市房山

市房山：九州南部の霊峰と豊かな自然

九州山地の南部にそびえる市房山は、標高1,720.8mを誇る雄大な山です。熊本県水上村、宮崎県椎葉村、西米良村の3つの自治体にまたがるその姿は、古来より地元住民に信仰の対象として崇められてきました。霊峰としてだけでなく、多様な動植物が生息する豊かな自然環境も魅力の一つです。

地理と地質：花崗岩と四万十層群の織りなす風景

市房山の地質は北部と南部で大きく異なります。北部は花崗岩の貫入岩帯、南部は四万十層群を基盤としており、山頂付近では花崗岩が露出しています。約1400万年前の新生代中新世にマグマが四万十層群に貫入し、冷却固化することで形成されたこの花崗岩は、約75平方キロメートルに及ぶ広大な面積を占めています。黒雲母を含むこの花崗岩は、市房山の独特の景観を形作っています。東側には一ツ瀬川がV字谷を刻み込み、壮年期の山容を際立たせています。

豊かな自然環境：多様な動植物の宝庫

年間降水量は約3,200mmと多く、豪雨地帯に指定されています。この豊富な水資源が、多様な生態系を育んでいます。かつては山麓から山頂にかけて、シイ・カシ、モミ・ツガ、ブナなどの多様な植生が層をなしていましたが、宮崎県側を中心に開発が進んだ結果、原生林は山頂付近にわずかに残るのみとなっています。現在ではスギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツなどの植林が中心となっています。しかしながら、市房山全体では8,000種類以上の植物が生息し、ツクシイワシャジンやイチブサヒメシャラなどの固有種も確認されています。さらに、市房山を南限とする植物も30種以上存在するなど、植物学的にも貴重な山と言えます。4月下旬から5月上旬にかけてはアケボノツツジが咲き誇り、10月中旬には紅葉が見頃となり、四季を通じて美しい景観を楽しむことができます。

鳥類についても、アオバズクやオオルリなど、様々な種類が生息しており、豊かな自然環境を物語っています。

登山：アクセスとルート

市房山への登山は年中可能です。積雪期（12月～2月）と夏季（7月・8月）を除く期間が登山シーズンとされています。日帰り登山も可能です。登山ルートは水上村、西米良村の2方向からアクセスできますが、椎葉村からの登山道はありません。

水上村からのルートは、市房神社から始まり、市房山キャンプ場を経由するコースが一般的です。このルートは、3～7合目が木の根や岩が多く険しいですが、7～8合目は比較的平坦で、8合目から山頂までは急坂ながらも歩きやすい道となっています。登頂までには約4時間かかります。

西米良村からのルートは、槙ノ口からのコースが一般的です。上り4時間20分、下り3時間10分と、水上村からのルートよりも時間がかかります。

いずれのルートも、登山道の整備状況や、心見橋方面の登山道閉鎖情報などを事前に確認することが重要です。

アクセス

公共交通機関を利用する場合は、くま川鉄道湯前線湯前駅から九州産交バス市房登山口行きに乗車して終点下車します。マイカーの場合は、九州自動車道人吉球磨スマートインターチェンジから約38kmです。

市房山の文化

市房山は「米良三山」の一つであり、球磨・米良地方では古くから信仰の対象とされてきました。水上村湯山の市房神社では、旧暦3月15日に「お岳参り」と呼ばれる伝統行事も行われています。この行事は、市房山への信仰と、地域住民の深い結びつきを示す重要な文化遺産となっています。

市房山は、豊かな自然と歴史、文化が一体となった貴重な存在であり、これからも多くの人の心を惹きつけていくことでしょう。

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