源弘

源弘（みなもと の ひろむ）

概要

源弘は、平安時代初期に活躍した公卿であり、嵯峨天皇の皇子として生まれました。嵯峨源氏の一人として、その生涯を通じて政治や文化に貢献しました。温厚で仁愛深い性格でありながら、明晰な頭脳と決断力を持ち合わせ、多くの人々に信頼されました。特に学問を好み、経書や史書を深く読み解いたと伝えられています。官位は正三位・大納言にまで昇り、その才能を遺憾なく発揮しましたが、52歳という若さで病のためこの世を去りました。

生涯

臣籍降下と初期の官歴

弘仁5年（814年）、兄弟である信と常とともに源朝臣の姓を賜り、臣籍に降下しました。この時、左京一条一坊に貫付されました。その後、淳和天皇の時代である天長5年（828年）には、无位から従四位下に直叙されるという異例の昇進を果たしました。天長7年（830年）には、従四位上・宮内卿に任じられ、着実にキャリアを積み重ねていきました。

仁明朝での活躍

仁明天皇の時代に入ると、承和元年（834年）に正四位下に叙せられ、治部卿や刑部卿などの要職を歴任しました。承和9年（842年）には、同い年の弟である常よりも遅れて参議に任じられ、公卿の仲間入りを果たしました。参議としては、治部卿と左大弁を兼任し、政務能力を発揮しました。その後も、承和14年（847年）に従三位、嘉祥元年（848年）には中納言へと昇進しました。

山崎橋の修復と地方行政

嘉祥元年（848年）には、水害で流失した山崎橋の修復のために、安倍安仁、滋野貞主、伴善男らと共に現地へ派遣されました。この出来事からも、朝廷からの信頼の厚さが伺えます。また、播磨権守、信濃守、美作守、尾張守など地方官も兼任し、地方行政にも携わりました。

大納言への昇進と晩年

仁寿元年（851年）には正三位に叙せられ、清和天皇の時代である貞観元年（859年）には大納言にまで昇りつめました。しかし、貞観5年（863年）1月25日、当時流行していた咳逆病によって、弟の定と相前後して亡くなりました。享年52歳。最終的な官位は、大納言正三位でした。

人物像

源弘は、温厚で仁愛に満ちた人物であったと伝えられています。政務にも精通しており、決断力にも優れていました。幼い頃から学問を好み、特に経書や史書を深く読み込んだと言われています。嵯峨天皇の皇子の中でも、最も向学心があったとされ、天皇から特別に経書を賜与されるほどでした。書物に対する情熱は非常に高く、多くの書籍を所有していたにもかかわらず、読書に飽きることはなかったと伝えられています。

また、管弦にも通じ、公務を終えた後は琴を奏でたり、読書を楽しんだりしたとされています。さらに、隷書にも秀でており、文化的な才能も持ち合わせていました。漢詩人としても知られ、彼の漢詩作品は『経国集』にも採録されています。

官歴

弘仁5年（814年）5月8日：臣籍降下（源朝臣）、貫付左京一条一坊
天長5年（828年）1月24日：従四位下（直叙）
天長7年（830年）6月4日：従四位上。8月5日：宮内卿
天長9年（832年）1月11日：兼播磨権守
天長10年（833年）3月24日：兼信濃守
承和元年（834年）1月7日：正四位下
承和2年（835年）1月11日：兼信濃守。5月20日：刑部卿、信濃守如故
承和3年（836年）1月11日：兼美作守
承和5年（838年）8月5日：治部卿、美濃守如元
承和9年（842年）7月：解職（父服喪）。7月25日：参議。9月：複本官治部卿
承和12年（845年）1月11日：兼尾張守
承和13年（846年）1月13日：左大弁、尾張守如元。12月8日：班山城田使長官
承和14年（847年）1月7日：従三位
承和15年（848年）1月10日：中納言
仁寿元年（851年）11月26日：正三位
貞観元年（859年）12月21日：大納言
貞観5年（863年）1月25日：薨去（大納言正三位）

系譜

父：嵯峨天皇
母：上毛野氏
妻：阿保親王の娘
七男：源悦（856-930）
生母不詳の子女
男子：源同
男子：源撰
男子：源雙
四男：源弼
男子：源道
六男：源希（849-902）
男子：源愗
男子：源就
男子：源昭
男子：源近

参考文献

森田悌『続日本後紀』（上下巻）、講談社〈講談社学術文庫〉、2010年
武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 上巻』戎光祥出版、2009年
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
『尊卑分脈 第三篇』吉川弘文館、1987年

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