苻雅

苻雅（ふ が）

苻雅（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前秦に仕えた皇族であり、卓越した軍事的手腕と人道的な行いで知られています。苻堅の一族の末流として、彼の生涯は前秦の興亡と深く結びついています。

生涯

苻雅は、苻生の時代に右衛将軍に任じられ、そのキャリアをスタートさせました。357年、苻堅が帝位に就くと、西県侯に封じられ、その地位を確立しました。その後、左衛将軍に昇進し、軍事における重要な役割を担うようになりました。

367年、趙公苻双と晋公苻柳が苻堅に対して反旗を翻すと、魏公苻廋と燕公苻武もこれに呼応し、長安への共同侵攻を計画しました。368年3月、苻堅は武衛将軍の王鑒と寧朔将軍の呂光に精鋭を率いて苻双と苻武の討伐を命じ、苻雅は左禁将軍の竇衝と共に羽林7千騎を率いて後詰を務めました。

同年4月、前秦軍は隃麋で苻双らの軍勢と激突し、大勝利を収めました。この戦いで1万5千もの兵を討ち取るか捕縛するという大きな戦果を挙げ、苻双と苻武を上邽へ敗走させました。前秦軍は追撃の手を緩めず、上邽へ侵攻し、同年7月、ついに上邽を攻略し、苻双と苻武を捕らえることに成功しました。この功績により、苻雅は秦州刺史に任じられ、上邽の住民を慰撫する任務に当たりました。

371年2月、苻雅は使持節・都督秦晋涼雍四州諸軍事・秦州刺史に任じられ、より広範囲な地域における軍事・行政の責任者となりました。

同年3月、仇池で内乱が発生すると、苻堅の命により、苻雅は梁州刺史の楊安、并州刺史の徐成、羽林左監の朱肜、揚武将軍の姚萇らと共に歩騎7万を率いて仇池へ侵攻しました。前秦軍は鷲峡まで進軍しましたが、楊纂が5万の兵でこれを阻みました。また、東晋の梁州刺史である楊亮も督護の郭宝と卜靖に1千騎余を与えて仇池救援に向かわせました。両軍は峡中で激突し、楊纂は兵卒の3・4割を失う大敗を喫しました。さらに前秦軍は東晋軍も破り、郭宝とト靖を戦死させました。楊纂は敗残兵をまとめて撤退し、苻雅は仇池まで侵攻すると、楊統は武都の衆を率いて降伏しました。楊纂配下の楊他は、子の楊碩を苻雅の下へ密かに派遣して帰順を申し出て、内応を約束しました。この動きに危機感を抱いた楊纂は、自らを縛って降伏しました。苻雅はその縄を解き、楊纂を長安へ護送しました。

これ以降、苻雅の記録は史書には見られませんが、『太平御覧』が引く『秦書』によると、尚書令に任じられたとされています。

人物・逸話

苻雅は、その卓越した権略と雄毅にして重厚な人柄から、人々より良将の才があると称賛されました。前涼の涼州牧である張瓘が前秦からの使者である閻負と梁殊に対し、前秦にはどのような名臣・名将がいるかと尋ねた際、閻負らは李威と共に苻雅の名を挙げ、その雄毅さと深慮遠謀を高く評価しました。

また、苻雅は施しを好む人物としても知られており、食糧を求める人々が彼の門を埋め尽くすほどでした。彼は「今日、天下の物品は常に我の下にあるが、どうして後日貧しくならない事があろうか」と述べ、一日たりとも施しをせずにいると落ち着かなかったと伝えられています。当時の人々は「権翼の富は何も為さないが、苻雅の貧は寧を作る」と評し、彼の慈善的な行いを称賛しました。

参考文献

『晋書』巻112 載記12、巻113 載記13
『資治通鑑』巻101、巻103
* 『十六国春秋』巻35、巻36、巻40

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