カルナック神殿複合体の歴史

カルナック神殿複合体の歩みは、古代エジプトの重要な都市テーベ（現ルクソール）の歴史そのものと言えます。紀元前2125年から1985年頃にあたる第11王朝以前、テーベはさほど重要な都市ではなかったようで、カルナックにあった神殿施設も規模は小さく、初期の都市神モンチュに捧げられた祠堂などが中心だったと考えられています。

カルナックで発見された最も古い時代の遺物には、第11王朝の小さなオクタゴナル柱があり、アメン神について言及しています。この時期には、テーベの地方神としての位置づけだったアメン神の神殿が存在したと見られます。例えば、第11王朝のアンテフ2世の墓には、「アメンの家」という表現が見られますが、これがどのような施設だったかは明らかではありません。カルナックの古名「イペト＝スゥト」（最も選び抜かれた場所）は、アメン大神殿の中心的な構造に関連する名であり、早くも第11王朝から使われていたと考えられ、中王国時代の本格的な発展に先立つ、何らかの聖地の存在を示唆しています。

中王国時代

第11王朝期にテーベの王が全エジプトを統一すると、カルナック地域はすでに聖地と見なされており、おそらく統一以前からアメン神のための何らかの施設が、カルナック内のどこかに存在していたと考えられます。エジプト統一は、地方神であったアメンにさらなる力と富をもたらし、アメン神は次第に太陽神ラーと結びつき、アメン＝ラーとしてエジプトの国家的な主神へと昇格しました。センウセルト1世が建造した白い祠堂や中王国時代の中庭は、神殿複合体内で現在も確認できる最古の建造物跡の一部です。聖池周辺の発掘調査では、計画的な集落の跡も見つかっています。

新王国時代

紀元前1550年から1069年頃の新王国時代に入ると、エジプト国家の富が増大するにつれて、比較的簡素だった神殿は巨大な宗教的中心地へと大規模に拡張されていきます。

第18王朝

神殿複合体の主要な拡張は、この第18王朝（紀元前1550-1295年頃）に集中的に行われました。アメンホテプ1世は聖舟祠堂や門を構築し、トトメス1世は中王国の神殿を取り囲む周壁を築き、神殿の現存する最古の部分を含む第4・第5塔門を建造しました。これらの塔門は、後にトトメス3世によって建てられた壁によって隠されることになりますが、その中には14本のパピルス形柱やハトシェプスト女王のオベリスクが含まれていました。トトメス2世は神殿正面に祝祭の中庭を設けましたが、後の建造物によって撤去され、そのブロックは第3塔門の内部から回収されています。ハトシェプストとトトメス3世の治世下では、強化された周壁が追加され、隣接する聖池が整備されました。特にトトメス3世は、主神殿に「アク・メヌ」（多くの場合「壮麗な記念建造物」と訳されるが、「生ける精霊のための記念建造物」とも解釈可能）と呼ばれる建物を増築し、神殿の規模を50%拡張しました。これは現在トトメス3世祝祭殿として知られ、内部には柱や装飾が施された広間があります。この神殿のカルナック王名表には、トトメス3世と共に神殿を築いた歴代の王たちの名が記されています。一時、アケトアテンへの遷都によりカルナックの建設は中断されましたが、ツタンカーメンやホルエムヘブの時代に再開。特に第9塔門は、アケトアテンから運ばれた資材（タラタート石）を用いて南軸沿いに建造されました。

第19王朝

壮大な列柱室の建設は第18王朝に始まった可能性もありますが、その大部分はセティ1世とラムセス2世の時代に完成されました。メルエンプタハ王は、ルクソール神殿への行列路が始まる中庭（カシェット）の壁に、海の民に対する自身の勝利を記念する大きな碑文を刻みました。この碑文は、彼の勝利を示す有名な「イスラエル碑」の内容とも関連しています。メルエンプタハの子セティ2世は、第2塔門前に小さなオベリスクを追加し、その近くの参道北側にアメン神とムト、コンス神のための三連の聖舟休息所を建てました。

