仁田忠常

仁田忠常：忠義と悲劇の生涯

仁田忠常（にった ただつね、1167年-1203年）は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武将です。伊豆国田方郡仁田郷（現在の静岡県函南町）を拠点とし、源頼朝に従い数々の戦場で武功を挙げました。その生涯は忠義に生きたものの、悲劇的な最期を遂げるという、波乱に満ちたものでした。

源頼朝への忠誠と武功

忠常は、源頼朝の挙兵に一族とともに参加。山木館の戦い、石橋山の戦いなど、初期の重要な戦役を戦い抜きました。石橋山の戦いでは兄が戦死するも、その後も頼朝への忠誠を貫き、大庭景親の降伏に貢献するなど、その武勇は頼朝からも高く評価されました。源義仲や平氏追討にも従軍し、畿内から九州まで転戦。頼朝の信頼は厚く、危篤に陥った際には頼朝が自ら見舞いに訪れたという逸話も残っています。奥州合戦にも従軍し、建久4年（1193年）には有名な曾我兄弟の仇討ちにおいて、兄の曾我祐成を討ち取るという重要な役割を果たしました。

比企能員の変と最期

頼朝死後は、二代将軍・源頼家に仕えました。頼家からも信頼が厚く、屋敷で小笠懸が催されるほどでした。頼家の嫡男・一幡の乳母父であったとする説もあります。建仁3年（1203年）には、頼家の命により富士山麓の人穴を探検するなど、その活動は多岐に渡りました。しかし同年、頼家が病に倒れると、事態は急変します。北条時政の命を受け、天野遠景と共に頼家の外戚である比企能員を殺害（比企能員の変）。この事件は、忠常の運命を大きく変える転換点となりました。

『吾妻鏡』によると、その後、危篤状態から回復した頼家から和田義盛と共に時政討伐の命令を受けますが、弟たちが北条義時を襲撃したことから、時政討伐の企てが露見したと判断された忠常は、帰宅途中に加藤景廉に討たれました。一方『愚管抄』では、頼家が既に家督を譲っていたことを知らなかった忠常が、後にその事実を知り、義時と戦って討たれたと記されています。享年37歳。仁田氏は、鎌倉御家人としての歴史に幕を閉じました。

数々の逸話

忠常には数々の逸話が伝わっています。富士の巻狩りでは、手負いの大猪を仕留めたとされ、その豪勇は『曽我物語』にも記されています。しかし、この猪は山神であったとされ、忠常の不幸は山神殺しの祟りであるという説もあります。また、富士の人穴探検も、富士の禁を破ったため命を縮めたとする伝承に繋がっています。

彼の妻、菊子も貞女として知られています。忠常が危篤に陥った際、夫の命を助けるため三嶋大社に願文を捧げ参詣したものの、嵐により命を落としたという悲しい逸話も残されています。

参考文献

太田亮『姓氏家系大辞典』
『大日本史料 第四編』
函南町 編『函南町誌』
玉山成元 著「証入」、国史大辞典編集委員会 編『国史大辞典』
青木晃; 池田敬子; 北川忠彦 編『真名本 曾我物語』
菊池紳一 著「仁田忠常」、国史大辞典編集委員会 編『国史大辞典』
梶原正昭; 大津雄一; 野中哲照 編『曾我物語』
細川涼一; 岩崎武夫「仁田四郎」『新版 日本架空伝承人名事典』

仁田忠常の生涯は、忠義と武勇に彩られた一方で、運命の皮肉ともいえる悲劇的な最期を迎えた物語です。彼の功績と悲劇は、鎌倉時代の歴史を語る上で重要な要素となっています。静岡県函南町には、現在も忠常の墓と館跡が残されており、歴史の重みを感じることができます。

もう一度検索