東濃の戦い

東濃の戦いとは

東濃の戦い（とうのうのたたかい）は、慶長5年（1600年）に関ヶ原の戦いの前哨戦として、美濃国東部（現在の岐阜県東濃地方）と木曽谷一帯で発生した一連の戦闘です。この戦いは、豊臣秀吉の死後、徳川家康と石田三成の対立が深まる中で、旧領を奪われていた大名たちが、家康の支援を受けて失地回復を目指したことが発端となりました。

戦いの背景

慶長5年7月25日、下野国小山（現在の栃木県小山市）で徳川家康は、会津征伐の中止と西への進軍を決定しました（小山評定）。この際、家康は石田三成に同調する者は帰国すべきと宣言しました。

美濃岩村城主の田丸直昌は、豊臣秀吉の恩義を忘れられず帰国を申し出ます。家康は彼を誉め、帰国を許しました。田丸直昌は喜んで帰国し、家臣の棚橋五介を先遣隊として岩村城に入城させ、城代の田丸主水に西軍に味方するよう指示しました。

また、郡上八幡城主の稲葉貞通と連携し、当時尾張犬山城主であり、太閤蔵入地としての木曽代官を兼務していた石川貞清を支援し、家康の西上を阻止しようとしました。石川貞清は家臣の原兄弟に贄川の砦を守らせました。

当時の木曽・東濃地域を支配していた大名はほとんどが西軍に味方しました。これに対し、家康は木曽氏を改易後に浪人していた山村良勝、千村良重、馬場昌次らを召し抱え、さらに東濃の国衆で森長可に領地を奪われていた遠山友政、遠山利景、小里光親、妻木頼忠らに、故郷で兵を挙げ、城を奪還するように命じました。

8月2日、小里光親は遠山利景・方景父子と共に江戸を出発し、東海道を経て足助に到着しました。家康は遠山友政に木曽路と美濃への道筋を詳細に尋ね、鉄砲や弾薬、黄金を与えました。

8月8日、遠山友政は山村良勝らと共に館林を出発し、木曽へ進軍を開始しました。東軍は家康が率いる本隊が東海道を、徳川秀忠が率いる別働隊が中山道を進みました。

贄川の砦の突破

木曽路制圧のために出発した馬場昌次は病のため同行できず、嫡男の馬場利重と共に小山に留まり、木曽への軍用にあたりました。山村良勝と千村良重は、小山で東軍に加わり中山道を先導する際に、木曽氏の遺臣に東軍に加わるよう呼びかけました。

塩尻で山村良勝の弟・山村八郎右衛門が、甲斐で弟・山村清兵衛が合流しました。8月12日、犬山城主で木曽代官の石川貞清の家臣で贄川の砦を守っていた木曽氏旧臣の内応により、山村良勝と千村良重の軍勢はほとんど抵抗を受けることなく砦を突破し、木曽谷を平定、妻籠城に入り、美濃へ向けて進軍しました。

苗木城の奪還

当時、美濃苗木城の城主は河尻直次でしたが、河尻は大阪城の警護を命じられ西軍に属していたため、苗木城には城代の関盛祥が籠もっていました。遠山友政は家康から軍需品を与えられ、8月末に山村良勝、千村良重らと共に苗木領に入りました。

遠山勢は中津川村や駒場村に放火し、近隣の農民を味方に引き入れ、苗木城に迫りました。関盛祥は家臣と共に苗木城を出て退却し、遠山友政は苗木城を奪還しました。

妻木氏の奮戦

妻木頼忠は、石川貞清から西軍に味方するよう勧められましたが、家康の恩に報いるため拒否しました。妻木城は東濃における東軍の重要な拠点となり、家康は妻木城の修繕のために人足を派遣しました。妻木頼忠は弟を家康のもとに派遣し、味方することを伝え、息子を人質として送りました。

岩村城代の田丸主水は周辺の庄屋を誘い、人質を取りました。妻木頼忠は、田丸方に味方すれば家康の討伐を受けることになると近隣の村々に伝え、曽木村に田丸勢が侵入すると、家臣を派遣して撃退しました。柿野村への侵入も撃退しました。

妻木頼忠は、土岐口の追沢砦に兵を配置し、田丸勢の侵入を阻みました。その後、丹羽氏信からの援軍を加えて神篦・高山の両城を包囲し、家康に状況を報告しました。田丸勢は池田村、多治見村に進軍しようとしましたが、妻木勢に撃退されました。その後、妻木勢は柿野の戦いでも勝利し、高山城を自焼させ、神篦城を制圧しました。

土岐口畷の戦い

池田村と長瀬村に人質を取りに来た田丸勢を、妻木貞徳・頼忠親子が立石で待ち伏せ、鉄砲で攻撃しました。田丸勢は人質を捨てて逃走しました。

妻木城の防戦

田丸方は妻木城を攻撃することにし、寺沢吉右衛門を前陣、木原清左衛門保氏を後陣として兵を進めました。妻木頼忠は、伏兵を配置し、山神・清水の両口に陣を敷き、大滝洞の水源を堰き止め、妻木城には城代を置いて守りを固めました。

明知城の奪還

遠山利景は小里光親と共に明知城を攻撃し、9月2日に奪還しました。

十三河原の戦いと小里城の奪還

小里光親等の東軍が神篦城を攻めた際、十三河原で激戦が繰り広げられ、多くの戦死者が出ました。9月3日には、小里光親が小里城を奪還しました。

岩村城の奪還

東濃諸氏が岩村城と神篦城を包囲していた9月15日、関ヶ原の戦いは東軍の勝利で終結しました。9月18日、徳川秀忠が中山道を通って西に向かいました。9月25日に神篦城の田丸勢が降伏し、小里光親が入城しました。残るは岩村城のみとなりました。

岩村城に籠っていた田丸主水は、神篦城の降伏を聞いて戦意を喪失し、遠山友政を大将とする東濃諸氏に岩村城を包囲されました。遠山友政は開城を促し、田丸主水は開城を承諾し、家臣を退散させ、自らは夜に城を出て去りました。

戦いの終結と影響

東濃の戦いは、関ヶ原の戦いに先駆けて東軍が勝利を収めた戦いであり、その後の関ヶ原の戦いにおける東軍の勝利に大きく貢献しました。この戦いを通じて、家康は東濃地方の制圧を確実なものとし、西軍に対する優位性を確立しました。また、旧領を回復した諸大名たちは、その後の江戸幕府において重要な役割を担うことになりました。

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