ラジオマイク

ラジオマイク

ラジオマイクは、電波を用いて音声信号を伝送するマイクロホンの一種で、小型の送信機としての役割も果たします。有線ケーブルを使用せずに音声伝送が可能で、日本では一般的にワイヤレスマイクと呼ばれることが多いですが、これはイギリス英語に由来する表現です。アメリカ英語ではラジオマイク（radio microphone）という名称が一般的です。

定義

日本では、電波法によって「300万MHz以下の周波数の電磁波」を電波と定義しており、この定義に基づいて電波を使用するマイクロホンをラジオマイクと呼んでいます。本記事では、法令で使用される「ラジオマイク」という用語に焦点を当て、電波法令によって規制されるものを解説します。

赤外線を使用するワイヤレスマイクは、電波を使用しないため、本記事では言及しません。赤外線ワイヤレスマイクについては、別途参照してください。

電波法施行規則に基づく定義

電波法施行規則に基づく告示において、ラジオマイクは以下のように定義されています。

微弱無線局を規定する告示：「有線式マイクロホンのかわりに使用される無線電話用送信装置」
無線従事者を必要としない「簡易な操作」を規定する告示：「電波を利用するマイクロホン」

概説

電波法において、ラジオマイクは音声による「単向通信」または「同報通信」を、ごく狭い範囲で行うための無線設備とされています。

単向通信：特定の相手に対して、一方的に送信のみを行う通信方式。拡声機能を使用し、単数または少数の受信機を受信対象とします。
同報通信：特定の複数の受信機に対して、同時に同一内容の情報を送信する通信方式。個人が直接聴取することを想定し、多数の受信機を受信対象とします。

ラジオマイクの操作部は、主に電源スイッチや周波数変更スイッチなど、シンプルな構造となっています。

種別

ラジオマイクは、電波法に基づき、いくつかの種類に分類されます。

陸上移動局

陸上移動局として無線局の免許が必要ですが、「簡易な操作」の対象となるため、無線従事者の資格は不要です。通信相手は「免許人所属の受信設備」に限定され、単向通信を行うことを目的としています。

特定ラジオマイク

特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則によって認証された適合表示無線設備（技適マーク付き）であることが必須です。空中線電力は最大10mWに制限されています。

適合表示無線設備は、簡易な免許手続きで免許を取得できます。周波数帯は、以下のものが割り当てられています。

470～714MHz（テレビホワイトスペース帯）
1240～1260MHz（1.2GHz帯）

かつては779～806MHzの周波数帯（800MHz帯）も使用されていましたが、現在は使用できません。

特定ラジオマイクは、高音質を必要とする舞台芸術、放送、録音などに用いられ、A型ワイヤレスマイクとも呼ばれます。

テレビホワイトスペース帯と1.2GHz帯は、テレビ放送やFPU（放送事業用の無線通信回線）と周波数を共有しており、利用調整が必要となる場合があります。特に、放送事業との競合を避けるため、特定ラジオマイク運用調整機構（特ラ機構）への入会が推奨されています。

40MHz帯

40.6～50MHzの周波数帯が放送事業用として割り当てられており、40.68MHz、42.89MHz、44.87MHz、47.27MHzの4つのチャンネルが利用可能です。電波型式はF3E（FM）、空中線電力は最大10mWです。特定無線設備の技術基準に適合し、適合表示無線設備の認証を受けることで、簡易な免許手続きで利用できます。

小電力無線局

小電力無線局は、免許不要で使用できる無線局の一種で、適合表示無線設備であることが必須です。空中線電力は最大10mWです。

特定小電力無線局

特定小電力無線局には、ラジオマイク用と補聴援助用の2種類があります。周波数帯は、以下のものが割り当てられています。

ラジオマイク用
806.125～809.750MHz（125kHz間隔）
322.025～322.400MHz（25kHz間隔）
74.58～74.76MHz（60kHz間隔）
補聴援助用

ラジオマイク用特定小電力無線局は、用途によってB型、C型、D型に分類されます。

B型：高音質を重視する歌唱、演奏など
C型：音質を重視しない学校や駅のアナウンスなど
D型：劇場や展示会などの施設での案内放送など

補聴援助用ラジオマイクは、聴覚障害者向けに同報通信を行うもので、169MHz帯と75MHz帯が使用されます。

小電力データ通信システムの無線局

2.4GHz帯を使用するワイヤレスマイク（Bluetooth機器含む）は、小電力データ通信システムの無線局に分類されます。

デジタルコードレス電話の無線局

デジタルコードレス電話の規格の一つであるDECTは、欧州で開発されましたが、日本では独自に拡張されています。DECTは、時分割多元接続方式広帯域デジタルコードレス電話として、無線設備規則で技術基準が規定されています。J-DECTはコードレス電話以外の様々な用途への普及が進められており、ラジオマイクもその一つです。

