ボリビアの歴史

ボリビアの歴史

ボリビアは、南米大陸の中央部に位置する多民族国家であり、その歴史はアンデスの高地と東部の亜熱帯・熱帯低地という地理的特徴と深く結びついています。先史時代から現代に至るまで、多様な民族と文化が交錯し、複雑な歴史を刻んできました。

概要

ボリビアの地では、チチカカ湖畔を中心に先史文明が栄えました。15世紀にはインカ帝国の支配下に入り、その後スペインによる植民地化を受け、アルト・ペルーとしてポトシ銀山を中心に鉱業が発展しました。1825年に独立を達成しましたが、政情不安が続き、太平洋戦争やブラジルとの国境紛争で領土の一部を失いました。世界恐慌やチャコ戦争での敗北により国土は疲弊し、クーデターが繰り返されました。1952年にはボリビア革命が起こりましたが、経済の混乱を招き、その後も軍事政権、保守政権、文民政権が入り乱れる激動の時代を経て今日に至っています。

先史時代

ボリビアの考古学的研究は十分に進んでおらず、紀元前1500年頃にチチカカ湖東南岸に出現したチリパ文化以前の詳しい歴史は不明です。しかし、周辺地域の調査や出土品から、ヴュルム氷期の末期には既に人類がチチカカ湖周辺に定着していたと考えられています。湖水資源は人々の生活の中心であり続け、チリパ文化へと繋がりました。初期には狩猟・採取生活が営まれ、中期にはラクダ科動物の飼育や農耕が始まりました。後期には祭事儀礼が始まり、基壇や地下式広場などの遺構が残されています。

紀元前200年頃には、チチカカ湖東岸のティワナク遺跡を中心としたティワナク文化が出現しました。この文化は1150年頃まで続き、特に300年から500年の間には大型祭祀建造物が建てられ、大きな発展を遂げました。ティワナクは標高4000メートルの高地に位置していましたが、温暖な東部のコチャバンバや鉱物資源が豊富な南部のアタカマ砂漠方面へと勢力を拡大し、周辺地域に大きな影響を与えました。その影響は、太陽の門やポンセの石像に見られる文様がワリ文化などへ波及したことからも伺えます。15世紀後半には、ケチュア族が興したインカ帝国によって征服され、ボリビアの地はコリャ・スウユの一部となりました。この支配により、ケチュア語が普及し、高度な都市文明が栄えました。

植民地時代

1533年、コンキスタドールのフランシスコ・ピサロらによりインカ帝国が滅ぼされると、スペインによるボリビア地域の征服が始まりました。スペインはエンコミエンダ制度の下に植民地化を進め、ボリビア地域はペルー副王領の管轄下に入り、アルト・ペルーと呼ばれました。1545年には、原住民ディエゴ・ワルパによってポトシ銀山が発見され、その知らせは瞬く間に広まりました。ポトシは新大陸の経済と権力の中心地となり、銀の道が整備され、16世紀末から17世紀前半にかけては西半球最大の都市へと発展しました。しかし、鉱山労働は過酷を極め、多くの先住民が犠牲となりました。副王トレドによって制度化されたミタ制により、先住民が労働力として徴発されました。

1776年、カルロス3世はアルト・ペルーをリオ・デ・ラ・プラタ副王領に編入し、新税を創設しました。この改革はアルト・ペルー社会に動揺を与え、各地で反乱が相次ぎました。1781年には、トゥパク・カタリの反乱がラパスで勃発し、鎮圧に184日間を要しました。1808年、ナポレオンがカディスを占領すると、スペインの海外領土間連携は脆弱化し、独立運動の気運が高まりました。1809年には、ラパスとチュキサカでクリオーリョによる独立運動が起こり、ペドロ・ドミンゴ・ムリーリョは「ボリビア独立の先駆者」として知られています。1816年にはリオ・デ・ラ・プラタ連合州が独立し、その後、チリとペルーも独立を果たしました。シモン・ボリーバルも南下を始め、1824年、スクレはアヤクーチョの戦いでスペイン軍に壊滅的な打撃を与えました。1825年、アルト・ペルーは独立を宣言し、ボリーバル共和国が誕生しました。

ペルー・ボリビア連合国

1825年、ボリビア議会はスクレを大統領に選出し、ボリビア共和国が発足しました。ボリーバルは、スペインから独立した諸共和国をまとめようとしましたが、失敗に終わりました。スクレは、労働徴発の廃止や教育の世俗化といったリベラルな政策を打ち出しましたが、保守的なクリオーリョの反発により国外へ追放されました。1829年、アンドレス・デ・サンタ・クルスが大統領に就任すると、国内産業の保護政策を実施し、社会改革に取り組みました。また、ペルーとの連携を強化し、1836年にペルー・ボリビア連合国を樹立しましたが、チリやアルゼンチンの反発を招き、1839年に瓦解しました。その後も国内情勢は混乱しましたが、政情収拾に尽力した政権により、次第に安定を取り戻しました。

