小田切氏

小田切氏について

小田切氏（おだぎりし、おたぎりし、こたぎりし）は、日本の武家の一つであり、そのルーツは信濃国にあります。主に滋野氏の一族である海野氏の支流として発展しました。

氏族のルーツと各地への広がり

小田切氏の古い発音は「おたぎり」とされ、「たぎり」は「滾り」を意味し、崖状の地形を持つ激しい川の流れを指すとされます。これは、小田切氏がもともと川のそばに住んでいたことを示唆しているのかもしれません。また、伊那郡小田切邑（現在の長野県上伊那郡宮田村）をルーツとする別流もあり、この地では「こたぎり」と発音されるのが一般的です。

信濃滋野姓海野氏流（宗家）

小田切氏の本流は、平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した海野幸氏の子、尭元（小田切二郎）が、信濃国佐久郡小田切（現在の長野県佐久市）に住み着き、小田切を名乗ったことが始まりとされています。その後、水内郡小市（現在の長野県長野市安茂里小市）に移り住み、承久の乱では小田切奥太が鎌倉幕府方として宇治川で戦死しました。この奥太は、奥信濃に移った小田切氏の長男と考えられています。大塔合戦では、小田切氏は大文字一揆勢に加わり、信濃守護の小笠原長秀と戦いました。この頃、吉窪城を築き、小市に館を構えたと伝えられています。さらに、新田義貞の家臣である窪寺氏を追い、犀川を越えて更級郡北部にも進出しました。

弘治3年（1557年）の上野原の戦い（第三次川中島の戦い）では、吉窪城主の小田切幸長が落合氏と共に葛山城に籠城しますが、馬場信房らの猛攻を受け討ち死にしました。幸長の子である民部少輔は、初め武田勝頼に、後に上杉景勝に仕え、小市に住みました。子孫の中には、武田氏滅亡後、徳川家に仕え旗本となった者もいます。

その他の信濃の小田切氏

中野市や須坂市にも小田切氏が見られます。中野市一本木では、南北朝時代の僧である頼尊の子孫が小田切氏を名乗り、須坂市の小田切氏は海野氏の流れを汲むとされますが、詳細は不明です。須坂市の小田切氏は、油屋、糸師、呉服商を営み、須坂藩の御用達を務めました。同家からは、須坂製糸業の発展に貢献した小田切辰之助や、元山形県知事の小田切磐太郎、高井繭糸会社を設立した小田切常三郎が出ています。

庶家

小田切氏には、滋野氏（片桐氏流）や清和源氏草間氏流の系統も存在します。甲斐巨摩郡の小田切氏は、滋野氏または片桐氏の出身とされ、大黒坂聖応寺内金雞院には、小田切秋連の寄進状が残っています。また、御嶽衆にも小田切氏の名が見られます。文禄年間には、渡辺恒義が信濃の住人である草間左近を養子とし、その子孫が小田切氏を名乗ったとされています。

越後小田切氏

越後には、応永18年（1411年）に信濃から移住した小田切駿河守がおり、蒲原郡石間城を居館としました。後に蘆名氏に属し、会津風土記には、蘆名直盛の家臣であった小田切弾正が、石間、岡沢などの五村の領主であったと記されています。谷澤城も小田切甲斐守の居館であり、細越村にも小田切駿河が住んだとされる館跡があります。沼垂郡赤谷城も、天正年間に小田切氏の居館でした。新発田重家が謀反を起こした際、蘆名氏は小田切三河守を赤谷城に籠めて援兵としました。

武蔵小田切氏

武蔵国には、『風土記稿』によると、慶長年間に小田切将監が正光寺を開基したとされ、また、橘樹郡（現在の横浜市鶴見区）には、小田切美作守が住んでいたとされる屋敷跡があります。この屋敷は「殿屋敷」や「殿山」とも呼ばれていました。小田切美作守は、後に江戸に移り住んだと伝えられています。屋敷の一部は、名主の横溝氏に与えられ、現在も横溝屋敷として残っています。

その他の小田切氏

藤原氏の支流にも小田切氏があり、家紋は丸に蔦、抜簾です。大和にも藤原姓の小田切氏がおり、添下郡郡山城を本拠とする豪族で、信濃小田切氏の出身と推定されています。筒井順政の子である春政が養子に入り、藤原氏を称しました。春政は井戸氏、のちに小田切氏を継ぎ、郡山城を築き17000石を知行しました。また、源姓の小田切氏も確認されており、源頼朝上洛の兵にも小田切太郎の名が見えます。また、津軽地方には小田切の異形である小田桐も多く見られます。

伊那郡小田切邑小田切氏（宗家）

伊那郡の小田切氏は、橘朝臣と伝えられています。小田切良満は、源頼朝の命により菅冠者平友則を討ち、その功によりこの地を領地として与えられました。戦国時代には、小田切正則が武田信玄に抵抗して、他の上伊那の豪族と共に木曽へ攻め込みましたが、武田信玄によって磔刑に処され、長谷の「八人塚」に祀られています。宮田村南割の小田切氏は屋号を「大南」といい、江戸時代には名字帯刀を許された庄屋として家名を継ぎました。

会津若松藩士 小田切氏

会津藩には、高遠藩主であった保科正之が会津若松藩に移封される際、高遠領内から連れて行った武士の中に、宮田村小田切氏がいたとされています。会津藩の松平家所蔵の「諸氏系譜」にも、宮田村小田切との記述があります。


小田切氏は、そのルーツを信濃国に持ちながらも、各地に広がり、それぞれの地で歴史を刻んできた氏族です。武士として戦った者もいれば、商人として地域経済を支えた者もおり、多様な側面を持っています。彼らの足跡は、日本の歴史を語る上で欠かせない要素の一つと言えるでしょう。

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