アルサイド (競走馬)

アルサイド - エプソムダービーに挑んだ悲運のサラブレッド

1955年から1973年にかけて活躍したアルサイドは、イギリスで生産・調教されたサラブレッド競走馬にして種牡馬です。恵まれた体格と能力を誇りながら、1958年のエプソムダービーでは、不正行為による出走妨害という不運に見舞われ、勝利を阻まれました。しかし、その潜在能力の高さと、セントレジャーステークスやキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスといった主要競走での勝利から、もしも妨害がなければダービーを制覇していたであろうと広く信じられています。1958年にはイギリス3歳チャンピオン、翌1959年には古馬チャンピオンにも輝くなど、イギリス競馬史にその名を刻む名馬でした。

華麗なる血統と生い立ち

アルサイドは、ハンフリー・ド・トラフォード準男爵によって生産されました。力強く、体格の良い鹿毛の美しい馬でした。その父は、1955年のリーディングサイアーであり、イギリス古馬チャンピオンにも輝いた名種牡馬アリシドンです。母シェニールは未出走馬でしたが、3,000ギニーでトラフォード準男爵が購入しました。シェニール自身は競走馬としての活躍はありませんでしたが、その血統には、エプソムダービー馬パーシアの母であるライトニングが含まれていました。このライトニングの父は、イギリス競馬史に大きな影響を与えた名種牡馬ハイペリオンです。

さらに遡ると、シェニールの祖母アローは、ゴールドカップ優勝馬フォックスローの全妹であり、ナッソーステークスやヘーヴァリルステークスで好成績を残した名牝でした。アローを祖とするこの牝系は、20世紀で最も重要なクラシックファミリーの一つと評価されており、数々の名馬を生み出しました。その中には、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制しリーディングサイアーにもなったオリオール、アメリカ合衆国年度代表馬であり北米リーディングサイアーにもなったラウンドテーブル、前述のパーシア、1,000ギニーとディアヌ賞を制したハイクレア、ミドルパークステークスと2,000ギニーを制したノウンファクト、1,000ギニーとブリーダーズカップ・ターフを制したペブルス、イギリスクラシック二冠とキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制したナシュワン、1,000ギニー、オークス、アイリッシュダービーを制したサルサビル、アメリカ合衆国牝馬チャンピオンのゴーフォーワンドなど、錚々たる顔ぶれが挙げられます。そして、近年では、日本の競馬界に多大なる影響を与えたディープインパクトもこの牝系に属します。

アルサイドは、ニューマーケットのフリーメーソンロッジ厩舎に所属し、セシル・ボイド＝ロックフォート調教師の指導の下で競走生活を送りました。

充実の競走生活とダービーでの悲劇

アルサイドは遅生まれだったため、2歳シーズンは11月のデビュー戦となりました。初戦は着外に終わりましたが、3週間後のホリスヒルステークスでは圧勝し、翌年のダービーへの期待を高めました。

3歳シーズン、アルサイドはダービー制覇を目指し、クラシックトライアルであるロイヤルステークスに出走。1番人気に支持されましたが、惜しくも2着となりました。その後チェスターヴェース、リングフィールドダービートライアルと勝利を重ね、ダービーへの期待は最高潮に達しました。しかし、運命の悪戯はダービー出走直前に訪れます。馬房で発見された背中の腫れは肋骨骨折によるもので、何者かによる暴行と断定されました。この不正行為によってアルサイドはダービーへの出走を断念せざるを得ず、ダービーはハードリドンが制しました。3着に入ったナガミとの僅差を鑑みれば、アルサイドがダービーを制覇していた可能性は非常に高いと言えるでしょう。

ダービー出走を阻まれたアルサイドでしたが、怪我から回復すると、グレートヴォルティジュールステークスで圧勝。続くセントレジャーでも、最後方から追い上げて大差で勝利を収め、その実力を証明しました。セントレジャーでの圧勝劇は、観客を魅了し、大きな喝采を浴びました。主戦騎手であるハリー・カーは、アルサイドを「私が騎乗した最高の馬」と評し、その潜在能力の高さを示しています。

4歳シーズンはアスコットゴールドカップを目指しましたが、ジョッキークラブカップでは2着、続くヴィクターワイルドステークスでは圧勝するなど、その能力は衰えていませんでした。しかし、ゴールドカップを目前にして関節を痛め、万全の状態で臨むことができず2着となりました。それでも、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスでは、最後方から追い上げて快勝し、その名を再び世界に知らしめました。

合計で11戦8勝という輝かしい戦績を残し、56,042ポンドの賞金を獲得したアルサイドは、種牡馬へと転身しました。

種牡馬としての活躍と現代への影響

アルサイドは気性難の産駒が多かったため、種牡馬としては競走馬時代の活躍ほどの成果は残せませんでした。しかし、初年度産駒のオンシジュウムはオーストラリアのリーディングサイアーとなり、多くの産駒がオーストララシアに輸出され、種牡馬として成功しました。特に、日本に輸出されたリマンドは、オペックホース、アグネスレディー、テンモンといった名馬を輩出した他、メジロマックイーンの母の父として、ドリームジャーニー、オルフェーヴル兄弟、ゴールドシップといった名馬にも影響を与えています。

アルサイドの産駒は、オーストラリアやニュージーランドの競馬界に大きな貢献をし、その血統は現在も世界中で受け継がれています。アルサイド自身の悲運のダービー、そして種牡馬としての成功は、競馬史に大きな足跡を残しました。彼の血統は、現在も世界の競馬界に影響を与え続けているのです。

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