功績により昇進と叙勲を受け、近江介に任ぜられました。その後も兵部大輔や侍従を歴任し、東山道巡察使も務めましたが、地方官への厳しい検察が問題となり、大宰少弐に転じました。

光仁朝では、刑部大輔や大学頭、文章博士などを歴任し、最終的に従四位下に叙せられています。桓武朝では刑部卿に任命されましたが、延暦4年（785年）に64歳で亡くなりました。

人物

淡海三船は非常に聡明で、多くの書物を読破し、文学や歴史に深い知識を持っていました。また、書を好む文人でもあり、奈良時代末期には石上宅嗣と並び「文人の首」と称されるほどの存在でした。

若い頃に唐人の薫陶を受けた僧であったことから、外典や漢詩にも優れており、『経国集』には漢詩5首が収録されています。また、現存最古の漢詩集である『懐風藻』の撰者であるとする説も有力です。

さらに、『釈日本紀』所引「私記」には、神武天皇から持統天皇までの天皇（弘文天皇を除く）と神功皇后の漢風諡号を一括撰進したことが記されています。元明天皇と元正天皇の諡号もこの時に撰進されたと考えられていますが、元明天皇については異説も存在します。

宝亀10年（779年）には鑑真の伝記である『唐大和上東征伝』を著しました。この著作は、当時の仏教界における重要な記録として評価されています。また、『続日本紀』の前半部分の編集にも関与したとされています。

『日本高僧伝要文抄』には、『延暦僧録』の「淡海居士伝」の一部が残されており、彼の生涯を知る上で貴重な資料となっています。

官歴

天平勝宝3年（751年）: 臣籍降下、淡海真人姓を賜与
式部少丞、内豎
正六位上、尾張介
天平宝字4年（760年）: 山陰道巡察使
天平宝字5年（761年）: 従五位下、駿河守
天平宝字6年（761年）: 文部少輔
天平宝字8年（764年）: 美作守、正五位上、近江介
天平神護2年（766年）: 功田20町、東山道巡察使
神護景雲元年（767年）: 兵部大輔、東山道巡察使解任、大宰少弐
宝亀2年（771年）: 刑部大輔
大学頭
宝亀3年（772年）: 兼文章博士
宝亀8年（777年）: 大判事
宝亀9年（778年）: 大学頭
宝亀11年（780年）: 従四位下
天応元年（781年）: 大学頭、御装束司
延暦元年（782年）: 兼因幡守
延暦3年（784年）: 刑部卿
延暦4年（785年）: 卒去（刑部卿従四位下兼因幡守）

系譜

父：池辺王
母：不詳
生母不明の子女
女子：橘島田麻呂室

参考文献

宇治谷孟『続日本紀』中・下、講談社〈講談社学術文庫〉、1995年。
* 宝賀寿男『古代氏族系譜集成』古代氏族研究会、1986年。

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