第20王朝

王朝の力が衰退し始めると、テーベ全体の建設活動は鈍化し、これはカルナック神殿の工事にも反映されています。コンス神殿はこの時代に建設が始まり、ラムセス3世やラムセス4世によって拡張されました。また、ラムセス3世は第2塔門の前に大きな聖舟祠堂を建造しました。これは他の主神殿に匹敵する規模で、メディネト・ハブにある彼の葬祭殿によく似ています。この時代以降、歴代の王は複合体全体への追加よりも、コンス神殿に集中しました。王朝の権力衰退は、ラムセス9世とほぼ同じ大きさで描かれた大司祭アメンホテプの肖像によって象徴的に示されています。

その後の時代

第3中間期には、エジプトが分裂し、テーベはアメンの大司祭が実質的に支配しました。北部の王たちはカルナックにほとんど手を加えませんでしたが、大司祭たち、特にヘリホルやパネジェム1世はコンス神殿の装飾を続けました。第22王朝のリビア系の王たちは、第2塔門区域の配置を再編し、セティ2世やラムセス3世の聖舟祠堂を囲む構成としました。特にシェションク1世は、シリア・パレスチナ遠征の成功を記念して、ブバスティス門を建造しました。第25王朝では、タハルカ王が第1塔門と第2塔門の間の前庭にタハルカの殿堂を追加し、これに伴いスフィンクス参道が中庭の両側に移されました。また、彼はモンチュ神域にも列柱を加えました。末期王朝の第30王朝、特にネクタネボ1世は、第1塔門の建造と、複合体全体を囲む巨大な周壁を追加し、第22王朝以来の拡張計画を完成させました。プトレマイオス朝に入ると、フィリッポス・アリダイオスがトトメス3世の祠堂を赤色花崗岩の祠堂に置き換えました。オペト神殿は、カルナック複合体における最後の重要な礼拝施設のひとつです。

ローマ支配から放棄へ

キリスト教が広まったローマ支配期、西暦323年にコンスタンティヌス1世がキリスト教を公認し、356年には異教神殿の閉鎖が命じられました。この頃にはカルナック神殿はほぼ放棄状態となり、一部の廃墟にはキリスト教教会が建てられました。最も有名な例はトトメス3世祝祭殿中央の広間が教会として再利用された例で、聖人の描写やコプト語の碑文が今も残されています。

近代ヨーロッパによる再発見

古代ギリシャ・ローマの文献にもカルナック神殿複合体への言及は見られますが、ヘロドトス、ディオドルス・シクルス、ストラボンらの記述は断片的で、基礎情報以上の詳細を伝えていません。ストラボンは、彼の訪問時にはテーベは小さな村の集まりになっていたものの、かつての壮大さはなお想像できたと述べています。

中世ヨーロッパではテーベの正確な位置は不明でしたが、2世紀の地理学者プトレマイオスの地図を基にしたエジプト地図が14世紀後半以降流通し、そこにはテーベの位置が示されていました。それでも、15世紀から16世紀にかけてエジプトを旅したヨーロッパ人の旅行記の中には、テーベをメンフィス付近と誤認しているものもありました。

カルナック神殿複合体がヨーロッパ人によって初めて詳細に記述されたのは、1589年の匿名のヴェネツィア人による報告書ですが、この報告書には複合体の名は記されていません。これは、古代ギリシャ・ローマ以降、カルナックを含む上エジプトやヌビアの記念建造物について知られた最初のヨーロッパの記述として非常に重要です。村名としての「カルナック」や複合体の名が初めて記録に現れるのは1668年、カプチン会宣教師プロタイスとシャルル・フランソワ・ドルレアンがこの地を訪れた際です。彼らの見聞は後に出版されました。

カルナックの最初の描画は、ポール・ルーカスの1704年の旅行記に掲載されましたが、これはかなり不正確で、現代の視点からは混乱を招くものでした。その後、クロード・シカール、フレデリック・ルイス・ノーデン、リチャード・ポコック、ジェームズ・ブルースといった多くの探検家や旅行者がカルナックを訪れ、その記録を残しました。特にナポレオンのエジプト遠征（1798-1799年）には多くの科学者が同行し、カルナックの測量や記録が詳細に行われ、その壮大な姿がヨーロッパに正確に伝えられることとなりました。クロード・エティエンヌ・サヴァリは1785年の著作で、他の旅行者の情報を元に構成されたフィクションを装いつつも、複合体について比較的詳細な説明を残しています。

このように、カルナック神殿複合体は古代エジプトの歴史を映し出す鏡であり、時代の変遷を経て拡張と改変を繰り返し、一度は忘れ去られながらも、近代に再発見されてその姿を現代に伝えています。

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