サル・ガヴォー

サル・ガヴォーは、フランスの首都パリ、8区のラ・ボエシ通りに位置する由緒あるコンサートホールです。その名称は、フランスの著名なピアノ製作会社ガヴォーに敬意を表して名付けられました。この会場は、特に室内楽の演奏に適した親密な空間として高く評価されています。

建設の歴史と特徴

ホールの建設計画は、1905年に土地が取得された際にジャック・エルマンによって提唱されました。建設工事は1906年から1907年にかけて進められ、当初から室内楽に特化した会場として設計されました。開場以来、約1000席の座席数を維持しています。建設当初は、ムタン＝カヴァイエ＝コル社が手掛けた大規模なオルガンが設置されていましたが、このオルガンは1957年にノルマンディー地方のサン＝サンスへ移設されました。サル・ガヴォーは、その優れた音響特性で国内外の音楽家や聴衆から高い評価を得ています。

草創期と名声の確立

1907年10月3日、教員歌唱協会のコンサートをもってサル・ガヴォーは正式に開場しました。その後間もなく、このホールはパリの一流コンサート会場としての地位を確立します。開場からわずか一ヶ月のうちに、カミーユ・サン＝サーンスを含む多数の著名な音楽家がここで演奏会を開催しました。また、カミーユ・シュヴィヤール、ヴァンサン・ダンディ、アンドレ・メサジェが指揮するコンセール・ラムルーは、本拠地をサル・ガヴォーへと移しました。特に注目すべきは、1907年11月にアルフレッド・コルトー（ピアノ）、ジャック・ティボー（ヴァイオリン）、パブロ・カザルス（チェロ）という巨匠たちが、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲全曲演奏会を行ったことです。これ以降も、ウジェーヌ・イザイ（1908年）、ラザール・レヴィ（1909年）、マルグリット・ロン（1911年）、ジョルジェ・エネスク（1912年）、フリッツ・クライスラー（1912年）、ヴィルヘルム・バックハウス（1912年）、クロード・ドビュッシー（1917年）など、音楽史に名を残す錚々たる演奏家たちがサル・ガヴォーの舞台に立ちました。

戦時下の役割と活動

第一次世界大戦中、サル・ガヴォーは兵士や戦争犠牲者のための特別な催しにも利用されました。一方で、通常の音楽活動も継続して行われました。戦間期には、シャルル・ミュンシュ、ワンダ・ランドフスカ、ルドルフ・ゼルキン、イヴ・ナットといった演奏家たちが登場し、コンセール・ラムルーの定期演奏会も継続されました。

第二次世界大戦中も同様に、ホールは特別な目的で活用されると同時に、ジャック・フェヴリエ、ピエール・フルニエ、サンソン・フランソワ、ポール・トルトゥリエ、レイモン・トルアールといったフランスを代表する音楽家たちの演奏会が催されました。1955年だけでも、レーヌ・フラショー、ピエール・ベルナック、フランシス・プーランク、アレクサンドル・ラゴヤなどが訪れています。

危機からの再生

1963年、サル・ガヴォーは経営破綻に見舞われ、保険会社に売却されることになりました。これにより、ホールは取り壊され駐車場として再開発される危機に瀕しましたが、音楽に深い情熱を持つシャンタルとジャン＝マリー・フルニエ夫妻が1976年にホールを買い取り、その存続に尽力しました。

ホールの建物は、1982年に文化財登録簿に追加され、1992年には歴史的建造物として正式に登録されました。建物の老朽化が進んでいたため、フルニエ夫妻は大規模な修復工事を計画し、助成金の獲得に成功しました。歴史的建造物の主任建築家であるアレン＝シャルル・ペロの監修のもと、修復工事が実施され、2001年1月8日にホールは装いを新たにして再開場しました。この修復では、1907年当時の色彩や内装の雰囲気が再現され、より落ち着いた美しい空間として蘇りました。

重要な初演の数々

サル・ガヴォーは、近代音楽史における重要な作品の初演の場ともなりました。ここで初めて披露された代表的な作品には以下のようなものがあります。

モーリス・ラヴェル: 『高雅で感傷的なワルツ』ピアノ版 (1911年)
シャルル＝マリー・ヴィエルヌ: オルガン交響曲第3番 (1912年、マルセル・デュプレ演奏)
モーリス・ラヴェル: ピアノ三重奏曲 (1915年)
クロード・ドビュッシー: ヴァイオリンソナタ (1917年)
モーリス・ラヴェル: 『クープランの墓』 (1919年、マルグリット・ロン独奏)
アルベール・ルーセル: 付随音楽『過ぎ去る砂漠の商人』 (1919年)
ジョルジェ・エネスク: 弦楽四重奏曲第1番 (1921年、フランス初演)
アルノルト・シェーンベルク: 『月に憑かれたピエロ』 (1922年、フランス初演)
アルテュール・オネゲル: 『ダヴィデ王』 (1924年、フランス初演)
シャルル＝マリー・ヴィエルヌ: 幻想的小品集 (1926年、マルセル・デュプレ演奏)
ジョルジェ・エネスク: ヴァイオリンソナタ第3番 (1927年、フランス初演)
イーゴリ・ストラヴィンスキー: 2台のピアノのための協奏曲 (1935年、作曲者自身による演奏)
フランシス・プーランク: 歌曲集『ある日ある夜』 (1937年)
オリヴィエ・メシアン: 『幼子イエスに注ぐ20の眼差し』 (1944年、イヴォンヌ・ロリオ独奏)
モーリス・デュリュフレ: レクイエム (1947年)
フランシス・プーランク: チェロソナタ (1949年)
ピエール・シェフェール: 『Étude aux Objets』 (1959年)
ジャック・カステレード: ピアノソナタ (1967年)
ローラン・プティジラール: ピアノ五重奏曲 (1977年)
ロディオン・シチェドリン: チェロのための『ロシア受洗』 (1990年)
ブルーノ・マントヴァーニ: フルートとピアノのための『Appel d'Air』 (2001年)
ティエリー・エルサン: ハープ協奏曲『Le Tombeau de Virgile』 (2006年)
* ヤン・ペク: ピアノ協奏曲『L'Oiseau Innumérable』 (2006年)

サル・ガヴォーは、その優れた音響と豊かな歴史により、現在もパリの重要な音楽文化拠点であり続けています。

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