フヴァエトヴァダタ

フヴァエトヴァダタ（最近親婚）とは

フヴァエトヴァダタ（Xᵛaētuuadaθa）は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』に記された、最近親婚を指す言葉です。パフラヴィー語ではクワェード・ダフ（Xwēdōdah）とも呼ばれ、ゾロアスター教において最も徳のある行為の一つとされています。

概要

ゾロアスター教では、最近親婚は非常に重要な行為として位置づけられています。7つの善行の2番目、人間への10の戒めの8番目、そして天国に至るための33の道の9番目として挙げられ、特に親子間や兄弟姉妹間の結婚は最も完全なフヴァエトヴァダタとされています。

『アヴェスター』のヤスナ第12章では、善神アフラ・マズダーを祀ると共に、最近親婚に従うことが信仰告白として記されており、その教法は「最大にして最勝かつ最美なるもの」と表現されています。『メーノーグ・イー・フラド』では、最近親婚を行うことは人々の幸福を願うことに匹敵する善行とされ、これを破棄することは善人を殺すことに匹敵する重罪とされています。

『デーンカルド』第3巻には、最近親婚を称賛する長文が記述されており、この行為が悪魔を退ける力を持つとされています。また、兄弟姉妹間の結婚によって生まれる子供は、親と同時に叔父叔母の子供でもあるため、四重の愛情を受けるとされています。同様に、親子間の結婚も、子供を通じて自分の子供と孫が同時に兄弟姉妹となることで、歓喜と平安をもたらすとされています。さらに、肉親の性器を治療することよりも、他人がそれに触れることの方が不道徳であるとも説かれています。これらの教義は第7巻にも見られます。

古代ペルシアでは、身分の区別なく最近親婚が行われていました。2世紀のバルダイサンは、小アジアのペルシア人が最近親婚を行っていたことを記録しています。

神話

『ダーデスターン・イー・デーニーグ』によれば、アフラ・マズダーが生み出したガヨーマルトの子供であるマシュヤグとマシュヤーナグの兄妹が、フヴァエトヴァダタの最初の例とされています。『デーンカルド』でも同様の物語が語られ、ガヨーマルトとスプンタ・アールマティの間に生まれたマシュヤグとマシュヤーナグの最近親婚によって人類が繁栄したとされています。

『アルダー・ウィーラーフの書』では、冥界への旅に出るウィーラーフが生前に7人の姉妹と最近親婚を行ったことが、最も称賛される善行として描かれています。

歴史

ペルシアでは家族の性的な結びつきが神聖視されており、中世ペルシア語では最近親婚はフヴェトゥクダスと呼ばれていました。近親性交のある男女の体液には薬効があると信じられていたとも言われています。『アヴェスター』のウィーデーウ・ダードには、この信仰に関連する記述が見られます。A・V・ウィリアムズ・ジャクソンは、最近親婚の必要性を説いたのは教祖ザラスシュトラ自身であると述べています。

『ディッソイ・ロゴイ』には、ペルシア人が娘、母親、姉妹と性交することを考えているという記述があり、アレクサンドリアのクレメンスの『ストロマテイス』は、クサントスの『マギカ』にマギの間では母親や娘、姉妹との性交が合法であるという記述があると言及しています。ストラボンの『地理誌』によれば、マギは習わしによって自分の母親と結婚していたとされ、サアーリビーはザラスシュトラが兄弟姉妹間や父娘間の結婚を合法化したと述べています。マスウーディーの『黄金の牧場と宝石の鉱山』によると、アルダシール1世は家族の結びつきを強めるために近親婚を奨励し、マギは兄弟姉妹間や母親と息子の結婚を好ましいとしていました。

ニーチェは「賢い僧侶は近親相姦からしか産まれない」というペルシアの信仰に言及し、当時、高位の聖職者は最近親婚の夫婦から生まれた者が推戴されていたとされています。兄妹姉弟から生まれた子供が高貴であるという信仰は、遠く離れた古代ハワイでも見られます。

記録に残る最古の王家による最近親婚は、アケメネス朝ペルシアのカンビュセス2世が、両親を同じくする2人の妹と結婚したこととされています。この説話はヘロドトスの『歴史』に記述されています。また、サーサーン朝のカワード1世も娘と結婚しています。

最近親婚は宗教的な意味だけでなく、アーリア人の血の純粋性を維持したり、財産を家族外に流出させないという目的もあったと指摘されています。ゾロアスター教の神官は、馬とロバのように遺伝子が異なる動物は子孫を残せないことを例に、遺伝的に近い個体同士の交配の重要性を強調し、最近親婚を有益なものと考えていました。

原始アーリア民族の末裔とされるゾロアスター教神官は、先祖代々最近親婚を行ってきたため、原始アーリア民族のDNAを純粋な形で保存している可能性が高く、そのDNAを調査することで、原始アーリア民族像に迫る研究も行われています。

登場する作品

最近親婚は、文学やゲームなど様々な作品の題材にもなっています。

『ヴィースとラーミーン』：11世紀ペルシアの恋愛小説で、主人公ヴィースは兄の許嫁であった（兄妹婚の風習）。
『蜂の寓話』：バーナード・デ・マンデヴィルの詩で、東方では兄弟が姉妹と結婚することが称賛されたと述べられている。
『ペルシア人の手紙』：モンテスキューの書簡体小説で、登場人物の兄妹が結婚している。
『光の回廊』：清原なつのの漫画作品で、最近親婚を行ったペルシア人の兄妹が登場する。
『Crusader Kings』: 歴史シミュレーションゲームで、ゾロアスター教のキャラクターは親子・兄弟姉妹間で結婚ができる。
『お兄ちゃん……ここでなら、好きって言ってもいいんだよね?』: ライトノベルで、ゾロアスター教をモチーフとした世界で兄妹婚「フワエド・ダフ」が行われる。

参考文献

ゾロアスター教関連の文献
古代ペルシアの歴史に関する文献
宗教学関連の文献

関連項目

ゾロアスター教
近親相姦
近親婚

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