五番町夕霧楼 (1963年の映画)

五番町夕霧楼

『五番町夕霧楼』は、1963年11月1日に公開された日本映画です。水上勉の同名小説を原作とし、田坂具隆が監督を務めました。主演は佐久間良子。東映東京撮影所が製作し、東映が配給しました。

概要

この映画は、金閣寺放火事件を題材とした水上勉の小説を基に、女性の性を美しく、そして哀しく描き出しています。佐久間良子が演じる薄幸の女性・夕子の姿は、観る者の心を強く捉え、彼女の代表作となりました。演技派女優としての地位を確立するきっかけになった作品とも言えるでしょう。

あらすじ

貧しい家庭に生まれた夕子は、京都・五番町の遊郭に売られてしまいます。そこで彼女は、傷つき、苦しみながらも、自身の内に眠る魔性に目覚めていくのです。夕子の心の葛藤と、運命に翻弄される姿が、見る者の心を揺さぶります。

キャスト

片桐夕子：佐久間良子
櫟田正順：河原崎長一郎
酒前伊作：進藤英太郎
かつ枝：木暮実千代
久子：丹阿弥谷津子
敬子：岩崎加根子
照千代：木村俊恵
雛菊：霧島八千代
紅葉：清水通子
団子：谷本小夜子
きよ子：安城百合子
松代：標滋賀子
お新：赤木春恵
おみね：岸輝子
片桐三左衛門（夕子の父）：宮口精二
夕子の母：風見章子
菊市：北原しげみ
三田看護婦：山本緑
国木はん：東野英治郎
勇はん：小林寛
フーさん：河合絃司
鳳閣寺和尚：千田是也
鳳閣寺寺男／燈全寺寺男：織田政雄
燈全寺役僧1：相馬剛三
竹末甚造：千秋実

スタッフ

監督：田坂具隆
製作：大川博
脚色：鈴木尚之、田坂具隆
企画：岡田茂、亀田耕司、矢部恒
撮影：飯村雅彦
音楽：佐藤勝
美術：森幹男
編集：長沢嘉樹
録音：内田陽造
照明：川崎保之丞
スチル：加藤光男

製作経緯

企画

1963年、『人生劇場 飛車角』で東映の任侠映画路線を切り開いた岡田茂は、同作で佐久間良子を抜擢し、彼女がそれまでの清純派イメージを覆す演技を披露したことに着目しました。その佐久間の演技を見た岡田は、脚本家の鈴木尚之が持ち込んだ『五番町夕霧楼』のヒロインに彼女を起用することを決定します。

しかし、文芸作品は興行的に難しいという意見が社内には根強く、営業部などからは猛反対を受けました。それでも岡田は、この作品に自身のプロデューサーとしての真価がかかっていると覚悟し、周囲を押し切って製作を強行しました。大川博社長も、岡田の熱意に押され、最終的には製作を承認しました。

撮影

岡田は、本作で佐久間良子をエロチシズムの世界に引き込もうとしました。遊郭に売られた夕子が、初めて男に抱かれるシーンを、佐久間の裸を売り物にしようと考えました。清純派として知られていた佐久間の濡れ場は、話題になると確信していたのです。監督には、女優からの信頼が厚い田坂具隆が選ばれました。脚本は鈴木尚之が担当しました。

しかし、田坂監督は当初、濡れ場の演出を拒否しました。岡田が粘り強く説得した結果、田坂監督は佐久間の裸を直接的に描くのではなく、長襦袢姿で身をよじらせるという演出で表現しました。このシーンは映倫から「エロチックな連想を呼ぶ」と指摘されましたが、田坂監督は「この映画のテーマである女の悲しい性を表現するものだ」として、カットを拒否しました。最終的に、クローズアップを半分に短縮するという条件で決着しました。この騒動が、映画の公開前の宣伝効果を高め、大ヒットにつながりました。

佐久間は、この作品で本格的な女優としての道を歩み始めました。また、共演者もベテラン俳優たちが脇を固め、作品に深みを与えています。

セット

東映撮影所内には、京都五番町の遊郭を再現した巨大なオープンセットが作られました。原作者である水上勉も撮影所を訪れ、その完成度に驚いたといいます。また、夕子の故郷という設定で、京都府与謝郡伊根町でロケも行われました。

評価

興行成績

本作は、エロを前面に押し出した宣伝が功を奏し、大ヒットを記録しました。佐久間良子の人気を高めるとともに、東映の現代劇路線を確立する上で重要な作品となりました。

映画評論家からは、「佐久間良子は女優として大きく成長した」と評価され、彼女の才能が開花した作品として語り継がれています。

影響

本作は、京の遊郭の内情を公にした作品としても話題となりました。売春婦を扱った映画は過去にも多く製作されましたが、本作は性行為の場面を直接的に描いたことで、大きな衝撃を与えました。

本作の成功以降、映画界ではエロチシズムを売り物にした作品が量産されるようになり、一つのブームを巻き起こしました。このブームは、当時の低迷していた映画業界にとって、救世主のような存在となりました。

岡田茂は、この作品をきっかけに、エロティシズム要素を含んだ映画を数多く製作しました。しかし、その一方で、女優たちは自身のイメージの変化に苦しみ、テレビドラマに活躍の場を移すことになりました。しかし、佐久間良子は、この作品での経験が、自身の女優としての成長に大きく貢献したと語っています。

受賞歴

第37回キネマ旬報ベスト・テン3位
第14回ブルーリボン賞男優助演賞（河原崎長一郎）
サンケイ新聞社シルバースター主演女優賞（佐久間良子）
京都市民映画祭主演女優賞（佐久間良子）

同時上映

『おかしな奴』

主演：渥美清 / 監督：沢島忠 / 脚本：鈴木尚之

脚注

参考文献

『日本映画俳優全集・女優編』キネマ旬報社、1980年。
東映株式会社映像事業部（企画・編集）『東映映画三十年：あの日、あの時、あの映画』東映、1981年。
『クロニクル東映：1947-1991』 1巻、東映、1992年。
鈴木尚之 人とシナリオ出版委員会『鈴木尚之 人とシナリオ』日本シナリオ作家協会、1998年。ISBN 4-915048-08-X。
「東映50周年と千年の恋 ひかる源氏物語 変幻自在の50年 岡田茂インタビュー」『キネマ旬報』2001年12月上旬号。
岡田茂『悔いなきわが映画人生：東映と、共に歩んだ50年』財界研究所、2001年。ISBN 4-87932-016-1。
岡田茂『波瀾万丈の映画人生：岡田茂自伝』角川書店、2004年。ISBN 4-04-883871-7。
岡田茂（東映・相談役）×福田和也「東映ヤクザ映画の時代 『網走番外地』『緋牡丹博徒』『仁義なき戦い』の舞台裏は」『オール読物』、文藝春秋、2006年3月。
「反戦から時代劇、任侠、実録、エログロまで 欲望する映画 カツドウ屋、岡田茂の時代」『キネマ旬報』2011年7月上旬号。
富司純子他「鎮魂、映画の昭和 岡田茂他」『映画芸術』、編集プロダクション映芸、2011年8月号。
佐久間良子 (2012年2月). “私の履歴書”. 日本経済新聞社
春日太一『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』文藝春秋、2013年。ISBN 4-1637-68-10-6。

外部リンク

五番町夕霧楼 - allcinema
五番町夕霧楼 - KINENOTE
五番町夕霧楼 - 日本映画データベース

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