DECTはマルチチャネルアクセス無線であり、ペアリングと呼ばれる登録作業が必要です。つまり、紐付けされた受信機に対してのみ単向通信を行います。

微弱無線局

微弱無線局は、免許不要で使用できる無線局の一種ですが、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則の対象外であり、適合表示無線設備ではありません。電波法に基づき、電界強度が規定されており、ラジオマイクに関連する周波数としては40.68MHzがあります。

市販されている微弱無線局の電波型式はF3E（FM）、周波数は40.68MHzです。簡易な拡声用として単向通信を行います。

その他の機器

「ラジオマイク」や「ワイヤレスマイク」という名称を使用していなくても、同様の機能を持つ機器が存在します。

小電力データ通信システムの無線局：2.4GHz帯を使用するワイヤレスインカムやベビーモニターなどがあります。
無線電話用特定小電力無線局：特定小電力トランシーバーがあり、C型・D型ラジオマイクの代替として使用できます。
微弱無線局：FMトランスミッターやミニFMなど、FM放送の周波数を使用する機器があります。

グループ・チャネル

複数の送信機を同一場所で使用する場合、周波数の混信を防ぐために、グループ分けやチャネル番号の設定が必要です。ARIB（電波産業会）の標準規格では、特定ラジオマイク、ラジオマイク用特定小電力無線局、補聴援助用ラジオマイク用特定小電力無線局について、グループやチャネル番号を定義し、利用することを推奨しています。DECTについては、告示に規定された周波数に、チャネル番号に相当するキャリア番号が定義されています。

規制事項

日本国内の制度は、海外では適用されません。外国規格の機器は日本では使用できず、海外で使用する場合は当該国の規制事項を確認する必要があります。

適合表示無線設備（技適マーク）：日本独自の制度であり、海外では無効です。
小電力データ通信システム：ISMバンドを使用するため、国ごとに法規制が異なります。

適合表示無線設備は、改造・分解が禁止されています。改造した場合は認証が無効となり、不法無線局となるため、注意が必要です。

旧技術基準の機器

旧技術基準に基づく無線設備は、2017年11月30日までに免許され、2022年11月30日まで使用が認められていましたが、現在では、他の無線局の運用に妨害を与えない場合に限り、使用可能とされています。対象となるのは、2005年11月30日までに製造された機器や認証された適合表示無線設備です。

DECT

DECTは、電気通信事業用の周波数帯を使用しており、ラジオマイクは劣後します。受信機には、電気通信事業用の電波を受信したら送信を停止するキャリアセンス機能が搭載されています。受信機が混信を感知すると、自動的に送信機の周波数を変更します。

ISMバンド

ISMバンド（27.12MHz、40.68MHz、2.4GHzなど）は、工業用高周波加熱装置や電子レンジなど、他の機器も使用しており、混信を受ける可能性があります。これらの機器からの電波の影響は、容認しなければなりません。

微弱電波

微弱電波は電界強度で規定されており、出力は明示されていません。微弱電波の範囲を超える機器の使用は、不法無線局の開設として取り締まりの対象となります。総務省は、微弱電波の範囲を超える恐れがある機器を調査し、問題のある場合は行政指導を行っています。微弱電波の証明を受けた無線設備には、微弱無線マーク（ELPマーク）が付与されています。

沿革

日本で最初に「ワイヤレスマイク」が使用されたのは、第二次世界大戦後にアメリカから導入された放送事業用の真空管式のものと言われています。電波法が施行された1950年当初は、ラジオマイクを想定した規定はなく、微弱無線局の規定がラジオマイクの規制根拠でした。その後、1955年に宝塚大劇場がワイヤレスマイクを導入し、劇場を中心に普及していきました。

1957年に微弱無線局の規定が改正され、ラジオ・マイクという定義が初めてなされました。その後、1981年に40MHz帯のラジオマイクが技術基準適合証明の対象となり、1989年に特定小電力無線局や特定ラジオマイクが制度化されました。以降、技術の進歩や法改正により、ラジオマイクの種類や制度が変化しています。

脚注

(省略)

関連項目

特定ラジオマイク
ラジオマイク用特定小電力無線局
補聴援助用ラジオマイク用特定小電力無線局
DECT
微弱無線局

外部リンク

電波産業会
特定ラジオマイク運用調整機構
中山純生、ワイヤレスマイクシステムについて 『電気設備学会誌』 2011年
ラジオマイクの最新動向 濱住啓之（ NHK技研R＆D 2014年1月号)

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