古代日本の地方官制

古代日本の地方官制は、律令制度が確立する以前から存在した地方行政の制度です。特に、701年（大宝元年）に制定された大宝律令によって、国・郡・里の三段階の行政組織に編成されました。しかし、その前史も重要であり、大宝律令以前にも様々な地方官制が存在しました。

地方官制のはじまり

県（アガタ）

4世紀から6世紀頃に存在したとされる地方行政組織です。『古事記』や『日本書紀』には、国造とともに県主が任命されたことが記されています。県は「吾が田」に由来するとも言われ、畿内や西日本に多く分布していました。特に、大王の直轄地としての性格が強く、平安時代までその伝統が続きました。

評（コホリ・コオリ）

6世紀後半から7世紀中頃に現れた行政区画です。屯倉の設置と関連して、評という行政単位が設けられました。屯倉の守衛には犬養部が用いられ、その設置時期は安閑天皇の頃（6世紀前半頃）と推測されます。

国造（くにのみやつこ）

大和政権が地方に派遣した豪族や、在地首長を任命した官職です。国造は、政治的・軍事的支配をそのまま認める形で、全国的に支配していました。『日本書紀』や『国造本紀』には、神武天皇の時代に最初の国造設置の記事が見えますが、全国的な設置は成務天皇の時代とされます。国造は、大和政権への従属の証として娘を采女として奉仕させたり、貢納物を納めたり、兵士の徴発に応じたりしました。また、「トモ＝伴」として大王の身辺のことを司る舎人、靫負、膳夫を差し出しました。これらの奉仕を負担する集団は「べ＝部」（部民制）とよばれ、「トモ」とあわせて、5世紀から7世紀にかけて「トモ-ベ」制（品部）として王権存立の基礎を成しました。

律令制下の地方官制・行政組織

国評里制

大化元年（645年）の大化の改新によって、地方の支配制度は大きく転換しました。大化の改新の詔には郡の規定がありましたが、大化5年（649年）には郡の前身である評が全国的に施行されました。国造の支配地域は行政区画としての評に変わり、8世紀には郡の前身の評が設けられました。国評里制では、国造氏族を含む地方首長を評督・助督に任命し、中央政府から派遣された国宰が管轄しました。

国[[郡里制]]

大化から白雉年間（645～654年）にかけて、旧来の国造の支配領域を再編し、評（コオリ）という行政区画が置かれました。701年（大宝元年）に制定された大宝律令で、国・郡・里の三段階の行政組織に編成されました。評里制（646～701年）、郡里制（701～716年）、郡郷里制（716～740年）、郡郷制（740年～）と変遷しました。

国は朝廷から派遣される国司が、郡は国造を優先的に採用した終身官である郡司が統治しました。国司は国庁、郡司は郡庁で政務を執りました。郡は規模によって大・上・中・下・小に分けられ、大領・少領・主帳などが置かれました。

交通制度

五畿七道

全国は畿内と七つの道に区分されました。畿内は、大和、河内、摂津、山背の四カ国からなり、後に和泉が加わって五畿内となりました。七道は、京を中心に四方に伸びる幹線交通路に沿った行政区分で、東海、東山、北陸、山陰、山陽、南海、西海です。西海道には大宰府が置かれ、国境の防衛や外交事務にあたりました。東北には多賀城を置いて周辺諸国を統率しました。

駅伝制（伝馬制）

中央からの伝達や官吏の往来、地方間の連絡、租税・物資の運搬を円滑に行うための制度として、駅伝制が整備されました。主要道に沿って約16キロごとに駅が置かれ、駅家が設置され、駅馬が配置されました。郡には伝馬が設けられました。駅には駅戸が付属し、駅長や駅子が置かれました。

京職

京（平城京・平安京など）には左右の京職が置かれ、京内の政務全般を司りました。京は御所からみて東側が左京、西側が右京です。縦横の大路によって碁盤目のように区画され、その区画を坊と条で区切り、各坊に坊長、左右京には条ごとに坊令（条令）が置かれました。

一時的な地方官制

摂津職
摂津国には摂津職が置かれ、国司の職務も兼ねました。難波津を管理し、京と西国間の公使の検査が主な任務でしたが、難波が陪都となると、その管理も担当しました。

和泉監・芳野監
和泉監と芳野監は特別行政区画として設置されましたが、後に廃止されました。和泉はその後国として独立しました。

河内職
道鏡が権力を握っていた時代に河内国司を格上げして河内職としましたが、道鏡失脚によって元に戻りました。

鋳銭使
鋳銭使は貨幣鋳造のための機関でしたが、一時的に長門国の行政も担いました。

社会情勢の変化による官制

天災による飢饉や疫病、盗賊や海賊の出現などにより、社会不安が広がったため、軍事的な手段で鎮圧する措置が取られました。

節度使・鎮撫使

節度使は地方軍政官の一種で、鎮所を持ち武装兵を従えていました。任務は所管する国々の軍団兵士の整備、訓練、兵器の修理、兵糧の準備でした。731年（天平3年）には畿内に惣管、山陰・山陽・南海道に鎮撫使が新設され、翌年には東海・東山道に藤原房前、山陰道に多治比県守、西海道に藤原宇合が節度使に任命されました。設置の目的は、東海・東山道が蝦夷の反乱に備え、山陰・西海道が新羅に対する海辺防備でした。

大宰・惣領

大宰とか総領が坂東、周防、伊予、吉備、筑紫に設けられました。この二つの官職は、白村江敗戦後の軍事緊張が高まっていた時期に西日本の軍事的に枢要な地域に置かれました。特に大宰は吉備と筑紫に限って置かれました。

道制

ある時期に「吉備道」という行政区画がありました。越、筑紫、豊、肥などにも「○○道」という行政区画が存在した時期がありました。これは、西日本や北陸に軍事的に重要な場所であり、軍事緊張が高まった天智・天武朝の短い期間であったと推測されます。

その他の施策

737年（天平9年）には陸奥と出羽を結ぶ道が開かれました。また、国分寺（僧寺・尼寺）が全国の令制国に建立され、一宮制度や惣社・総社も設けられました。

戸籍制度・地方行政組織関連の年表

689年（持統4年）：飛鳥浄御原令、諸司に令一部二十二巻をわかつ。
670年（天智9年）：全国的に戸籍（庚午年籍）を造る。
690年（持統4年）：戸令により戸籍（庚寅年籍）を造る。
702年（大宝2年）：大宝律令を諸国に領下する。
703年（大宝3年）：庚午年籍を戸籍の原簿とする。
717年（霊亀3年）：里を郷に改め、郷を2・3の里に分ける。
718年（養老2年）：養老律令を選定する。
723年（養老7年）：墾田開発のため、三世一身法を施行する。11月奴卑口分田の班給を12歳以上とする。

この詳細な記述は、古代日本の地方官制の変遷と、その背景にある社会情勢の変化を理解するための重要な資料となります。

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