ユーヤイヤコ

概要

ユーヤイヤコ（Llullaillaco）は、南米大陸のアルゼンチン（サルタ州）とチリの国境に位置する、標高6723mの成層火山である。「ジュージャイジャコ」とも呼ばれる。広大なアタカマ砂漠が広がる乾燥地帯、アタカマ高原（プーナ・デ・アタカマ）の一角にそびえ立つアンデス山脈の高峰であり、その標高はアンデス山脈全体で7番目の高さに数えられる。インカ時代には重要な聖地として崇敬され、特に山頂付近で発見された人身御供（カパコチャ）とされた子供たちのミイラは世界的に知られている。

地理と環境

ユーヤイヤコはアタカマ高原に位置し、広大な岩屑地帯に囲まれた極めて乾燥した環境にある。標高の高さにもかかわらず、この乾燥のため氷河は形成されていない。山体には、過去の氷期における氷河作用によって刻まれた浅い氷食谷が放射状に見られる。万年雪は山頂のごく一部にのみ存在する。注目すべきはその雪線であり、約6500mと世界最高地点に位置する。これはヒマラヤ山脈の雪線よりも約1000m高く、他のアンデス山脈の高所と比較しても顕著に高い数値を示す。
山の西側はチリのユーヤイヤコ国立公園に指定されており、南側の標高3665mにある4号温泉塩原は2009年にラムサール条約湿地に登録された。この地域は、シギ類、フラミンゴ類、ダーウィンレア、アンデスガン、チンチラ、ビクーニャなど、多様な野生生物の重要な生息地となっている。

名称

山の名の由来には複数の説がある。一つは、アイマラ語で「濁った水」を意味する語に由来するという説。もう一つは、ケチュア語で「偽りの水」または「当てにならない水」を意味する語に起源を持つという説である。

歴史と登山

先コロンブス期にはすでにインカ人によって登攀されており、山頂からの出土品は、19世紀末以前において人類が到達した世界最高高度地点の証拠とされている。記録が明確に残る近代の初登頂は、1952年 12月1日にビオン・ゴンサレスとフアン・アルセイムによって達成された。
登山は標高が高いため困難が伴うが、特殊な登山技術を要しないルートが複数存在する。ただし、ルートの大部分に残雪があるため、アイゼンやピッケルなどの雪上装備が必須となる。また、過去のチリ・アルゼンチン間のビーグル紛争期（1978年〜1982年）にチリ側ルートに地雷が設置された経緯があり、登攀に際しては注意が必要とされる。

考古学

ユーヤイヤコは、インカ帝国の人身御供儀式に関する重要な考古学的な発見がなされた地として特に名高い。1983年から1985年にかけて、アメリカの考古学者ヨハン・ラインハルトが山頂付近の遺構調査を行った。そして1999年、ラインハルトとアルゼンチンの考古学者コンスタンサ・チェルティが率いるアルゼンチン・ペルー合同遠征隊が、山頂で約500年以上前のインカ時代の子供3体のミイラを発見した。これらのミイラはカパコチャと呼ばれるインカの生贄儀式によって捧げられたものと考えられ、極めて良好な保存状態であった。当時の文献によれば、これらの子供たちはインカ帝国の繁栄を願う儀式に参加していたとされる。
発見された3体は、それぞれ「ラ・ドンセーヤ」（「乙女」の意、15歳少女）、「7歳男児」、「ラ・ニーニャ・デル・ラヨ」（「輝ける少女」の意、6歳女児）と通称される。後者の少女は、発見時に遺体や副葬品に雷が数度直撃した痕跡があったことからその名が付いた。これらのミイラは現在、サルタ州の考古学博物館に展示されている。
2013年の生物学的分析では、人身御供となる前年にコカの葉やトウモロコシを原料とするビール「チチャ」を摂取していたことなど、当時の生活や食習慣に関する新たな知見が得られた。
個々のミイラについて見ると、「ラ・ドンセーヤ」は壮麗な頭飾りを付けており、「太陽の処女」（アクヤ）として儀式のために選ばれ、王族の妻や尼僧、他の生贄候補の少女たちと共に過ごした可能性が指摘されている。茶色の衣服をまとい、複数の塑像と共に埋葬されていた。編み込まれた頭髪には白髪が数本見られ、生前の精神的ストレスを示唆するとも言われる。
男児のミイラは、衣服に血液が混じった吐瀉物が付着しており、肺水腫による窒息死の可能性が示唆されている。体は紐で縛られ、肋骨骨折や骨盤脱臼を引き起こすほど衣服が窮屈であった。
「輝ける少女」は死後、複数回雷が直撃した痕跡がある。額には金属板付きの頭飾りを着け、チチカカ湖やクスコ周辺で造られた壺と共に埋葬されていたことから、生前に長距離を移動したことが推測される。発見された3体の中で唯一、仰向けの姿勢であった。

地質

ユーヤイヤコ火山は、地質学的に複数の活動期を経て形成された。その基盤であるユーヤイヤコIは更新世に形成された古い火山体であり、活動によって生じた溶岩流が最大20kmにわたって流れ下り、地形を侵食した痕跡を残している。
その上に氷期以降から現在まで活動を続けるユーヤイヤコⅡが形成された。完新世の溶岩流はユーヤイヤコⅡから噴出し、火山の南北に広がった。南側の溶岩流の一つは3kmの長さに達している。
特筆すべき地質イベントとして、約15万年前にユーヤイヤコIの一部が大規模に崩壊したことにより発生した岩屑流がある。この崩壊堆積物は東のアルゼンチン側へ約17km流れ下り、チェロ・ロサド火山付近で分岐し、サラール・デル・ユーヤイヤコ塩湖まで到達した。この大規模な堆積物については、まだ詳細な研究が必要である。
歴史時代の噴火記録としては、1854年、1868年、1877年があり、これらの噴火による溶岩は外見が極めて黒いため、周辺で最も新しい溶岩流と考えられている。

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