曇鸞

曇鸞（どんらん）

曇鸞は、中国南北朝時代に活躍した僧侶であり、中国浄土教の開祖として知られています。浄土宗では「浄土五祖」の第一祖、浄土真宗では「七高僧」の第三祖として位置づけられ、それぞれ「曇鸞大師」「曇鸞和尚」と尊称されています。

生涯

曇鸞は、五台山に近い雁門郡広武県（現在の山西省忻州市代県）で生まれました。正確な生没年は不明ですが、北魏末期から北斉時代にかけての人と考えられています。

出家後、龍樹の思想を継承する四論（『中論』『十二門論』『大智度論』『百論』）や、『涅槃経』の仏性義を学びました。しかし、『大集経』の注釈中に病に倒れたことがきっかけで、不老長寿の術を求めて茅山の陶弘景のもとで「仙経」を学びました。帰路の途中、洛陽で菩提流支に出会い、仏教こそが真の不死の教えであると諭され、『観無量寿経』を授けられました。この出会いを機に、曇鸞は「仙経」を焼き捨てて浄土教に帰依し、研鑽を積みました。并州の大巌寺に住した後、石壁山の玄中寺、さらに汾州平遥山の遥山寺に移り、そこで生涯を終えました。没後、勅命により汾西の大陵の文谷に葬られました。

著作

曇鸞の主な著作として、以下のものがあります。

『無量寿経優婆提舎願生偈註』
一般には『浄土論註』、『往生論註』、または単に『論註』と呼ばれています。世親（天親）が著した『無量寿経優婆提舎願生偈』（『浄土論』）の注釈書であり、正確には『浄土論』が『無量寿経』の注釈書であるため、復注釈書にあたります。
この書は、末法の時代において、自力ではなく阿弥陀仏の他力による浄土往生こそが成仏への道であると説いています。特に下巻の末尾では、すべてが他力の働きによるものであると明快に論証しています。この思想は、後世の道綽、善導、日本の源信、法然、親鸞らに大きな影響を与え、特に親鸞の教義の根幹を形成しています。
『讃阿弥陀仏偈』
阿弥陀仏を讃える偈文です。阿弥陀仏の荘厳さ、浄土に生まれた衆生の様子、極楽浄土の美しさを、美麗な言葉で称賛しています。最後に、極楽浄土への帰依が、すべての仏国土への帰依につながると述べ、自身が阿弥陀一仏に帰命することを宣言しています。

疑義のある著作

『略論安楽浄土義』
伝統的に曇鸞の著作とされてきた浄土教の重要な典籍ですが、流布の経緯から曇鸞の真作かどうか疑われています。浄土真宗の開祖である親鸞も、自著においてこの著作を引用していません。

関連事項

七高僧
阿弥陀三尊
往生

参考文献

『岩波仏教辞典』 岩波書店、第二版：2002年
早島鏡正・大谷光真訳著 『浄土論註　佛典講座』 大蔵出版、1987年、新装版：2003年
神戸和麿訳注 『曇鸞 浄土論註』 ＜大乗仏典 中国・日本篇5＞中央公論社、1993年。
『曇鸞 藤堂恭俊　道綽 牧田諦亮　浄土仏教の思想 第4巻』 講談社、1995年
『曇鸞の世界　往生論註の基礎的研究』 論註研究会編、永田文昌堂、1996年
『曇鸞浄土教形成論　その思想的背景』 石川琢道、法蔵館、2009年
溪英俊「『略論安楽浄土義』についての一考察」『印度學佛教學研究』第60巻第1号、日本印度学仏教学会、2011年、27 - 30頁。

外部リンク

SAT DB（大正新脩大藏經テキストデータベース） 律疏部・論疏部 Vol.40 『無量壽經優婆提舍願生偈註』卷上
SAT DB（大正新脩大藏經テキストデータベース） 律疏部・論疏部 Vol.40 『無量壽經優婆提舍願生偈註』卷下
SAT DB（大正新脩大藏經テキストデータベース） 諸宗部 Vol.47 『讃阿彌陀佛偈』

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