朱肜

朱肜（しゅ ゆう）

朱肜（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前秦に仕えた人物です。京兆郡（けいちょうぐん）の出身。

生涯

当初は隠遁生活を送っていましたが、苻堅（ふけん）からの度重なる出仕要請には応じませんでした。しかし、359年12月、苻堅が王猛（おうもう）を重用し、官職の領選を委ねようとした際、王猛は朱肜にその任を譲るよう上奏しました。苻堅はこれを認めなかったものの、朱肜を尚書侍郎（しょうしょじろう）・領太子庶子（りょうたいししょし）に取り立てました。

その後、朱肜は羽林左監（うりんさかん）に任じられ、371年3月には、仇池（きゅうち）の内乱鎮圧のため、苻雅（ふが）・楊安（ようあん）・徐成（じょせい）・姚萇（ようちょう）らと共に7万の兵を率いて仇池へ侵攻しました。鷲峡（しゅうきょう）で仇池公の楊纂（ようさん）率いる5万の兵と激突し、これを破りました。さらに東晋の援軍も破り、楊纂を降伏させました。

その後、秘書監（ひしょかん）に任じられ、373年冬には、王統（おうとう）と共に2万の兵を率いて漢川（かんせん）へ侵攻し、東晋の梁州刺史（りょうしゅうしし）楊亮（ようりょう）を破って漢中（かんちゅう）を攻略しました。さらに、益州刺史（えきしゅうしし）周仲孫（しゅうちゅうそん）を綿竹（めんちく）で破り、成都（せいと）を制圧しました。

376年10月、苻堅が北討大都督（ほくとうだいととく）苻洛（ふらく）に幽州兵（ゆうしゅうへい）を与え、代王（だいおう）拓跋什翼犍（たくばつじゅうよくけん）を攻撃させた際、朱肜は倶難（くなん）・鄧羌（とうきょう）・張蚝（ちょうこう）らと共に20万の兵を率いて苻洛軍に合流し、代を滅ぼしました。

378年9月、苻堅が群臣と酒宴を催した際、朱肜は酒正（しゅせい）に任じられ、限界まで飲まされました。これを見た趙整（ちょうせい）が《酒徳之歌（しゅとくのか）》を作り、苻堅を諫めました。苻堅はこれを喜び、宴での過度な飲酒を戒めました。

380年2月、苻堅が太学生（たいがくせい）に兵法を教授させようとした際、朱肜はこれを諫め、「武事を収め、文徳を増修すべき」と説きました。苻堅はこれを聞き入れ、計画を中止しました。

382年10月、苻堅が東晋討伐の是非を群臣に諮った際、朱肜は討伐を支持し、苻堅を大いに喜ばせました。

これ以降、朱肜の名は史書に登場しません。

逸話

374年12月、明光殿（めいこうでん）に侵入した者が「甲申（こうしん）・乙酉（いつゆう）の年、魚羊（ぎょよう）が人を食う」と叫びました。朱肜は趙整と共に鮮卑（せんぴ）の誅殺を請いましたが、苻堅は聞き入れませんでした。果たして384年に鮮卑が反乱を起こし、翌年には苻堅は命を落としました。

ある時、苻堅が逍遙園（しょうようえん）で宴を催した際、朱肜は洛陽（らくよう）の少年の詩を苻堅に献上し、その才能を認めさせました。

参考文献

『晋書（しんじょ）』巻113、巻114
『資治通鑑（しじつがん）』巻100 - 巻104
* 『十六国春秋（じゅうろっこくしゅんじゅう）』巻42

もう一度検索