ヒューストン (重巡洋艦)

重巡洋艦「ヒューストン」(USS Houston, CL/CA-30) の生涯

アメリカ海軍のノーザンプトン級重巡洋艦の5番艦として建造された「ヒューストン」は、その名をテキサス州ヒューストンに由来し、同名を持つ艦としては2隻目でした。艦隊旗艦としての設備を有し、アジア艦隊旗艦として日本を訪問、昭和天皇に拝謁したこともあります。また、ルーズベルト大統領が度々乗艦したことから「大統領のヨット」という愛称でも親しまれました。

艦歴

「ヒューストン」は、1928年5月1日にバージニア州ニューポート・ニューズで起工。1929年9月7日に進水し、1930年6月17日に軽巡洋艦CL-30として就役しました。その後、1931年7月1日に重巡洋艦CA-30へと艦種変更されました。日本海軍の妙高型巡洋艦に比べ魚雷兵装では劣りましたが、充実した航空兵装を備えていました。

大西洋での公試後、「ヒューストン」は1930年10月に帰還。その後、テキサス州ヒューストンを訪問し、ハンプトン・ローズで艦隊と合流しました。1931年1月10日にニューヨークに向けて出航、パナマ運河とハワイを経由して2月22日にマニラに到着、アジア艦隊の旗艦となりました。極東での訓練活動に従事し、当時のアジア艦隊司令長官はモントゴメリー・M・テイラー大将、参謀長はフランク・J・フレッチャー大佐でした。

太平洋での活動

1932年に第一次上海事変が発生すると、「ヒューストン」は上海へ派遣され、アメリカ人の生命と財産保護を支援しました。1933年にはフィリピン、そして日本への親善訪問も行い、横浜港では歓迎を受けました。この際、テイラーと艦長は昭和天皇に拝謁しています。その後、1934年にはルーズベルト大統領が乗艦し、カリブ海やハワイを巡る12,000海里の航海を行いました。大統領はその後も度々「ヒューストン」に乗り、その度に特別な巡航が行われました。

1939年12月7日には真珠湾に到着し、1940年11月3日にはフィリピンに向けて出航しました。11月19日にマニラに到着し、アジア艦隊司令官トーマス・C・ハート提督の旗艦となりました。

第二次世界大戦

1941年中期、戦争の危機が高まる中、ハート提督は艦隊に戦闘準備を命じました。しかし、アジア艦隊の最大戦力は「ヒューストン」ただ一隻で、他の艦艇は旧式なものばかりでした。

真珠湾攻撃が行われた1941年12月7日、ハート提督の命令により、「ヒューストン」は他の艦艇と共にフィリピンからオーストラリアのダーウィンへ向かいました。その後、ABDA（米英蘭豪）艦隊に合流し、1942年2月4日のジャワ沖海戦に参加。この海戦で、日本軍の爆撃により後部砲塔が損傷しました。

スラバヤ沖海戦とバタビア沖海戦

1942年2月27日、「ヒューストン」はスラバヤ沖海戦に参加。連合艦隊は日本艦隊と交戦しましたが、戦力不足と訓練不足が響き、大損害を被りました。「ヒューストン」は戦場からの離脱を余儀なくされました。

その後、「ヒューストン」はパースと共にバタビア（現ジャカルタ）のタンジョン・プリオク港に入港し、スンダ海峡を突破してインド洋へ脱出を試みましたが、日本軍輸送船団を発見し攻撃を決意しました。しかし、待ち構えていた日本軍艦隊との交戦となり、両艦は多くの魚雷攻撃を受けました。

「ヒューストン」は、輸送船「神州丸」を撃沈するなど奮戦しましたが、最終的には駆逐艦「敷波」からの魚雷攻撃により航行不能となり、1942年3月1日未明に沈没しました。乗組員1,061名のうち、368名が生き残りましたが、その多くは捕虜となり、泰緬鉄道の建設作業を強制されました。過酷な環境下で、多くの乗組員が命を落としました。

その後

「ヒューストン」の運命は、生存者が捕虜収容所から解放されるまで不明のままでした。ルックス艦長はその英雄的行動により名誉勲章を受章し、従軍牧師であったジョージ・S・レンツは海軍十字章を受章しました。

「ヒューストン」の乗組員は、オーストラリアの戦没者慰霊塔で「パース」の乗組員と共に祀られています。ヒューストン市民は、「ヒューストン」の艦名を復活させるべく建艦債券の購入に殺到しました。その後、クリーブランド級軽巡洋艦「ヒューストン」(USS Houston, CL-81) が先代を讃え、建造途中の艦を改名して就役しました。

「ヒューストン」は、第二次世界大戦の戦功により2個の従軍星章と殊勲部隊章を受章しました。映画『戦場にかける橋』のシアーズ中佐は、「ヒューストン」に乗艦していたという設定です。

脚注

(注釈)

出典

(参考文献)

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佐藤暢彦「第六章　大艦巨砲主義は終わったか　― ジャワ沖のガスパール海峡の戦い」『一式陸攻戦史　海軍陸上攻撃機の誕生から終焉まで』光人社〈光人社NF文庫〉、2019年1月（原著2015年）。ISBN 978-4-7698-3103-7。
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宮崎良純「夜戦の雄 "重巡三隈" バタビア沖の勝鬨」『写真 日本の軍艦』第7巻、光人社、1990年、ISBN 4-7698-0457-1。
本吉隆（著）、田村紀雄、吉原幹也（図版）「フランスの巡洋艦」『第二次世界大戦 世界の巡洋艦　完全ガイド』イカロス出版株式会社、2018年12月。ISBN 978-4-8022-0627-3。
国立国会図書館デジタルコレクション - 国立国会図書館
海軍研究社編輯部 編『ポケット海軍年鑑 : 日英米仏伊独軍艦集. 1935年版』海軍研究社、1935年5月。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1109500。
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アジア歴史資料センター（公式）（防衛省防衛研究所）
『JACAR(アジア歴史資料センター)公文備考D巻4 外事 海軍大臣官房記録 昭和8(防衛省防衛研究所)官房第2311号8.5.22米国巡洋艦「ヒューストン」横浜寄港の件』。Ref.C05022739000。
『JACAR(アジア歴史資料センター)公文備考D巻4 外事 海軍大臣官房記録 昭和8(防衛省防衛研究所)官房第4003号8.9.7米国巡洋艦「ヒューストン」横浜寄港の件』。Ref.C05022739100。

関連項目

ヒューストン - テキサス州
大統領専用ヨット

外部リンク

USS Houston homepage
Houston II (CA-30)
A Collection of Biographies and Photographs of those of Served aboard The USS Houston CA30 USS Houston Next Generation
Navy photographs of Houston (CA-30) - ウェイバックマシン（2002年6月11日アーカイブ分）
“Battle of Sunda Strait: 28 February-March 1 1942 by Vincent P. O'Hara”. 2006年5月31日閲覧。

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