太平洋戦争

19世紀中頃に入り、銀鉱業は回復の兆しを見せ始め、グアノや硝石の採掘も開始されました。特にアタカマ砂漠での硝石採掘権をめぐり、チリとの間で対立が深まりました。1866年、ボリビアとチリは両国の境界線を定め、共同開発地域を設ける条約を締結しましたが、チリに有利に働きました。1874年に再度条約を締結しましたが、ボリビアの意向に沿ったものではありませんでした。1878年、ボリビアは一方的に条約を破棄し、チリ系硝石会社に対し輸出税率の引き上げを通告しました。1879年、チリ軍はアントファガスタを占領し、太平洋戦争が開戦しました。ボリビアはペルーと共同で戦いましたが敗北し、1884年にアタカマ地方をチリに割譲し、内陸国となりました。この戦争を契機に、ボリビアの政治は政党制へと変容しました。戦後は保守党が主導権を握り、軍縮と文民主導体制の樹立が目指されるようになりました。アニセト・アルセ大統領は、輸出経路の確保に尽力し、横断鉄道の敷設やスズの採掘を推進しました。

連邦革命とアクレ紛争

1899年、錫財閥と結託した自由党が保守党政権の転覆を図り、先住民を巻き込んだ連邦革命へと発展しました。自由党は先住民の協力を得て保守党転覆に成功しましたが、その後は先住民を弾圧しました。自由党政権として最初に選出されたホセ・マヌエル・パンドは、連邦制を放棄し、ラパスに首都機能を移しました。同年、自動車産業の発達に伴い、ゴム産業が活性化し、アクレ地方で分離独立運動が起こりました（アクレ紛争）。ボリビア政府は同地方の管理能力に行き詰まり、米国系企業に管理開発を委託しましたが、ブラジル政府の抗議を受けました。1903年、ブラジルはアクレ地方を占領し、ペトロポリス条約により、ボリビアは同地方をブラジルに割譲しました。

錫の世紀とボリビア革命

銀に代わってスズが主要輸出品となり、スズ産業が急成長しました。自由党政権はインフラ整備や都市の近代化を図りましたが、寡頭的な社会構造を維持し続けました。1929年の世界恐慌でスズの輸出は低迷し、ボリビアは経済的に不安定な状況に陥りました。1932年、チャコ戦争が勃発し、ボリビアは広大な領土と多数の犠牲者を出しました。1937年、ダビッド・トロ・ルイロバ政権は石油会社を接収し、石油公社を設立しました。1941年には、ビクトル・パス・エステンソロらが民族革命運動党（MNR）を結成し、鉱山労働者との関係を築きました。1951年の選挙でMNRが勝利しましたが、ウリオラゴイティア政権はこれを認めず、軍に政権を引き渡しました。1952年、革命軍が蜂起し、革命政権が誕生すると、パスを大統領に選出し、三大錫財閥の解体や普通選挙の導入などの改革を実施しました（ボリビア革命）。しかし、行政機構の肥大化が進み、抜本的な経済改善には至りませんでした。鉱業公社（COMIBOL）は労働者勢力を背景に強力な存在となり、政府は合理性を欠いた経済政策を強いられ、インフレが発生しました。

近現代

1964年、パスが三度目の大統領に就任すると、軍のクーデターにより政権を追われ、ボリビアは軍の支配下に入りました。軍事政権の首班バリエントスは反政府勢力への締め付けを強化しました。1966年、チェ・ゲバラがボリビアにやってきましたが、農民層の支持を得られず、1967年に政府軍に射殺されました。1971年、ウーゴ・バンセルがクーデターで政権を握ると、外国投資を積極的に誘致しましたが、膨大な財政赤字と累積債務を生み出しました。1978年に民主化が始まりましたが、クーデターや政変が繰り返され、社会情勢は悪化しました。経済の破綻はハイパーインフレを招き、1985年、パスが政権を握ると、新経済政策（NPE）を発表し、経済の安定化と市場改革に着手しました。

2003年、天然ガス輸出計画に反発する暴動が発生し、ロサダ大統領は退陣に追い込まれました。2005年、メサ大統領も辞任し、ロドリゲス最高裁長官が大統領に就任しました。2006年、モラレスが大統領に就任し、ボリビア史上初の先住民出身大統領となりました。モラレス大統領は貧富格差の是正や先住民の権利拡大を掲げ、新憲法を制定し、国名を「ボリビア多民族国」に変更しました。2019年、モラレス大統領は再選されましたが、不正疑惑を契機に辞任し、亡命しました。2020年には、アルセが大統領に就任し、左派政権に回帰しました。

その他

ボリビアは、アンデス共同体（CAN）加盟国であるとともに、メルコスールへの正式加盟を目指しています。2018年には南米諸国連合（UNASUR）の議長国に、2019年にはCELAC議長国に就任しました。アニェス暫定政権はベネズエラとの外交関係を断絶しましたが、アルセ政権はこれを撤回し、モラレス政権下の外交方針へ回帰しています。

参考文献

平島創『21世紀の黄金郷 - ボリヴィア』KKロングセラーズ、1999年
真鍋周三編著『ボリビアを知るための68章』明石書店、2006年
田中高『ラテンアメリカ研究への招待 - 第七章中米地域』新評論、1997年
中川文雄、松下洋、遅野井茂雄著『ラテンアメリカ現代史II - アンデス・ラプラタ地域』山川出版社、1985年
増田義郎『物語 ラテン・アメリカの歴史 - 未来の大陸』中公新書、1998年
大貫良夫、落合一泰、国本伊代、恒川恵市、福嶋正徳、松下洋『ラテン・アメリカを知る事典』平凡社、1987年

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