コロンビアの歴史

コロンビアの歴史は、先史時代から現代に至るまで、多様な文化と激動の政治を経てきました。この地では、先住民の文化が栄え、その後スペインによる植民地支配、独立戦争、そして現代の内戦という、複雑な歴史を刻んできました。

先史時代から先コロンブス期

紀元前10450年頃、ボゴタ近郊のエル・アブラ遺跡で、コロンビアにおける最初の文化の痕跡が見つかりました。中央アメリカからの影響を受け、トウモロコシなどの作物が持ち込まれましたが、巨大な石造建築は建設されませんでした。紀元前1000年頃には、カシケと呼ばれる首長による首長制国家群が発展し、チブチャ系のムイスカ人、タイロナ人、カリマ人、キンバヤ人、シヌー人などの部族が独自の文化を築きました。特に、ボゴタ盆地に居住していたムイスカ人は、トウモロコシやジャガイモの栽培、カピバラの家畜化を行い、低地民との交易を通じて繁栄しました。

植民地化から解放戦争まで

1500年、スペイン人探検家がカリブ海沿岸に到達し、1502年にはクリストファー・コロンブスがこの地を訪れました。1510年には、サンタ・マリア・ラ・アンティグア・デル・ダリエンが建設され、南アメリカ初のヨーロッパ人による恒久的な入植地となりました。しかし、先住民は征服者による病気や搾取により人口を減らし、ムイスカ人の首都バカタはサンタフェ・デ・ボゴタと改名され、スペインの統治拠点となりました。16世紀には、アフリカから奴隷が連れてこられ、カルタヘナ・デ・インディアスは黄金の積出し港として発展しましたが、イギリスからの攻撃に晒されました。1717年、スペインはアンデス北部をヌエバ・グラナダ副王領として組織しましたが、財政難から一時廃止され、1739年に再編されました。1781年には、ソコーロで増税に反対するコムネーロスの反乱が起きましたが、最終的に鎮圧されました。

独立の志士達とシモン・ボリーバルの独立戦争

19世紀初頭、ベネズエラやラ・プラタ地域での独立運動に呼応して、コロンビアでも独立戦争が始まりました。1810年、アントニオ・ナリーニョが副王を追放し、クンディナマルカ共和国として独立を宣言しましたが、カルタヘナも独立を宣言し、ヌエバ・グラナダ連合州として合流しました。シモン・ボリーバルはベネズエラ独立勢力と協力してスペイン軍と戦い、1819年のボヤカの戦いで勝利し、ボゴタを解放しました。その後、コロンビア共和国が成立し、ボリーバルは初代大統領に就任しました。この共和国は、現在のコロンビア、ベネズエラ、エクアドル、パナマを含む広大な領域を支配しました。

ボリーバルがペルー方面の解放に向かう中、副大統領サンタンデルとの対立が深まり、ボリーバルの帰還後に政情は不安定化しました。1830年、エクアドルとベネズエラが独立し、ボリーバルは失意のうちに病死しました。翌年、コロンビア共和国は崩壊し、残存地域はヌエバ・グラナダ共和国として再編されました。

ヌエバ・グラナダ共和国時代からコロンビア合衆国まで

分離独立後、ヌエバ・グラナダ共和国は政情が不安定な時期を過ごしましたが、文民統治の原則は維持されました。保守党と自由党の対立が激化し、農民に対する圧政が続きました。1832年、サンタンデルが帰国し大統領に就任、産業発展、奴隷貿易廃止、公教育拡充が進められました。1840年代には、コーヒー栽培が始まり、後にコロンビアの主要産業となります。1849年、自由党が結成され、これに対抗して保守党が結成されました。この二大政党制は、現代まで続いています。

1850年代、自由主義政権が誕生し、教会財産の没収や黒人奴隷制の廃止などの政策がとられました。しかし、自由貿易導入により国内工業は衰退し、イギリス資本による経済支配が進みました。1858年、グラナダ連合が発足しましたが、1861年に自由主義者のトマス・シプリアーノ・ド・モスケラが蜂起し、1863年にはコロンビア合衆国が成立しました。この自由主義の時代には、首都ボゴタで科学や文芸が発展し、「南米のアテネ」と呼ばれるようになりました。

1880年、保守派のラファエル・ヌニェスが大統領に就任すると、スペインに独立を承認させ、国立銀行を建設し経済安定化を図りました。しかし、連邦制の廃止と教会の政治参加を認めたため、1885年に内戦が勃発しました。1886年には、中央集権的な憲法が改正され、現在のコロンビア共和国が成立しました。

コロンビア共和国成立からボゴタ暴動まで

建国当初から自由・保守両党の対立が続き、1899年には「千日戦争」と呼ばれる内戦が勃発し、約10万人の犠牲者が出ました。1903年には、アメリカの支援によりパナマが独立しました。千日戦争後、保守党政権が続き、独裁政治が強化されました。1921年には、パナマの独立を承認し、アメリカからの投資が拡大しました。1930年には、自由党政権が復活し、経済改革が進められました。1946年以降は、自由党と保守党の対立が激化し、1948年には自由党党首ホルヘ・エリエセル・ガイタンが暗殺され、ボゴタ暴動が勃発しました。この暴動により、コロンビアは再び「暴力」の時代を迎えることになりました。

ボゴタ暴動、コロンビア内戦

ボゴタ暴動後、保守党政権下で暴力は拡大し、1953年には軍事クーデターによりグスタボ・ロハス・ピニージャ将軍が政権を握りました。ロハスは一時的に暴力を収束させましたが、1957年に辞任し、その後自由党と保守党による「国民戦線」体制が成立しました。しかし、これに反対する農民の蜂起が相次ぎ、1966年にはコロンビア革命軍（FARC）が発足しました。

1970年代以降、麻薬密売組織が台頭し、1980年代には「麻薬カルテル戦争」が勃発しました。1990年代には、メデジン・カルテルのボス、パブロ・エスコバルが殺害され、カリ・カルテルも壊滅しましたが、1994年には「ナルコ・ゲート事件」が発覚し、政界を揺るがしました。1999年にはFARCとの和平交渉が始まりましたが、2002年にはテロにより中断され、アルバロ・ウリベ大統領は治安回復を最優先課題として取り組みました。

コロンビアは現在も多くの課題を抱えていますが、その歴史は、多様な文化と激動の政治が織りなす、複雑で興味深い物語です。

脚註

参考文献

中川文雄、松下洋、遅野井茂雄『世界現代史34 ラテンアメリカ現代史II』山川出版社、1985年
増田義郎（編）『新版世界各国史26 ラテン・アメリカ史II』山川出版社、2000年（ISBN 4-634-41560-7）
野沢敬（編）『朝日百科世界の地理12 ラテンアメリカ』朝日新聞社、1986年（ISBN 4-02-380006-6 C6325）
伊高浩昭『コロンビア内戦ゲリラと麻薬と殺戮と』論創社、2003年（ISBN 4-8460-0376-0）
エドゥアルド・ガレアーノ（著）、大久保光夫（訳）『収奪された大地ラテンアメリカ五百年』新評論、1986年

外部リンク

* コロンビア歴史物語

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