イーワーン

イーワーン (Iwan)

イーワーンとは、イスラーム建築に見られる特徴的な空間要素で、ペルシア語に由来します。具体的には、三方を壁で囲まれ、一方の面が完全に開放された、アーチ状の天井を持つホールや空間を指します。

起源と発展

その起源は7世紀に滅亡したサーサーン朝ペルシャに遡ります。サーサーン朝の建築において顕著に見られたイーワーンは、後の時代に再評価され、11世紀から12世紀にかけてのセルジューク朝時代に、イスラーム建築の基本的な設計要素として確立されました。

イーワーンは通常、中庭に面して設けられ、公共建築だけでなく、私的な住宅にも利用されました。ペルシア語では、イーヴァーン、エイヴァーンなどとも呼ばれます。

構造と特徴

イーワーンは、トンネル状のヴォールト（穹窿）で覆われた、前方開放式の小ホールであり、半外部空間として機能します。サーサーン朝建築の伝統を受け継いでおり、イスラーム化以前のペルシャの宮殿建築における王の謁見用ホールがその原型であると考えられています。

部屋の四辺のうち一辺が中庭などの外部空間、またはドーム室などのより大きな空間に開放されており、正面には大きなアーチが設けられることが一般的です。また、通常の部屋よりも広く、天井が高い開放的な空間であることが多いです。

柱のない大空間としてのイーワーンは、紀元前後のオリエント建築にそのルーツが見られますが、イスラーム建築に本格的に採用されるようになったのは、12世紀のペルシャ世界が始まりとされています。大ドームと組み合わされることで、モスク建築に取り入れられ、イーワーンとドームの組み合わせは、大モスク建築の標準的な形式の一つとして、13世紀にはエジプト、アナトリア、インドなど各地に広まりました。

サーサーン朝時代に建設された代表的な作例としては、イランのターゲ・ボスターンの大洞（7世紀）や小洞（4世紀）に見られる半円アーチのヴォールト、そしてサーサーン朝の首都であったイラクのクテシフォン遺跡に見られる楕円アーチによるヴォールト構造が挙げられます。これらの構造は、イスラーム時代に展開するイーワーンの形式の萌芽を示しています。

尖頭アーチによるヴォールト構造のイーワーンがいつ頃定着したかは、現存する古い作例が少ないため明確ではありません。しかし、アッバース朝のバグダード建設直後の778年に建てられたウハイディル宮殿には、尖頭アーチ・ヴォールト構造が確認されています。また、9世紀後半のエジプトのイブン・トゥールーン・モスクや、10世紀のイランのナーインの金曜モスクの列柱のアーチ、中央アジアのブハラのイスマーイール・サーマーニー廟などにも尖頭アーチが見られます。

中庭を挟んだ対面式のイーワーンが明確に確認できるのは、セルジューク朝時代やガズナ朝時代のものです。11世紀のガズナ朝のスルターン・マフムードがアフガニスタンのラシュカルガー近郊に建設した宮殿遺跡ラシュカリ・バーザールでは、上部構造が崩落しているため創建時のイーワーンの構造は不明ですが、中庭を挟んで東西南北にイーワーンの空間が設けられており、壁面を覆うアーチの列柱飾り部分は尖頭アーチになっています。

現存する四イーワーン（チャハール・イーワーン）様式の最古の作例の一つは、イスファハーン旧市街の金曜モスクです。セルジューク朝のマリク・シャーの時代から度重なる改修を経て、12世紀前半には尖頭アーチを備えたほぼ現在の四イーワーン構造になったと考えられています。

マドラサにおけるイーワーン

イーワーンは、マドラサ（学林、ウラマー育成の高等教育施設）の中庭に面した各辺の中央にも設けられ、講義や礼拝の場として利用されました。マドラサは9世紀から10世紀頃にイランのホラーサーン地方で生まれたと考えられていますが、11世紀にセルジューク朝のニザームルムルクがシーア派のブワイフ朝やファーティマ朝に対抗して、スンナ派教学を広めるためにイランやイラクの主要都市にマドラサを建設したことで普及しました。ニザームルムルクの名を冠したニザーミーヤ・マドラサは、イラン高原からイラク、シリア、アナトリア地方などセルジューク朝の支配地域に多数建設され、その後のマドラサの原型となりました。

マドラサの構造は、寮を併設し、中庭を囲む各辺は、学生たちが寝起きする個室として利用されることが多かったようです。つまり、マドラサは通常、中庭が多数の個室や教場、礼拝室などによって取り囲まれた構造をしています。1233年にアッバース朝カリフ・ムスタンスィルによって建てられたバグダードのマドラサ・ムスタンスィリーヤも、同様の設計となっています。

チャハール・イーワーン式 (Four-Iwan Type)

11世紀にマリク・シャー1世らによって南ドームが建設されたエスファハーンの金曜モスクでは、1121年から1220年頃にかけて、南、東、西、北の順に中庭に面して4つのイーワーンが建てられました。4イーワーンの建築におけるプロセスやその理由は詳細不明ですが、それぞれ異なったスタイルを持っており、同時期ではなく、間隔を置いて順々に建てられたと考えられています。また、各イーワーンは、それまでのイスラーム世界で見られた古典的なイーワーンスタイルではなく、建物との区別をつけるための四角い枠取りが行われた新しいスタイルでした。

セルジューク朝時代に成立したモスクの新しい形式は、四辺にイーワーンを持つもので、「チャハール・イーワーン式（4イーワーン式）」と呼ばれています。チャハール・イーワーン式では、南側のイーワーンの背後にドームを架けることによって、聖地マッカのカアバの方向を指し示すミフラーブ（聖龕）の存在が強調されています。

このような建築構造は、モスクやマドラサのほか、キャラバンサライにも採用されており、セルジューク朝時代の隊商宿リバート・イ・シャリフ（1114年）にもその例が見られます。

モスクの建築様式としては、ペルシャ型の「チャハール・イーワーン式」のほかに、アラブ型の「多柱式」、オスマン帝国型の「中央会堂式」があります。17世紀のサファヴィー朝時代に建てられたエスファハーンのイマーム・モスクも、チャハール・イーワーン式です。

内部装飾

イスラーム建築に共通する内部装飾としては、幾何学文様、植物文様、そしてカリグラフィーがありますが、これらは平面的な装飾です。それに対して、イラン独特の内部装飾としては、エスファハーンのイマーム・モスクや金曜モスク、シーラーズのヴァーキル・モスクの入口イーワーンに見られるムカルナス（鍾乳石飾り）があります。これは、建物の壁体に対し斜めに架け渡したアーチ曲線が隅で重なり合い、交わることによってできる持ち送り状の凹面をともなった立体的な装飾です。ムカルナスの著しい発達もまた、セルジューク朝時代のペルシャで見られました。その他、この時代のイラン建築の特色としては、構造・装飾ともに煉瓦の利点が最大限活用されていること、また、彩釉タイルがさかんに用いられることが挙げられます。

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