是定

是定（ぜじょう）とは

是定とは、氏長者が氏爵の対象者を推挙する際、その職務を本来の氏族とは異なる者が代行する制度のことです。主に王氏と橘氏において見られました。氏爵とは、氏族の功績に応じて一族の中から叙爵者を推挙する制度であり、氏長者がその権限を行使するのが一般的でした。しかし、王氏と橘氏においては、特別な事情から他氏の者がその役割を担うことになったのです。

概要

王氏・源氏・藤原氏・橘氏の四氏は、氏族の中から毎年、氏爵によって叙爵する者を推挙する権利を持っていました。源氏と藤原氏は氏長者がこの権限を行使していましたが、王氏は第一親王、橘氏は他氏の公卿が代行しました。この権限は、推挙する者を「是とし定める」ことから是定と呼ばれ、是定の奉書は是定宣と呼ばれました。

王氏における是定

王氏とは、皇親（天皇の親族）の集団を指す呼称ですが、王氏の氏爵は、王氏出身者ではない第一親王（親王の中で最も官位の高い者）が担当しました。例えば、天暦7年（953年）の元平親王や、長元4年（1031年）の敦平親王が是定として知られています。院政期に法親王の制度が確立し、世俗の親王が減少すると、花山天皇の子孫で神祇伯を世襲した白川伯王家が氏爵を行うようになりました。ただし、白川伯王家は当主自身が王氏長者を称したため、是定とは呼ばれませんでした。宝徳元年（1449年）には、氏爵の権限が再び第一親王に移り、王氏是定制が復活しました。

橘氏における是定

橘氏では、永観元年（983年）に参議・橘恒平が亡くなって以降、公卿が途絶えました。そのため、氏院（学館院）を管理する長者と、氏爵を行う是定が分離しました。『西宮記』に是定の記述があることから、源高明が失脚する安和2年（969年）以前には、すでに他氏の公卿が橘氏の氏爵を代行する慣例が成立していたと考えられます。『西宮記』には、橘氏是定の具体例として「大納言源卿、右中将藤原卿、十五親王」が挙げられており、前の2名は不明ですが、十五親王は醍醐天皇の皇子・盛明親王であると考えられています。

寛和年間（985年 - 987年）には、藤原道隆の外祖母が橘氏出身であったため、橘氏是定の地位は藤原北家が獲得しました。ただし、源俊賢・源師房・源俊房・源有仁も是定に就任しているため、藤原北家が独占したわけではありません。『西宮記』には、是定は橘氏外戚の者が宣旨を賜って就任するとありますが、道隆以降の橘氏是定には橘氏と血縁関係のない源俊賢が含まれており、その原則は必ずしも守られていなかったことがうかがえます。

室町時代中期には、六位蔵人の家柄であった橘氏の薄以盛が後花園天皇の近臣として昇進を重ね、享徳2年（1452年）に公卿（従三位非参議）となりました。これを機に、是定は薄家が継承することになりましたが、薄以緒が菅原氏の唐橋家から養子に入るなど、他氏からの養子が相次ぎました。天正10年（1582年）には、薄諸光が豊臣秀吉に切腹させられ、薄家は絶家となりました。

まとめ

是定は、氏爵制度における例外的な措置であり、氏族の状況や政治的な背景によって、その担い手が変遷しました。王氏と橘氏という特定の氏族において見られたこの制度は、当時の貴族社会の複雑な人間関係や権力構造を反映していると言えるでしょう。

参考文献

竹内理三 「氏長者」『律令制と貴族政権.第2部』御茶の水書房、1958年（昭和33年）。
宇根俊範 「氏爵と氏長者」『王朝国家国政史の研究』坂本賞三編、吉川弘文館、1987年（昭和62年）。
小松馨　「白川伯王家の成立」『神道宗教』116、1984年（昭和59年）。

関連項目

橘氏
神祇伯
氏長者
* 氏爵

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